不完全な人体、手がなく膝から下の足もない。本来この位置に留まっていられる姿勢でもない。背後には得体のしれない機械めいたものがある。小さな煙突のような物は、まさに何か蒸気を噴出させることを想起させる。引けば発信される動きを生じるのかもしれないハンドル。
しかし、すべてが不完全である。
決定的な集合体ではない、説明が不足しているのである。
『残り元素』という意味不明な題名。これ以上の分割は不能な要素である元素に、「残り」という修飾語を被せることに奇妙な違和感を抱く。
万物の根源である元素に残りがある?(現今、周期表には空きがない)
この台座の高さ、構成上の隙間から、この二つの物体は今しも落ちそうである。ひどく危うい。というか、すでに落下していても不思議でない人体、そして器械(これはもしかしたら、地上の変容、大地であり、噴出孔は火山を暗示しているのかのしれない)から滑り落ちてしまった人体、人体は二つの可能性を有している。
この不安定な胸をえぐる様な重い危機感…これ以上分割できない元素というのは、物理的問題ではなく、精神的な範疇における残り元素である。喜怒哀楽のような、表現可能な状態ではなく、言うに言われぬ『零れ落ちそうな危機感を孕んだ深淵』この精神の底の底に『残り元素』があると作家は提示しているのではないか。
若林奮という作家は、怖いほどに深い。
(写真は神奈川県立近代美術館/葉山『若林奮』展・図録より)
しかし、すべてが不完全である。
決定的な集合体ではない、説明が不足しているのである。
『残り元素』という意味不明な題名。これ以上の分割は不能な要素である元素に、「残り」という修飾語を被せることに奇妙な違和感を抱く。
万物の根源である元素に残りがある?(現今、周期表には空きがない)
この台座の高さ、構成上の隙間から、この二つの物体は今しも落ちそうである。ひどく危うい。というか、すでに落下していても不思議でない人体、そして器械(これはもしかしたら、地上の変容、大地であり、噴出孔は火山を暗示しているのかのしれない)から滑り落ちてしまった人体、人体は二つの可能性を有している。
この不安定な胸をえぐる様な重い危機感…これ以上分割できない元素というのは、物理的問題ではなく、精神的な範疇における残り元素である。喜怒哀楽のような、表現可能な状態ではなく、言うに言われぬ『零れ落ちそうな危機感を孕んだ深淵』この精神の底の底に『残り元素』があると作家は提示しているのではないか。
若林奮という作家は、怖いほどに深い。
(写真は神奈川県立近代美術館/葉山『若林奮』展・図録より)