筋萎縮性側索硬化性(ALS)などの運動ニューロン病は根本療法が未確立の神経難病です.心理的サポートは有益であろうと想像できますが,小規模・短期間の研究のみで十分なエビデンスはありませんでした.Lancet誌に,英国からAcceptance and Commitment Therapy(ACT)と名付けられた,受容,マインドフルネス,認知行動療法を取り入れた心理療法が,患者さんのQOLを大幅に向上できることを示した臨床試験が報告されました.ちなみにACTは,つらい感情や思考をコントロールしたり回避したりするのではなく,受け入れることに重点を置いています.
方法は多施設無作為化比較試験で,対象はALS,進行性筋萎縮症,原発性側索硬化症を含みます.運動ニューロン病向けのACT+通常ケアを受ける群と,通常のケアのみ受ける群に割り付けました(それぞれ97人と94人).ACTは専門知識を持つ臨床心理士ないし精神科医が,最大8回のセッションを4ヶ月間にわたって,対面,ビデオ通話,または電話で実施しました.具体的にACTは以下を含みます.
◆受容(Acceptance): 不快な思考や感情と戦わずに受け入れることを推奨する.
◆マインドフルネス(Mindfulness): 現在の瞬間に集中して取り組むことを支援する.
◆行動変容技法(Behavioral Change Techniques): 悩ましい思考や感情にとらわれず,人生を豊かにする活動(興味や価値を見出せる活動)に集中することを支援する.
◆資料の提供: 上記に関する書籍,アプリなどを提供し,患者は自己学習をする.
そして6ヵ月および9ヵ月後に,主要評価項目のMcGill Quality of Life Questionnaire-Revised(MQOL-R)を用いたQOLを評価しました.
さて結果ですが,6ヵ月後のQOLは,ACT+通常ケア群は,通常ケア単独群と比べ,有意に優れていました(MQOL-Rの調整後平均差は0.66[95%CI 0.22-1.10];d=0.46;p=0.0031)(図).介入の影響の大きさを示す効果量(d)が0.46であることは中程度の効果を示し良好です.一般に0.2が小,0.5が中,0.8が大きな効果を意味します(ちなみにアルツハイマー病のレカネマブは0.21です:JNNP. 2023;95:2-7).またセッションへの出席率が高く受容性は良好で,かつビデオ通話または電話によるリモート介入の有効性も認められました.うつ病と心理的柔軟性に関する副次的評価項目も有意な改善が得られました.介入に関連した有害事象はありませんでした.以上より,ACTはQOLの維持・改善に有効であることが分かりました.
以上より,ALS患者さんの心理的ウェルビーイングとQOLを向上させる介入は極めて重要ということが分かります.自分が患者であったとしたら,まだ効果が軽微な疾患修飾療法よりも,心理療法を望むように思います.しかし日本では臨床心理士が不足していますし,ALSの診療に関わっていただくこともあまり一般的でないように思います.脳神経内科医が心理療法を学べば良いのですが,現在の専門医制度では専攻医になってから内科症例の経験だけ求められていて,脳神経内科の診療に必要な精神科,リハビリ,脳外科,小児科,神経眼科・耳科といった境界領域を学ぶ機会がありません.個人的にはここが一番の問題だと思っています.私自身は機能性神経障害や睡眠障害の診療のために認知行動療法を勉強しましたが,独学なので不安があります.日本でも脳神経内科医が患者さんの診療に本当に必要な境界領域を学ぶことができるよう専門医制度を作り直す必要性があると思います.
Gould RL, et al. Acceptance and Commitment Therapy plus usual care for improving quality of life in people with motor neuron disease (COMMEND): a multicentre, parallel, randomised controlled trial in the UK. Lancet. 2024 May 9:S0140-6736(24)00533-6.(doi.org/10.1016/S0140-6736(24)00533-6)
方法は多施設無作為化比較試験で,対象はALS,進行性筋萎縮症,原発性側索硬化症を含みます.運動ニューロン病向けのACT+通常ケアを受ける群と,通常のケアのみ受ける群に割り付けました(それぞれ97人と94人).ACTは専門知識を持つ臨床心理士ないし精神科医が,最大8回のセッションを4ヶ月間にわたって,対面,ビデオ通話,または電話で実施しました.具体的にACTは以下を含みます.
◆受容(Acceptance): 不快な思考や感情と戦わずに受け入れることを推奨する.
◆マインドフルネス(Mindfulness): 現在の瞬間に集中して取り組むことを支援する.
◆行動変容技法(Behavioral Change Techniques): 悩ましい思考や感情にとらわれず,人生を豊かにする活動(興味や価値を見出せる活動)に集中することを支援する.
◆資料の提供: 上記に関する書籍,アプリなどを提供し,患者は自己学習をする.
そして6ヵ月および9ヵ月後に,主要評価項目のMcGill Quality of Life Questionnaire-Revised(MQOL-R)を用いたQOLを評価しました.
さて結果ですが,6ヵ月後のQOLは,ACT+通常ケア群は,通常ケア単独群と比べ,有意に優れていました(MQOL-Rの調整後平均差は0.66[95%CI 0.22-1.10];d=0.46;p=0.0031)(図).介入の影響の大きさを示す効果量(d)が0.46であることは中程度の効果を示し良好です.一般に0.2が小,0.5が中,0.8が大きな効果を意味します(ちなみにアルツハイマー病のレカネマブは0.21です:JNNP. 2023;95:2-7).またセッションへの出席率が高く受容性は良好で,かつビデオ通話または電話によるリモート介入の有効性も認められました.うつ病と心理的柔軟性に関する副次的評価項目も有意な改善が得られました.介入に関連した有害事象はありませんでした.以上より,ACTはQOLの維持・改善に有効であることが分かりました.
以上より,ALS患者さんの心理的ウェルビーイングとQOLを向上させる介入は極めて重要ということが分かります.自分が患者であったとしたら,まだ効果が軽微な疾患修飾療法よりも,心理療法を望むように思います.しかし日本では臨床心理士が不足していますし,ALSの診療に関わっていただくこともあまり一般的でないように思います.脳神経内科医が心理療法を学べば良いのですが,現在の専門医制度では専攻医になってから内科症例の経験だけ求められていて,脳神経内科の診療に必要な精神科,リハビリ,脳外科,小児科,神経眼科・耳科といった境界領域を学ぶ機会がありません.個人的にはここが一番の問題だと思っています.私自身は機能性神経障害や睡眠障害の診療のために認知行動療法を勉強しましたが,独学なので不安があります.日本でも脳神経内科医が患者さんの診療に本当に必要な境界領域を学ぶことができるよう専門医制度を作り直す必要性があると思います.
Gould RL, et al. Acceptance and Commitment Therapy plus usual care for improving quality of life in people with motor neuron disease (COMMEND): a multicentre, parallel, randomised controlled trial in the UK. Lancet. 2024 May 9:S0140-6736(24)00533-6.(doi.org/10.1016/S0140-6736(24)00533-6)