野中道夫先生大いに語る
江嵜企画代表・Ken
六甲アイランドにある神戸国際大学、2016年第2回講演会が北祐会神経内科病院の野中道夫先生を講師に11月26日(土)午後1時半から同大学キャパス4階階段教室で開かれた。
「なぜ、食べ物が気管に入ってしまうのか」がテーマだった。教室は年相応の方々で大げさでなく超満員だった。たまたま空いていた席を見つけて潜り込むように座りスケッチした。
野中先生はいきなり年を取るとガンで死にません。誤嚥で肺炎になりなくなる人が多いのです。長い間、肺炎で亡くなる方は少なかった。ところが最近は高齢者人口の増加とともに肺炎の死亡数は増えていますと話をはじめた。
飲み込むことを専門用語で嚥下(えんげ)と呼びます。英語で燕はSwaollowと書きます。飲み込むこともSwallowです。おそらく燕のお母さんがエサを持ち帰ったときの子供たちの口の姿から文字が生まれたのでしょう。
野中先生は獣医さんの大学に入ったあと医科大学に進んだ。この日の講演で動物の話が頻繁に出て来た。サルの話ではサルの頭部の断面図と人の赤ちゃんの断面図を並べ人の赤ちゃんはサルの喉の形に極めて似ている。そもそもひとの喉の形は誤嚥しやすい構造なのです。赤ちゃんは鼻で呼吸しています。サルも鼻で呼吸していますから誤嚥しませんと話された。
ワニはガブっと獲物にかみついても何不自由なく呑み込めます。ワニの喉の形が誤嚥できないように出来ているからです。一方、人の喉には多くの利点があります。人は言語を操り人と人とのコミミュニケーション力をつけ進歩してきました。言語機能だけでなく、人は食べ物を口に入れたとき香しい匂いが鼻に抜けることをも楽しむことができるようになりました。
話を元に戻します。物が口の中に入れ、咀嚼すると唾液が出てきます。食べ物の塊が鼻に抜けないように喉の奥にある咽頭蓋が蓋をします。次に食べ物が気管に入らないように下咽頭蓋が蓋をします。食べ物が通過するときに間違ったところに行かないように遮断機が降りてくれるのです。全て条件反射でやっています。
講演のあと数人が質問した。一番手の人が「どうしたら誤嚥にならないのでしょうか?教えてください」と率直に聞いた。野中先生は「まず人の喉は「誤嚥」しやすい構造になっていることです。喉が詰まりそうになると反射的に咳払いします。遠慮なく咳をしてください。咳をすることによって食べたものが食道に入らないように飛ばしてくれます。咳払いは誤嚥を反射的に防いでいるのです。」と答えた。
「人の喉は、ワニのようにがぶっと飲み込めない構造にできています。だから飲み込むように食べないことです。時間をかけて、よく噛んでください。少しづつ食べていただければ全く問題ありません」と野中先生は答えた。次に「誤嚥を防ぐためのトレーニング方法はありますか」と聞いた。野中先生は「おしゃべりをすることでしょう。それと飲み込みやすい食べ物を出来れば選んでください」とつけ加えた。
質問入れて1時間半の話の半分は鼻(鼻孔)、口(口腔)、喉(咽頭)、気管、食道とそれぞれの位置と形を繰り返し映像で見せた。人の頭部を輪切りにした断面図を見ると気管が食道の前にあることを初めて知った。気管が食道の前に位置しているからどうしても食べたものが気管に入りやすい。人は誤嚥しやすい構造になっているのである。
人は呼吸を止めることなく同時に食べることが出来る。人間の身体は実によくできている。食べたものが気管に入らないで食道へ無事移動する機能にひたすら感謝である。野中先生の「赤ちゃんは誤嚥しません。赤ちゃんは鼻で呼吸しているからです。」という言葉が一番強く印象に残った。呑み込みの悪い素人がまとめるには難物の講演会だったことを白状する。(了)