『ノーカントリー』のコーマック・マッカーシーのベストセラー小説の映画化らしい。『ノーカントリー』の、というところに引っかかった。コーエン兄弟の手で映画化されたあの作品の感動再び、だなんて思ったのではない。そこまで虫のいい話はなかなかないし。
劇場でこの映画の予告編を見た時、これっていつもの終末もので、本来大スクリーン向けの大作なのではないか、と思った。それが、気になっていたのだ。SF娯楽大作タ . . . 本文を読む
正直言うと、酒井美知代さん演じる少年にはかなり違和感があって、さすがに受け入れ難い。彼女が悪いのではなく、いくらなんでも年齢的に無理があり過ぎるのだ。芝居だから、と言いたいところだが、一応リアリティーを追求した現代劇なんで、そこに引っかかったら、芝居に集中できない。さらには、あのチロリンマン! いくらなんでもお笑いではないのだから彼が出てくるだけで真剣に芝居を見れなくなる。そんなことではいけない . . . 本文を読む
天吾と青豆の2人に、今までは傍役だった牛河も加入して、主人公は3人になった。Book3は、彼ら3人の視点から見た話が交互に語られながら展開していくことになる。従来の2人に牛河の視点が入ることで、ドラマはある種の客観性を持つ。
天吾と青豆が苦難を乗り越えていかにして出逢えるのか、というお話で引っ張っていく「すれ違いメロドラマ」のスタイルなのだが、今回は今まで以上にドラマらしいドラマがなくなり、 . . . 本文を読む
『伊勢物語』の東下りを題材にした能の『杜若』をボヴェ太郎のダンスによって見せていく。7人の能楽師を従えて、アイホールに作られた特設能舞台で舞うボヴェ太郎の美しさに魅せられる。
とても現実とは思えない美しい空間がそこには立ち現れる。この夢幻の世界に酔う。回廊式の空間。少し傾いだ舞台。正面から見ると幾分斜めに設置されてある。闇の中からそれが浮かび上がる瞬間の興奮。下手から4人の囃子方が登場する。 . . . 本文を読む
これはもうイベントムービーだ。だが、それはこの映画を貶める言葉ではない。事実は事実として受け止め、その中でやれることをやるのが大事で、本広克行監督は冷静にこの超大作をドライブしている。とても立派だ。ファンの期待にこたえることは当然の責務だが、それだけではない。この映画に関わったスタッフ、キャストはみんなこの「踊る」の世界が大好きなのだ。だからこの世界を大事にしながら、でもそこに甘えることなく映画 . . . 本文を読む
ミステリーに嵌っている丸尾拓さんの新作。いつものようにストーリーテラーの田中さんの案内によって、作品世界に一気に引き込まれていく。昭和モダンを背景にして、いかにもな人たちが繰り広げるフィクションの極みのようなお話をのんびり楽しめばいい。大仰な効果音の入れ方も、この作り物めいた世界をきちんと伝えていて悪くはない。
今回は謎解きよりも、設定のおもしろさの方に重点が置かれていて、そこもいい。トリッ . . . 本文を読む
思い切ったことをする。だが、今、このことをひとつのメッセージとして、広く観客に伝えたかったのだ。目の前にあるとても大切な事実をひとりでも多くの人たちと共有したい。分かってもらいたい。だから、ストレートに芝居として見せる。岩崎さんの覚悟の程がしっかり伝わってくる作品だ。
あいまいな描写は一切しない。大阪市のとんでもなく惨いやり方と、自分たちの真摯な闘いをありのまま伝える。もちろん行政の側にだっ . . . 本文を読む
全く方向性は違うけれども、教室を舞台にして子供たちと担任の先生による対決が話の軸になる、という意味では『パリ20区 僕たちのクラス』と比較してみたくなる。子供たちひとりひとりが生き生きと捉えられてあるという意味でも、この2本はよく似ているかもしれない。
ドキュメンタリータッチとフィクションスタイルという対極にありながら、この2本の示す「今」の感触はよく似ている。どちらも僕にとってはまるでリア . . . 本文を読む
こういう自伝的な小説は苦手だ。しかも、そこに描かれるのが、小説を書けない作家だったりして、なにもそんなことを題材にしなくても、と思う。まぁ、これが田中慎弥自身をモデルにしているなんて言わないし、そんなことはどうでもよい。面白ければ何の問題もないのだ。だが、その辺がどうも微妙。
ひきこもりの幼なじみの話し相手になるために、彼の家に行く。いい歳した大人が、彼の両親に頼まれて、会いに行くのだ。だが . . . 本文を読む
北野武の新作は久々となるヤクザ映画だ。本人が一度は封印したものを、再び取り上げるというのだから、それなりの覚悟を秘めた作品だろう、と楽しみに見た。だが、さすが北野監督である、まるで気負わない。今回はただひたすら娯楽映画に徹する。そのくせちゃんと残酷で、メジャー志向なのか、マニアックなのか、よくわからない。でも、まぁ、本人はまるで気にしてない。相変わらず本能のまま撮ってるように見える。(というか、 . . . 本文を読む
パリ20区の中学校を舞台にした1年間のスケッチだ。とてもいい映画だとは、思う。26人のクラスメートたちが生き生きと描かれているし、担任の先生と彼らとの間に生じる溝が少しずつ大きくなっていく過程がリアルに伝わってくる。職員室での教師間のやりとりもとてもさりげなく説得力がある。まるでドキュメンタリーであるかのように見える、という作者のねらいも確かに達成されている。しかし、なんだか、物足りない。
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こんなにもシンプルなのに、ここまで素直に胸に届く芝居は滅多にない。理屈ではなく感覚的な作品なのだが、これを観客に納得させるのはかなり難しいはずなのだ。ふつうの人なら、このストーリーで1本の芝居を作るのはとても怖いはずだ。ストーリーにもっと仕掛けがなくてはとてもじゃないが、1本の作品を支えきれないからだ。しかし、サリngROCKは、この単純さを信じる。この世界観をこのストーリーが支えることは可能だ . . . 本文を読む
花形みつるという凄いペンネームを持つ児童文学の作家さんの小説を初めて読む。このタイトルに惹かれた。かなりおもしろい。読みやすくて気持ちにいい作品だ。新太郎(子供たちにはその髪型からキタローと呼ばれる)と子供たちとの交流を甘く優しく描くのではなく、かなりリアルでそこそこシビアに描く。でも、なんだかとても暖かい。教育問題にもの申す、という大袈裟はもちろんない。だが、さりげなく、描かれる子供たちとの関 . . . 本文を読む
2時間を超える大作だ。100年後に祟る恨みだ。それってなんだか不条理だが、神原さんなので、納得せざるを得ない。神原さんが100年、と言えばもうそれでみんな納得する。末代まで祟るのだから、仕方ない。
このけれん味たっぷりの神原ワールドは、そのシンプルでストレートなドラマ作りを力にして無理なく観客を心地よい大衆演劇の世界に引き込むことに成功している。だが、転換のもたつきや、あまりにひねりのない . . . 本文を読む
家がない家族の話だ。ホームレスというわけではない。彼らは意図的に家を持とうとしない。家を失ったわけではないのだ。父(杉山寿弥)と母(小畑香奈恵)。上の娘(奥野彩夏)と下の息子(大竹野春生)。4人家族だ。彼らは卓袱台を囲んで夕食を摂る。今では失われつつあるような昔ながらの一家団欒がある。父が箸をつけるまで誰も食べないし、その次は母で、順番はちゃんと守られる。ただ、彼らには家がない。だから、野宿する . . . 本文を読む