Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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"Painless" legs and moving toes(つま先が勝手に動いてしまう病気)

2012年02月19日 | その他の変性疾患
Painful legs and moving toes(PLMT)という疾患がある.一側または両側下肢の遠位部の疼痛・不快感と,足趾の不随意運動を特徴とする疾患である.神経内科医にとってその病名は知られているものの,実際に診療する機会に乏しい稀な疾患である.不随意運動は,足趾の屈伸・内外転,足関節の屈伸など律動的な動きを呈する.自分の意思や努力で,短時間であれば止めることができ,また睡眠中は消失しうる.治療法は確立しておらず,病態機序もよくわからない.おそらくミエロパチー,腰仙髄神経根症,ニューロパチー,外傷などが原因となり,求心性の感覚入力に何らかの異常が生じたのち,回復の過程で遠心性の運動出力に再構成が起こり,不随意運動が出現するものと考えられる.

動画(Painful legs and moving toes;つま先の動き)

さて,最近,Painless legs and moving toesという疾患が存在することを知り驚いた!言わばPLMTの痛みなしバージョンで,PLMTと同じ疾患カテゴリーに含まれると考えられている.PLMTと比べ,さらに稀な疾患である.これまで,母娘ともに発症し遺伝性と考えられる症例や,Wilson病に合併した症例が報告されている.そしてその稀な疾患が,最近,Mov Disord誌に相次いで報告されたので紹介したい.

一つ目は北海道大学神経内科からの報告.何とテント上病変,傍矢状洞髄膜腫が原因であった症例である.46歳男性で,従来健康.41歳時に下肢に強い左片麻痺と左半身の感覚障害が出現.画像検査で右傍矢状洞髄膜腫が見つかり,脳外科的に切除した.片麻痺は改善したものの,左側の深部覚障害は持続.そして43歳になり,左つま先の不随意運動が出現した.睡眠中には消失.頭部 MRIで髄膜腫の再発が認められた.45歳時に左下肢の振動覚低下,膝蓋腱反射亢進,痙性,病的反射を認めた.脳波,脳磁図,SEP,下肢の神経伝導検査および脊髄MRIは正常で,脊髄病変,腰仙髄神経根症,ニューロパチーは否定された.バルプロ酸,ゾニサミド,クロナゼパム,ガバペンチン,バクロフェンによる治療はいずれも無効であり,46歳時に2度目の切除術を行なった.これにより不随意運動は消失した.

経過中,痛みの出現はなかったこと,手術により消失したことから,傍矢状洞髄膜腫に伴うPainless legs and moving toesと診断した.Wilson病に合併したという報告もあるように,Painless legs and moving toesは中枢病変によっても生じうることを示した貴重な症例といえる.機序は不明であるが,髄膜腫が後中心回を圧迫し,求心性の感覚入力の障害が生じ,さらに遠心路に再構成が生じたと考えるのが妥当であろう.

もう一つの報告は,性ホルモン周期によりつま先の不随意運動が変動した若年女性である.26歳時,痛みを伴わないつま先と手指の動きにて発症.不随意運動はほぼ持続性で,つま先は様々な方向に動いた.下肢の動きは睡眠深度にかかわらず持続した.月経の2~3日前から増悪し,経口progesterone内服でも増悪した.逆に妊娠中・産褥期は消失した.血液検査や神経伝導検査,頭部画像検査では異常なし.

本例に特徴的な症状の変動はprogesterone ないしestrogenが影響を及ぼしている可能性を示唆する.つまりこれらのホルモンのレベルが低いと不随意運動が出現し,高いと軽減するという可能性である(注;ただし産褥期はこれらのホルモン値は通常レベルに戻るため,不随意運動が消失していた点は必ずしも説明がつかない).論文では性周期が症状の変動を引き起こすメカニズムは不明で,今後のアイデアが必要であると締めくくっている.

やはり本疾患の病態機序において末梢のみならず中枢の関与もあるのだろうと思う.ニューロパチーが性ホルモンの影響を受けるという報告は耳にしたことがない.私たちは過去に若年性パーキンソン病(PARK2)患者さんで,症状が性ホルモンにより影響を受けた方を報告しているが,エストロゲンが基底核におけるドパミン神経伝達に影響を及ぼしたのではないかと考察した.Painless legs and moving toesにおけるドパミン神経伝達の関与は不明であるが,今後,中枢神経の関与にういても検討が必要である.

いずれにしても,まずこのような疾患の存在を認識すること,そして今回の2つのケースレポートのように機序の解明につながるヒントを,パズルのピースのように集めていくことが大切である.

Painless legs and moving toes from parasagittal meningioma. Mov Disord Early View 
Painless legs and moving toes: Symptom reduction during pregnancy. Mov Disord 27;328–329, 2012 
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