アルツハイマー病の発症機序として,アミロイドβの沈着(老人斑)が引き金となり,異常にリン酸化したタウ蛋白が凝集し,神経原線維変化が形成され,神経細胞死に至るという「アミロイドカスケード仮説」が支持されています.睡眠薬の二重オレキシン受容体拮抗薬(OX1R/OX2R デュアルアンタゴニスト)は,アミロイドβを過剰発現するマウスモデルにおいて,アミロイドβと老人斑を減少させることが示されていますが,タウのリン酸化への影響は不明です.今回,米国ワシントン大学から,二重オレキシン受容体拮抗薬スボレキサント(商品名ベルソムラ)がヒト脳脊髄液のアミロイドβ,タウ,リン酸タウに対して効果をもたらすか検証したランダム化比較試験がAnn Neurol誌に報告されました.
参加者は45~65歳の認知機能に障害のない38名で,偽薬群13名(グラフの赤),スボレキサント10mg群13名(青), 20mg群12名(緑)に無作為に割り付けました.20:00から36時間,2時間ごとに腰椎留置カテーテルで6 mlの脳脊髄液を採取しました.そして参加者は21:00に偽薬またはスボレキサントを内服してもらいます.免疫沈降法と液体クロマトグラフィー質量分析法により,アミロイドβ,タウ,リン酸化タウを測定すると,リン酸化タウ(スレオニン181)と非リン酸化タウ(スレオニン181)の比は,偽薬と比較して,スボレキサント20mg群で10~15%減少しました.その他のタウリン酸化(セリン202およびスレオニン217)はスボレキサントによって減少しませんでした.一方,スボレキサント20 mgは偽薬と比較して,内服5時間後からのアミロイドβを10~20%減少させました.
以上より,通常の内服量であるスボレキサント20 mg は,脳内におけるタウリン酸化とアミロイドβの濃度を短時間で低下させることが示されました.ただしスレオニン181のリン酸化が抑制され,セリン202とスレオニン217が抑制されないのかはDiscussionでも議論されていますがよく分かっていないようで,追試もしくは機序の解明が必要なようです.いずれにしても日常診療で使用されている睡眠薬で,副作用(傾眠,頭痛,疲労)も許容範囲,今後アルツハイマー病予防薬としてrepositioningされる可能性があります.長期的効果はレカネマブと比較してどうなのだろう?ととても注目されます.
Lucey BP, et al. Suvorexant acutely decreases tau phosphorylation and Aβ in the human CNS. Ann Neurol. 2023 Mar 10.
参加者は45~65歳の認知機能に障害のない38名で,偽薬群13名(グラフの赤),スボレキサント10mg群13名(青), 20mg群12名(緑)に無作為に割り付けました.20:00から36時間,2時間ごとに腰椎留置カテーテルで6 mlの脳脊髄液を採取しました.そして参加者は21:00に偽薬またはスボレキサントを内服してもらいます.免疫沈降法と液体クロマトグラフィー質量分析法により,アミロイドβ,タウ,リン酸化タウを測定すると,リン酸化タウ(スレオニン181)と非リン酸化タウ(スレオニン181)の比は,偽薬と比較して,スボレキサント20mg群で10~15%減少しました.その他のタウリン酸化(セリン202およびスレオニン217)はスボレキサントによって減少しませんでした.一方,スボレキサント20 mgは偽薬と比較して,内服5時間後からのアミロイドβを10~20%減少させました.
以上より,通常の内服量であるスボレキサント20 mg は,脳内におけるタウリン酸化とアミロイドβの濃度を短時間で低下させることが示されました.ただしスレオニン181のリン酸化が抑制され,セリン202とスレオニン217が抑制されないのかはDiscussionでも議論されていますがよく分かっていないようで,追試もしくは機序の解明が必要なようです.いずれにしても日常診療で使用されている睡眠薬で,副作用(傾眠,頭痛,疲労)も許容範囲,今後アルツハイマー病予防薬としてrepositioningされる可能性があります.長期的効果はレカネマブと比較してどうなのだろう?ととても注目されます.
Lucey BP, et al. Suvorexant acutely decreases tau phosphorylation and Aβ in the human CNS. Ann Neurol. 2023 Mar 10.