Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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前頭側頭型痴呆に生じた偶然の出来事

2006年09月15日 | 認知症
 前頭側頭型痴呆(frontotemporal dementia;FTD)は,65歳未満の人に発症する認知症のうち,2番目に多い疾患である.FTD患者のおよそ35-50%には家族歴があると言われており,強い遺伝的素因の関与が示唆される.実際,原因遺伝子に関しては,1998年,微小管関連蛋白質タウ(microtubule-associated protein tau;MAPT)をコードする遺伝子の変異が,パーキンソニズムを伴う家族性FTD(FTDP17)の原因であることが報告された(17という数字は,MAPT遺伝子が第17染色体長腕17q21に存在するため付いている).過剰にリン酸化されたタウで構成される細胞質神経原線維封入体(cytoplasmic neurofibrillary inclusions)が観察される点が神経病理学的な特徴である.

 しかしながら,同じ17q21領域に連鎖を示すものの,MAPT変異やタウ封入体の神経病理所見を認めないFTD家系が存在することが知られており,長い間,謎とされてきた.これらの家系では,タウ封入体が見られない代わりに,抗ユビキチン抗体により染色される細胞質・核内神経封入体(ubiquitin-immunoreactive neuronal inclusion)が認められる点が特徴として知られていた(この疾患はFTDU-17と呼ばれてきた.Uはubiquitin-immunoreactive neuronal inclusionsのUである).

 今回,Natureに報告された2つの報告から,17q21に存在するprogranulin(PGRN)遺伝子の無発現変異(null mutation)がFTDを引き起こすことが報告された.つまり,ほとんど似た表現型を示す2つのFTDの原因遺伝子が,偶然,ごく近傍に存在していたため,同じ遺伝子座に連鎖しながら神経病理所見が異なる,ということが生じていたわけである.

 このPGRN遺伝子は,分子量68.5 kDaの分泌型の増殖因子をコードしており,この増殖因子は発生,損傷治癒,炎症を含む複数のプロセスに関与しているそうだ.また,tumorigenesis(腫瘍化)にも強く関連していることが報告されている.さらにヤコブ病や運動ニューロン疾患、アルツハイマー病など多くの神経変性疾患における活性化ミクログリアで発現が亢進していることも知られている.PGRN遺伝子変異を持つ症例では,RNAおよび蛋白レベルでPGRNが生成されていないことも今回報告されているが,この結果はPGRNのハプロ不全(1つのallele,つまり相同染色体の一方が欠失して遺伝子量が半減した場合に疾患を引き起こすこと)が神経変性疾患の原因となることを示すものである.PGRNの機能が神経細胞の生存において重要な役割を担っている可能性がある.

Nature 442; 916-919, 2006
Nature 442, 920-924, 2006
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1 Comments

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Leeの論文 (ニューロドクター乱夢)
2006-10-08 01:20:14
10月6日号のScienceに、ペン大から、FTLD(FTD)を合併する ALSについての論文が出ていますが、抄録しか読んでいないのですが、是非

紹介してください。同様の症例を経験したばかりなので、非常に興味があります。
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