Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新しい「ホムンクルス」の脳地図

2023年04月22日 | 医学と医療
左図は神経科学でもっとも有名な図のひとつ,「運動ホムンクルス」です.ホムンクルスはラテン語で「小さな男」の意味です.身体の各部位を制御する一次運動野の領域を示しています.神経外科医Wilder Penfield(1891-1976)が1937年に発表しました.一次運動野を電気的に刺激すると,身体の特定の部位が痙攣することに気づいたことに端を発します.手,足,口が,他の部位と比較して不釣り合いに大きいことが特徴です.



今回,Nature誌に機能的MRI(fMRI)を用いた一次運動野の詳細なマッピング研究が報告されています.その結果書き換えられた新しいホムンクルスが右図になります.「行動と運動制御の統合-分離モデル」と名付けられたもので,一次運動野は従来のものよりはるかに複雑であることが分かりました.

まず従来と異なる点は,①足(緑),手(シアン),口(オレンジ)の3つの機能領域が同心円状に配置され(エフェクター領域),それぞれの領域の中で,遠位の身体部分(足先~足首,指~手,舌~顎)の領域が近位の身体部分(膝・尻,肘・肩,喉頭・眼)の領域により囲まれていることです.そして②これらの領域の境界には皮質の厚さが減少したインターエフェクター領域(赤茶色)があり,この領域は特定の身体部位にかかわるものではなく,重要な思考,身体の生理機能の維持,行動の計画などを司る脳領域との接続を通じて,複数の筋を含む複雑な動き(協調運動)を調整しているようで,身体認知行動ネットワーク(somato-cognitive action network; SCAN)を形成しているようです.つまり一次運動野には2つのシステムが存在し,足,手,口のエフェクター領域は細かい運動制御を分離し,SCANは身体運動を統合することになります.この発見は,脳卒中や外傷などによる一次運動野の特定の障害パターンの理解と,それに適した治療を選択するのに将来的に役立つ可能性が指摘されています.
Gordon EM, et al. A somato-cognitive action network alternates with effector regions in motor cortex. Nature. 2023 Apr 19.

おまけ
Montreal Neurological Institute (通称Neuro)を訪問し見学をさせてもらった際,院内にWilder Penfield先生の肖像画を見つけました.そして帰るときに,病院の壁に”The problem of neurology is to understand man himself”(人間を理解することを目指し,神経学の歴史はこれからも続く)という先生の言葉が刻まれているのを見つけて,非常に感激したことを覚えています.




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