密閉容器である、外に漏れることも外から入り込むこともない。
遮断、限定された空間内の空気には50㏄のパリの空気が混入されているという提示である。
確証、根拠を証明できない。空気に特定の命名はなく地球上を対流しているからである。しかし、これほど特定不可な物質は他にあるだろうか。確かに空気に何かほかの要素が混じるということはあるが、単に空気といった場合、窒素・酸素炭酸ガス…等である。しかも見えない。
見えないものに対する挑戦。見えないが存在することの畏怖、あるいは無感覚。それを「感じよ、凝視せよ」という命題である。空気は無ではなく有である。
存在の根拠、空気がなければ生物(人)は死ぬという自然の理。このガラス製アンプルの中には、パリの空気という芸術の都への比喩が入っている。アーテストの憧れる、あるいは集まるところのパリ、花の都パリという幻想が50㏄ばかり入っているというジョーク。空気は世界全体同質(気候による温度湿度の差はある)、しかしパリの空気は・・・歴史(時間)の作り出した精神的な概念は「パリの空気」と命名するに値するかもしれない。
写真は『DUCHAMP』ジャニス・ミンク www.taschen.comより
「僕は全くの旅客でこの土地には縁もゆかりも無い身だから、知る顔もなければ見覚えの禿頭もない。
☆目(ねらい)は繕(つくろうこと)を、慮(あれこれ思いめぐらせる)。
規約の度(ものさし)は、字を掩(隠す)謀(はかりごと)である。
新しい質(内容)の眼(要)である謀(はかりごと)が現れる。
較べて読んで、問うことである。
※見覚えの禿頭というのは、太陽。ここ冥府には現世でよく見た太陽がないと言っている。
Kがひさしぶりでぐっすりと眠ったあと、さらにおいしいコーヒーまで飲ませてもらえる満足感にひたりながらこっそり髪の編み目に手をのばして、それをほどこうとすると、ペーピは、疲れたように「さわらないで」と言って、Kとならんで樽のひとつに腰をかけた。
☆Kもまた、ゆっくり十分に眠ったのち、先祖の旅行鞄を受け、ひそかに罠に手を伸ばし、その試みを公開し、ペーピに「どうしても中止せよ」といい、先祖の最下部に並んで腰をかけた。