Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(1月29日)  

2022年01月29日 | 医学と医療
今回のキーワードは,オミクロン株感染による入院は非オミクロン株の5分の1程度だが,入院患者の21%が重症化する,ブースター接種はオミクロン株に対する中和力価を2回接種のみと比べ20倍高め,ブレイクスルー感染を減少させる可能性がある,ICU治療の1年間後の身体,精神,認知症状はそれぞれ74.3%,26.2%,16.2%である,抗CD20療法中の多発性硬化症患者もブースター接種で保護的効果を獲得しうる,抗CD20療法中でB細胞が枯渇している場合,なんとワクチン接種は強力なT細胞応答をもたらす,です.

オミクロン株は重症化しにくいので若者は罹ってしまって集団感染を達成したほうが良いという意見があります.しかし感染者の急増は通常医療を麻痺させ,すでに国民の健康に大きな影響をもたらしています.加えて,感染した場合,胚中心ができにくく,COVID-19に特異的・保護的な抗体ができにくい上に,1つ目の論文で紹介するように一定頻度は重症化してしまいます.さらに自己抗体産生等による後遺症や新たな変異株が生じるという問題もあります.つまり感染は極力避けるべきです.幸い,mRNAワクチンの2回接種後のオミクロン株に対する中和力価は低いものの,ブースター接種をすれば中和抗体価が上昇し,ブレイクスルー感染を減少させる可能性が示されました.感染増加を強力に抑制する政策と速やかなブースター接種の実現が求められます.
一方,脳神経内科領域で問題となっていた抗CD20療法などの免疫療法中の患者さんのワクチン接種に関して大きな進展がありました.とくに最後の論文はヒトの免疫の不思議を感じました.

◆オミクロン株感染による入院は非オミクロン株の5分の1程度だが,入院患者の21%が重症化する,
南アフリカからオミクロン株の重症度に関する報告がなされた.2021年10月1日(第39週)から12月6日(第49週)までに,2万9721人のオミクロン株感染者と1412人の非オミクロン株感染者が確認された.オミクロン株の頻度は,39週目の2/63名(3.2%)から,48週目の2万1978/2万2455名(97.9%)に増加した.入院に関連する因子を調整した結果,オミクロン株感染者は非オミクロン株感染者よりも入院のオッズが有意に低く,5分の1であった(2.4%対12. 8%,調整オッズ比0.2).入院患者の重症化は21%対40%であった(オッズ比0.7).またデルタ株感染者と比較しても入院患者の重症化オッズは有意に低かった(62.5%対23.4%,オッズ比0.3).以上よりオミクロン株感染では重症化率は低いが,一定数は重症化する.
Lancet. Jan 19, 2022(doi.org/10.1016/S0140-6736(22)00017-4)

◆ブースター接種はオミクロン株に対する中和力価を2回接種のみと比べ20倍高め,ブレイクスルー感染を減少させる可能性がある.
オミクロン株に対するモデルナワクチンのブースター接種の効果を検討した論文が米国から報告された.ワクチン接種者から得られた血清を用いて,古典的な野生型バリアント(D614G)とオミクロン株に対する中和抗体価を調べた.最初の2回接種から1カ月後に85%の被験者で,オミクロン株に対する中和抗体が得られた.しかし抗体価(ID50)は,D614G株より35.0倍低かった(図1①).2回接種から7カ月後のブースター接種前では,オミクロン株の中和抗体が検出された被験者は55%に低下し,抗体価はD614G株より8.4倍低かった(図1②).モデルナワクチン50μgをブースター接種したところ,オミクロン株に対する抗体価は,2回目の接種から1カ月後よりも20.0倍も高くなった(図1③;D614G株よりは2.9倍低い).さらにブースター接種から6カ月後のオミクロン株に対する中和力価は,ブースター接種1カ月後より6.3倍低かったものの,すべての参加者で検出可能な力価を維持していた(図1④).以上より,初回の2回接種後のオミクロン株に対する中和力価は低く,ブレイクスルー感染のリスクは高い可能性がある.しかしブースター接種により,中和力価は20倍高くなり,ブレイクスルー感染のリスクを大幅に減少させる可能性がある.
New Engl J Med. Jan 26, 2022(doi.org/10.1056/NEJMc2119912)



◆ICU治療の1年間後の身体,精神,認知症状はそれぞれ74.3%,26.2%,16.2%である.
COVID-19に罹患し,ICUで治療を受けた患者の1年後の転帰について,オランダ11病院による前方視的多施設コホート研究が報告された.246名(81.5%)(平均年齢61.2歳,男性71.5%,ICU滞在日数の中央値18日)において1年後の追跡調査を行った.1年後の時点で,身体的症状は182/245名(74.3%),精神的症状は64/244名(26.2%),認知症状(Cognitive Failure Questionnaire-14にて評価)は39/241名(16.2%)で認められた.頻度の高い身体的問題は,体調の悪化(38.9%),関節のこわばり(26.3%)関節痛(25.5%),筋力低下(24.8%),筋肉痛(21.3%)であった.以上より,後遺症の頻度は高く,身体症状,精神症状,認知症状の順に多い.
JAMA. Jan 24, 2022(doi.org/10.1001/jama.2022.0040)

◆抗CD20療法中の多発性硬化症患者もブースター接種で保護的効果を獲得しうる.
ノルウェーから,疾患修飾薬にて治療中の多発性硬化症(MS)患者を対象に,ファイザー/モデルナワクチンのブースター接種の有効性と安全性を評価した研究が報告された.対象は130名で,リツキシマブ100名(76.9%),オクレリズマブ1名(0.8%),フィンゴリモド29名(22.3%)が使用されていた.2回接種後,抗スパイクRBD IgGは,抗CD20療法群で8.9 AU,フィンゴリモド群で9.2 AUであったが,ブースター接種後,両治療群で有意に上昇した(それぞれ49.4 AU,25.1 AU;図2).液性免疫による保護的効果が得られる70AU以上の患者の割合は,抗CD20療法群で25/101名(24.8%),フィンゴリモド群で2/29名(6.9%)であった.リンパ球数が多く,CD19B細胞数が多いことが抗体上昇に関連していた.重篤な副作用を経験した患者はなかった.以上よりブースター接種により抗体価は上昇しうるが,リンパ球数が多いほど反応は良好で,抗CD20療法は,フィンゴリモドよりも良好であった.とくに抗CD20療法群では重症化リスクが約3倍高いことを考慮すると,液性免疫による保護的効果の獲得が4分の1であっても,ブースター接種を検討すべきと考えられる.T細胞ついては検討されていない.
JAMA Neurol. Jan 24, 2022(doi.org/10.1001/jamaneurol.2021.5109)



◆抗CD20療法中でB細胞が枯渇している場合,なんとワクチン接種は強力なT細胞応答をもたらす.
オーストリアから,抗CD20療法中の神経免疫疾患患者において,抗CD20療法がワクチン接種後の液性および細胞性免疫反応に及ぼす影響を検討した研究が報告された.対象は抗CD20療法中の神経免疫疾患患者82名と年齢・性別をマッチさせた健常対照者82名とした.SARS-CoV-2特異的な抗体は,対照群(82/82名;100%)に比べ,患者群(57/82名;70%)では有意に少なかった.B細胞が検出されない患者群(<1 B cell/mcl)では,検出される患者群(≥1 B cell/mcl)と比較して,seroconversion率および抗体価が有意に低かった.抗CD20療法群で,B細胞数≧1cell/mclではseroconversionを誘導することができた.抗体反応とは対照的に,武漢株およびデルタ株に対するT細胞反応(IFNγ ELISpot assayにて評価)は,B細胞が検出されない患者群において,検出された群よりも頻度(p<0.05)および大きさ(p<0.01)において顕著であった(図3).以上より,<span style="color:blue;">mRNAワクチン接種に対する抗体反応は,抗CD20療法中の患者において,B細胞の再増殖が始まることによって可能となる.またB細胞がない場合でも強力なT細胞応答が生じ,この高リスク集団におけるCOVID-19重症化からの保護に役立つと考えられる.
Ann Neurol. Jan 23, 2022(doi.org/10.1002/ana.26309)



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