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以前,当ブログで取り上げた「宮廷女官 チャングムの誓い
」の一場面で,医女チャングムが治療手段としてハチの毒針を直接皮膚に刺している場面があった.「アナフィラキシーを起こすぞ!?」なんて思いながら見た覚えがあるが,韓国や中国の一部地域で現在も行われている治療らしい(http://j.peopledaily.com.cn/2003/09/17/jp20030917_32474.html :写真).さらに驚いたことにこのハチ刺し療法は多発性硬化症(MS)の再発予防としてヨーロッパでしばしば行われているらしい.その理論的背景としては,蜂毒にはmelittinおよびadolapinという強力な抗炎症物質が含まれること,ならびに apaminというCa-activated K-channelを抑制することで神経細胞の過分極を起こすペプチドを含んでいることが挙げられている.
今回,オランダからハチ刺し療法の効果を検証する目的でrandomized, open, crossover trialが行われた.対象は26名(RRMSないしSPMS)で,ハチ刺し療法と無治療をcrossoverしている.観察期間は24週.ハチ刺し療法は週3回行われ,最高20匹(!)もの生きたハチに刺してもらう.Primary outcomeはT1-weighted MRIで評価した造影効果陽性のプラーク数. Secondary outcomeとして,T2*-weighted MRIのプラーク数,再発回数,EDSS,疲労度,QOLスコアを用いた.結果は無治療群と比較して上記いずれの項目も改善なし.幸い,重大な副作用もなかったが,痛い思いをしたうえ効果はなく,まさに「泣きっ面にハチ」という結果になった.
ただ今回の論文を読んで何ともつらい気持ちになった.というのはMSに対するハチ刺し療法は非医療機関において民間療法・代替療法として始められ,徐々にpopularな治療法となっていった経緯があるためだ.これは取りも直さず,再発や進行を抑制する治療に乏しいという現状と,効果的な治療を求める患者さんの切実な願いを反映するものと言えよう.
ただ最近になり,MSに対する新たな治療として新たな光明が差しつつある.先日,α4β1(VLA-4)インテグリンに対するモノクローナル抗体natalizumab(商品名TYSABRI)で有名なSteinman Lの講義を拝聴する機会があったが,natalizumabの臨床使用は不幸にもその使用中に見られた進行性多巣性白質脳症の問題で頓挫しているものの(N Engl J Med. 353:375-381, 2005),新たな有望な治療戦略としてトリプトファン分解産物3,4-DAAがMSのようなTh1を介する自己免疫疾患に対しきわめて有効であることが最近報告された(Science ;310:850-5,2005;この治療戦略のヒントは実験脳炎マウスのDNAマイクロアレーの結果得たもの.この論文の要旨はトリプトファン分解産物3,4-DAAがミエリン特異的T細胞の増殖を抑制し,炎症誘発性Th1サイトカインの産生を阻害するということ).さらにSteinmanはスタチンやワクチン療法の可能性についても言及していた.
ただMSに関する新たな治療を考えるときいつも考えてしまうのは研究が進歩して治療薬ができたとしても,日本で使えるかのはいつになるのかということだ.今までも何度も書いたが,IFNbeta1aやcopolymer I,mitoxantroneといったエビデンスのある治療はやはり日本でも速やかに使用できるようにすべきであろう.個人輸入などを検討しなければならない患者さんたちに本当に申し訳がたたない.
Neurology 65:1764-1768, 2005
今回,オランダからハチ刺し療法の効果を検証する目的でrandomized, open, crossover trialが行われた.対象は26名(RRMSないしSPMS)で,ハチ刺し療法と無治療をcrossoverしている.観察期間は24週.ハチ刺し療法は週3回行われ,最高20匹(!)もの生きたハチに刺してもらう.Primary outcomeはT1-weighted MRIで評価した造影効果陽性のプラーク数. Secondary outcomeとして,T2*-weighted MRIのプラーク数,再発回数,EDSS,疲労度,QOLスコアを用いた.結果は無治療群と比較して上記いずれの項目も改善なし.幸い,重大な副作用もなかったが,痛い思いをしたうえ効果はなく,まさに「泣きっ面にハチ」という結果になった.
ただ今回の論文を読んで何ともつらい気持ちになった.というのはMSに対するハチ刺し療法は非医療機関において民間療法・代替療法として始められ,徐々にpopularな治療法となっていった経緯があるためだ.これは取りも直さず,再発や進行を抑制する治療に乏しいという現状と,効果的な治療を求める患者さんの切実な願いを反映するものと言えよう.
ただ最近になり,MSに対する新たな治療として新たな光明が差しつつある.先日,α4β1(VLA-4)インテグリンに対するモノクローナル抗体natalizumab(商品名TYSABRI)で有名なSteinman Lの講義を拝聴する機会があったが,natalizumabの臨床使用は不幸にもその使用中に見られた進行性多巣性白質脳症の問題で頓挫しているものの(N Engl J Med. 353:375-381, 2005),新たな有望な治療戦略としてトリプトファン分解産物3,4-DAAがMSのようなTh1を介する自己免疫疾患に対しきわめて有効であることが最近報告された(Science ;310:850-5,2005;この治療戦略のヒントは実験脳炎マウスのDNAマイクロアレーの結果得たもの.この論文の要旨はトリプトファン分解産物3,4-DAAがミエリン特異的T細胞の増殖を抑制し,炎症誘発性Th1サイトカインの産生を阻害するということ).さらにSteinmanはスタチンやワクチン療法の可能性についても言及していた.
ただMSに関する新たな治療を考えるときいつも考えてしまうのは研究が進歩して治療薬ができたとしても,日本で使えるかのはいつになるのかということだ.今までも何度も書いたが,IFNbeta1aやcopolymer I,mitoxantroneといったエビデンスのある治療はやはり日本でも速やかに使用できるようにすべきであろう.個人輸入などを検討しなければならない患者さんたちに本当に申し訳がたたない.
Neurology 65:1764-1768, 2005
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民間療法というものを一概に否定することはできないな、と。
Evidenceのひとことですべてを判断するのはいい傾向なのか悪い傾向なのか・・・。
MSだけではなく、CIDPなどもそうですよね。
でも、これは、人工的に作った病気ですよね。ならば、多発性硬化症って、マウスでも自然発症ってあるんでしょうか?
都内の治療院で祖母は長いこと蜂を刺してもらっていて、子供のこの私もよくついていきましたので、日本でもあったようです。。顔とか背中とかに刺してもらっていました。美容と健康のためだったようです。
今もあるかと思って調べているのですが、ぜんぜん聞きませんね。