アルツハイマー病に対する抗体薬レカネマブの安全性について問題提起しているScience誌の続報です.下図はアルツハイマー病に合併する脳アミロイド血管症(CAA)において,アミロイドβの沈着(赤)が血管平滑筋(緑)に置き換わる様子を示しています.このような状態でレカネマブと血栓予防薬を同時に使用すると脳出血をきたすリスクがあります.
今回は7月14日時点のバージョンの説明同意文書の血栓予防薬に関する記載が,当初のバージョンと大きく変更されていたことが報道されています.当初「これらの薬剤を継続してもよいが,血栓予防薬とレカネマブはどちらも脳出血のわずかなリスクと関連しているので,あなたと治験責任医師は出血のリスクについて話し合うべき」と書かれていたものが,以下のように改訂されていました.
「同剤治療中の脳出血(major brain bleed)の発生は稀ではあるものの,血栓予防薬との併用ではより生じやすくなる.その発生率は100人に1人を超えるものの5人を超えない」
「脳出血は,血栓予防薬との併用時には特に重篤な状態になり,最悪の場合は死ぬ恐れがある.担当医と脳出血の生じやすさを検討して試験に留まるかどうかを決める必要がある」
まず医師,患者は上記の安全情報を理解する必要があります.また延長試験参加者のうち3名の死亡がすでに報道されていますが,9月に亡くなった2名は改訂前のバージョンで同意取得されていたようです.そのうち1例は同意文書にtPA使用に関する直接的な警告がなかったため,脳梗塞後に投与され大出血をきたし死亡しています.Science誌は「エーザイ社は,同意文書改訂の時期や理由,延長試験参加者のうち何人が改訂版にある最新の警告の説明を受けたうえで,同意の署名したかに関する,Science誌の質問に回答していない」と述べています.識者の意見として「死亡例の詳細について開示しないことに苛立ちが募る」「すべての潜在的なリスクについて可能な限りオープンで透明である方がよい」「現時点ではレカネマブと血栓予防薬(抗凝固剤,抗血小板剤,tPA)の併用に関して最高レベルの警告が適切である」というコメントを紹介しています.
また本剤を巡る問題点として,「レカネマブ治療を受ける可能性のある患者をCAAと診断することは,主要医療機関から遠く離れた地域の医師にとって困難であること」「65歳以下,女性,APOE4(アルツハイマー病の発症リスクを高める遺伝子)を2つ有する人という3つの重要なサブグループには,統計的に有意な効果は見られないこと」「APOE4について確実に把握するために遺伝子検査を行う必要があること」も紹介しています.
レカネマブはFDAで承認を受ける可能性が高いと考えられているようですが,多くの問題があるように思います.エーザイ社は上述の懸念に対し誠実に回答すべきですし,医師もこれらの問題について認識した上で,患者との議論を行う必要があります.
Revised clinical trial form for Alzheimer’s antibody warned of fatal brain bleeds. Science News. Dec 20, 2011(doi: 10.1126/science.adg4937)
★ ちょうど本日のNEJM誌に2例目の死亡例のMRI画像と剖検所見が報告されていました.下記の写真を追加しました.頭部MRIはいままでに見たことがない所見です.D-Eは病理学的にCAAであることを示しています.
N Engl J Med. 2023 Jan 4. doi.org/10.1056/NEJMc2215148.
AはSWI画像による出血の評価.BはFLAIR画像で浮腫・出血と右thalamocapsular regionの急性期梗塞巣.Cはマクロ,DはHE染色,Eはアミロイドβ抗体による免疫染色.
今回は7月14日時点のバージョンの説明同意文書の血栓予防薬に関する記載が,当初のバージョンと大きく変更されていたことが報道されています.当初「これらの薬剤を継続してもよいが,血栓予防薬とレカネマブはどちらも脳出血のわずかなリスクと関連しているので,あなたと治験責任医師は出血のリスクについて話し合うべき」と書かれていたものが,以下のように改訂されていました.
「同剤治療中の脳出血(major brain bleed)の発生は稀ではあるものの,血栓予防薬との併用ではより生じやすくなる.その発生率は100人に1人を超えるものの5人を超えない」
「脳出血は,血栓予防薬との併用時には特に重篤な状態になり,最悪の場合は死ぬ恐れがある.担当医と脳出血の生じやすさを検討して試験に留まるかどうかを決める必要がある」
まず医師,患者は上記の安全情報を理解する必要があります.また延長試験参加者のうち3名の死亡がすでに報道されていますが,9月に亡くなった2名は改訂前のバージョンで同意取得されていたようです.そのうち1例は同意文書にtPA使用に関する直接的な警告がなかったため,脳梗塞後に投与され大出血をきたし死亡しています.Science誌は「エーザイ社は,同意文書改訂の時期や理由,延長試験参加者のうち何人が改訂版にある最新の警告の説明を受けたうえで,同意の署名したかに関する,Science誌の質問に回答していない」と述べています.識者の意見として「死亡例の詳細について開示しないことに苛立ちが募る」「すべての潜在的なリスクについて可能な限りオープンで透明である方がよい」「現時点ではレカネマブと血栓予防薬(抗凝固剤,抗血小板剤,tPA)の併用に関して最高レベルの警告が適切である」というコメントを紹介しています.
また本剤を巡る問題点として,「レカネマブ治療を受ける可能性のある患者をCAAと診断することは,主要医療機関から遠く離れた地域の医師にとって困難であること」「65歳以下,女性,APOE4(アルツハイマー病の発症リスクを高める遺伝子)を2つ有する人という3つの重要なサブグループには,統計的に有意な効果は見られないこと」「APOE4について確実に把握するために遺伝子検査を行う必要があること」も紹介しています.
レカネマブはFDAで承認を受ける可能性が高いと考えられているようですが,多くの問題があるように思います.エーザイ社は上述の懸念に対し誠実に回答すべきですし,医師もこれらの問題について認識した上で,患者との議論を行う必要があります.
Revised clinical trial form for Alzheimer’s antibody warned of fatal brain bleeds. Science News. Dec 20, 2011(doi: 10.1126/science.adg4937)
★ ちょうど本日のNEJM誌に2例目の死亡例のMRI画像と剖検所見が報告されていました.下記の写真を追加しました.頭部MRIはいままでに見たことがない所見です.D-Eは病理学的にCAAであることを示しています.
N Engl J Med. 2023 Jan 4. doi.org/10.1056/NEJMc2215148.
AはSWI画像による出血の評価.BはFLAIR画像で浮腫・出血と右thalamocapsular regionの急性期梗塞巣.Cはマクロ,DはHE染色,Eはアミロイドβ抗体による免疫染色.