Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

第4の髄膜SLYMの発見! ―脳神経疾患へのインパクト―

2023年01月06日 | 医学と医療
Science誌に第4の髄膜としてSLYM(Subarachnoid LYmphatic-like Membrane)が報告されており驚きました.「髄膜は硬膜,くも膜,軟膜から構成され,くも膜と軟膜の間に脳脊髄液が流れる」と教わりましたが,この論文はマウス及びヒトの脳を検討し,くも膜と軟膜の間に,非常に薄く,厚さにしてわずか1〜数個分の細胞で構成される膜が発見されました(図の緑色の部分です).



報告したのは,中枢神経系でリンパ管の役割を果たし,脳の廃棄物を脳脊髄液とともに除去する系,いわゆるglymphatic systemを発見したコペンハーゲン大学Maiken Nedergaard教授のグループです.このSLYMは肺や心臓などの臓器を取り囲み保護する「中皮」の一種と考えられました(ポドプラニン陽性です).その機能に関しては以下の3つが示唆されています.

①他の中皮と同様に,臓器を包み保護する(脳と頭蓋骨の間の摩擦を軽減する).
②クモ膜下腔を2つのスペースに分け,脳脊髄液を分離し,その流れを制御する.つまり老廃物を含む脳脊髄液と含まない脳脊髄液を分離する(分子量3 kDa以上の溶質のバリアとなる).
外部の免疫細胞の脳への侵入を防ぐ免疫バリアとして作用する.

もし②の仕組みがおかしくなると,アミロイドβやタウタンパク等が排出されず脳に蓄積し,アルツハイマー病やその他の神経変性疾患を引き起こす可能性があります.③が破綻すると,中枢神経系以外の免疫細胞が脳内に入り込み,中枢神経系感染症や神経免疫疾患等を発症する可能性があります(恐らくCOVID-19でも破綻するのだと思います).そしてもうひとつ重要なのは,薬物や遺伝子治療薬の脳への伝達がSLYMによって影響を受ける可能性があるということです.逆に言うとSLYMを標的としてdrug delivery研究が進展する可能性があります.

今後,様々なSLYMの機能や疾患における役割が明らかになり,治療開発につながるものと思います.改めて脳は未知の臓器だと思いました.若い皆さん,脳は面白いです.ぜひ脳の研究/臨床にチェレンジして頂きたいと思います.
Science. 2023 Jan 6;379(6627):84-88.(doi.org/10.1126/science.adc8810)
図は以下のHPより引用.
https://www.eurekalert.org/news-releases/975546

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 医師,患者が知っておくべき... | TOP | 新型コロナウイルス感染症COV... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 医学と医療