神戸市民病院耳鼻咽喉科待合室風景
江嵜企画代表・Ken
7日入院、8日手術を終え13日、無事、神戸市民病院退院後、ちょうど1週間目の20日
午後4時30分予約で同病院、耳鼻咽喉科で主治医、道田哲彦先生の再診を受けた。
予約30分ほど前に診察室前に到着、手持ちのほぼはがきサイズのスケッチブックを取
り出しいつもの様にスケッチした。さすがに4時を過ぎると患者の数も極端に減る。
閑散とした雰囲気だった。
右耳たぶ付け根から上顎に沿うて10センチ切り、深さ4センチの場所に鎮座した直径
28ミリ強の腫瘍を完全に摘出する、事前に主治医から丁寧な説明を受けたが、あとで
聞けば聞くほど怖い、ひとつ間違えばリスクを伴う手ごわい手術だった。
「日にち薬」とはよく言ったものだ。術後の経過は至って順調である。実はこの日、
検査機関に出していた「組織の検査結果」を始めて聞かせてもらう日でもあった。
診察室に入ると何となく主治医の表情が冴えないなと直感した。医師を正面にパソコ
ンの画面を左にした所定の椅子に座った。
パソコン画面に検査結果が書かれていた。結論は「摘出した組織の一部に筋上皮がん
の疑いがある。再診が求められる。」との一行が否応なしに目に入った。
「8日の手術で腫瘍は完全摘出出来た。手術過程では今回の結果は予測できなかっ
た。再検査は「核医学検査」といいます。既に他に転移していないかどうか、「念の
ため」Pet/CT検査を受けていただくことになります」という主治医の言葉を静かに聞
いた。
主治医は「念のためです」という言葉を、気のせいか、数回繰り返されたような気が
する。「CT検査結果次第では、放射能治療などの通院の必要性が出てくる」との言葉
が続いた。
手術は大成功だった。しかし、「検査結果待ち」という言葉がそのあともついてま
わって頭から離れなかった。その一方で、結果を楽しみにするもうひとりの自分がい
た。ところが結果が上記である。その時の診察室を後にする筆者の後ろ姿は想像に難
くないと思われる。
船は港を出た。所在なく一晩を送った翌朝、21日、おそらく一生忘れることがないだ
ろうが、ハプニングが起こった。
午前9時15分に自宅に電話が鳴った。何事かなといぶかりながら受話器を取った。
「神戸市民病院です。道田先生に代わります」と看護師さんの弾んだ、と、感じた、
声が飛び込んできた。
「道田です。昨日、組織にがんの疑いがあるため27日に予約したPet/Ct検査を直ちに
キャンセルします。今朝、検査機関からの報告で、組織ががんでないことが最終的に
判明しました。ご心配されたこと思います。正式の結果です。ご安心ください。」と
話された。思わず「ありがとうございました。」と叫んだ。道田先生は「よかったで
すねえ」と受話器の向こうでなんども口にしておられた。
かかりつけの医師、家族、ごくごく限られた知人、友人にだけだったが、パソコンで
お知らせした。こだまのように激励、祝福、「無理するな」など心温まる返事が即届
いた。前の日に「念には念を入れて」の再検査だ、との主治医の言葉は確かに聞いた
が、もし予定どおり27日のPet・CT検査から始まっていたであろう「現実」は厳し
かったに相違ない。
昨日、つきものがとれたように、午前11時前から午後3時前まで爆睡した。友人の一
人からの「術後であることを忘れなさんなよ。お大事に。」との言葉が特に印象に
残った。
世に「因幡の白兎」の話はつとに有名だ。『書教』にある「九仭の功を一簣に虧く」
と言う言葉が頭をよぎる。慢心することなく、残された限りある人生を噛みしめなが
ら日々送りたい。(了)