無味、無臭の地球を取り巻く気体の複合体は、不可視である。風や気圧などほかの条件により左右されることはあるが、五感で直接感じうる対象ではない。
にもかかわらず、『パリの空気50㏄』とタイトルする狙いは何だろう。
少なくとも空気を分けることなど出来ない。
不可能をあたかも可能なように見せる。脳を誤作動に導く構造は、積み重ねたデータへの不確定な信頼である。
言葉による誘導に疑惑を持たない。少しの不信、曖昧さを肯定する傾向を否定できない。
ガラス製アンプルに『パリの空気50㏄』が混入しているという馬鹿げた話を鵜呑みにし、直視の事実に虚偽はないとさえ感じてしまう。このメカニズムの根底にあるものは言葉の説得力である。身体の器官は《言葉》によって作動する。この問題を拡大視すると扇動にもつながる。
言葉と対象(物/世界)にある《空気》は『パリの空気50㏄』に近似する。
写真は『DUCHAMP』ジャニス・ミンク www.taschen.comより