Brain Nerve誌の2月号において「多系統萎縮症の新診断基準とこれからの診療」を企画し,私も「Movement Disorder Societyによる多系統萎縮症診断基準──改訂のポイントと注意点」という総説を執筆しました.ぜひご活用いただければと思います.
注目すべき改訂のポイントのひとつに「自律神経障害を欠いても,clinical probable MSAと診断できる点」が挙げられます.いままでMSAと診断されなかった患者を拾い上げることができますが,反面,今まで以上にMSA mimicsと呼ばれる疾患を十分に鑑別する必要が生じます.
【注目すべきMSA mimics】
具体的には以下の3つのmimicsに注目する必要があります.
①imaging mimics(hot cross bun sign: HCBS/MCP sign/putaminal rim signを呈する疾患)
HCBSは,診断基準の項目に残りましたが,疾患特異的所見でないことを認識する必要があります.詳細はこちらのブログをご参照ください.
②免疫介在性小脳失調症+パーキンソニズム
文献を渉猟すると,傍腫瘍性(乳がん,精巣腫瘍,胸腺腫瘍→Ri, Hu,amphiphysin,ITPR1)と非傍腫瘍性(=自己免疫性)の報告があります(amphiphysin,Caspr2,GAD65, Homer-3, NAEで複数報告があり,CV2/CRMP5, GlyR, LGI1, Ma2でも生じる).近年,細胞表面抗原に対する抗神経抗体が次々報告され,これに伴い免疫介在性(=傍腫瘍性+自己免疫性)MSA mimicsの報告が増加しています.治療可能であるため以下のような症例では疑って除外する必要があります.
急速進行性である場合.
非典型的な症候を呈する場合.
腫瘍を合併する場合.
顕著な体重減少を呈する場合.
脳脊髄液検査で細胞増多,蛋白上昇,OCBを認める場合.
典型的画像所見を認めない場合,もしくはHCBが進行とともに不明瞭化する場合.
③クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)
(a) MV2(失調型)
(b) 4オクタペプチドリピートの挿入変異
感染防止という意味で,CJDの適切な診断は極めて重要になります.
【MSAに類似するCJDの報告】
最新号のMov Disord Clin Practに米国Mayo Clinicからの報告として,ブレインバンクにMSAとして登録されたものの,病理診断がCJDであった2症例が議論されています.症例1は55歳男性,6ヶ月の経過で起立性低血圧,パーキンソニズム,小脳性運動失調症,記憶障害を呈しました.頭部MRIでは顕著な萎縮や拡散強調画像で高信号病変なし.症例2は65歳男性,5年前から小脳性運動失調,パーキンソニズム,認知機能障害を停止,その2年前から夢内容に一致したパラソムニアを認めました.家族歴に父のパーキンソン病と,いとこのレビー小体型認知症を認めます.
症例1,2とも病理学的にCJDでした.症例1では小脳にKuru-like plaqueを,症例2では小脳分子層のシナプスにプリオン蛋白の沈着を認めています.症例1はMV2(失調型),症例2はgenetic CJDで,PRNP遺伝子に4オクタペプチドリピートの挿入を認めています.オクタペプチドリピートの挿入は5回以上だと発症年齢が37.9歳と弱年齢化しますが,1~4回では64.4歳で,かつ家族歴を認めないこともあり,浸透率が低下すると考えられています.
Nicholas B et al. Mov Disord Clin Pract. Jan 06, 2023(doi.org/10.1002/mdc3.13654)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/92/c350f6d482a9ed0d9062c4011335353c.jpg)
最近,本邦でも同様の症例が報告されています(堂園美香ら.臨床神経2021:61:314-8).60歳から物忘れ,歩行障害,動作緩慢,四肢の粗大な振戦を認め,パーキンソン病ないしMSAと診断されましたが,最終的にPRPN遺伝子の4オクタペプチドリピートの挿入が明らかになりました.ミオクローヌスなし,脳波でPSDなし,拡散強調画像で大脳皮質の高信号病変なしで,CJDを疑って14-3-3蛋白やRT-QuICを思考しないと病初期の診断は難しいものと考えられます.
以上より,臨床的にMSAが示唆される場合でも,進行が急速であったり,長期間自律神経障害がないなど臨床像が非典型的である場合,CJDも含め十分な鑑別診断を行う必要があります.
注目すべき改訂のポイントのひとつに「自律神経障害を欠いても,clinical probable MSAと診断できる点」が挙げられます.いままでMSAと診断されなかった患者を拾い上げることができますが,反面,今まで以上にMSA mimicsと呼ばれる疾患を十分に鑑別する必要が生じます.
【注目すべきMSA mimics】
具体的には以下の3つのmimicsに注目する必要があります.
①imaging mimics(hot cross bun sign: HCBS/MCP sign/putaminal rim signを呈する疾患)
HCBSは,診断基準の項目に残りましたが,疾患特異的所見でないことを認識する必要があります.詳細はこちらのブログをご参照ください.
②免疫介在性小脳失調症+パーキンソニズム
文献を渉猟すると,傍腫瘍性(乳がん,精巣腫瘍,胸腺腫瘍→Ri, Hu,amphiphysin,ITPR1)と非傍腫瘍性(=自己免疫性)の報告があります(amphiphysin,Caspr2,GAD65, Homer-3, NAEで複数報告があり,CV2/CRMP5, GlyR, LGI1, Ma2でも生じる).近年,細胞表面抗原に対する抗神経抗体が次々報告され,これに伴い免疫介在性(=傍腫瘍性+自己免疫性)MSA mimicsの報告が増加しています.治療可能であるため以下のような症例では疑って除外する必要があります.
急速進行性である場合.
非典型的な症候を呈する場合.
腫瘍を合併する場合.
顕著な体重減少を呈する場合.
脳脊髄液検査で細胞増多,蛋白上昇,OCBを認める場合.
典型的画像所見を認めない場合,もしくはHCBが進行とともに不明瞭化する場合.
③クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)
(a) MV2(失調型)
(b) 4オクタペプチドリピートの挿入変異
感染防止という意味で,CJDの適切な診断は極めて重要になります.
【MSAに類似するCJDの報告】
最新号のMov Disord Clin Practに米国Mayo Clinicからの報告として,ブレインバンクにMSAとして登録されたものの,病理診断がCJDであった2症例が議論されています.症例1は55歳男性,6ヶ月の経過で起立性低血圧,パーキンソニズム,小脳性運動失調症,記憶障害を呈しました.頭部MRIでは顕著な萎縮や拡散強調画像で高信号病変なし.症例2は65歳男性,5年前から小脳性運動失調,パーキンソニズム,認知機能障害を停止,その2年前から夢内容に一致したパラソムニアを認めました.家族歴に父のパーキンソン病と,いとこのレビー小体型認知症を認めます.
症例1,2とも病理学的にCJDでした.症例1では小脳にKuru-like plaqueを,症例2では小脳分子層のシナプスにプリオン蛋白の沈着を認めています.症例1はMV2(失調型),症例2はgenetic CJDで,PRNP遺伝子に4オクタペプチドリピートの挿入を認めています.オクタペプチドリピートの挿入は5回以上だと発症年齢が37.9歳と弱年齢化しますが,1~4回では64.4歳で,かつ家族歴を認めないこともあり,浸透率が低下すると考えられています.
Nicholas B et al. Mov Disord Clin Pract. Jan 06, 2023(doi.org/10.1002/mdc3.13654)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/92/c350f6d482a9ed0d9062c4011335353c.jpg)
最近,本邦でも同様の症例が報告されています(堂園美香ら.臨床神経2021:61:314-8).60歳から物忘れ,歩行障害,動作緩慢,四肢の粗大な振戦を認め,パーキンソン病ないしMSAと診断されましたが,最終的にPRPN遺伝子の4オクタペプチドリピートの挿入が明らかになりました.ミオクローヌスなし,脳波でPSDなし,拡散強調画像で大脳皮質の高信号病変なしで,CJDを疑って14-3-3蛋白やRT-QuICを思考しないと病初期の診断は難しいものと考えられます.
以上より,臨床的にMSAが示唆される場合でも,進行が急速であったり,長期間自律神経障害がないなど臨床像が非典型的である場合,CJDも含め十分な鑑別診断を行う必要があります.