★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

暴力言霊装置

2010-11-23 14:12:41 | 思想
日本は言霊という妖怪が支配する国であるから、実態がどうあれ、いやな言葉を避けたり、言葉を変更したりすることに非常に気を遣う。日本鬼子萌え散らかし運動のときにも感じたけど、結局日本鬼子の絵をがんばって作っている人々を駆動しているのは、──日本鬼子を「ひのもとおにこ」に変更した楽しさである、と同時に、「日本鬼子」という言葉自体は変更できないという認識、あるいは我々が巻きこまれている現実的物質的状況はとても面倒くさいことになっているという諦念である。こんな心的状況が我々を突き動かす。

アメリカがうまかったのは、日本に平和憲法を与えれば、日本人はちょっとやそっとでその言霊から逃れることはできないということであった。さらにその国は自衛隊(軍隊)を置いたので、平和憲法との矛盾によって常に軍事的国家としては自殺し続ける、しかし、いまだかつて実現したことのない暴力装置の存しない国家という理想を世界に発信し続けるのだ。そんな存在を傍らに、アメリカ自身は好きなことやりつつ、漸進的にいつか理想に近づきますです、という態度をとることができる。

あ、いま暴力装置と口走ってしまったが、最近も大臣が自衛隊とかを「暴力装置」といったことで野党から責められていた。暴力装置が言霊的にだめらしく、大臣は「実力組織」とか言い換えていた。プライドだけ高いすごくヘタレ感がある組織だな、きっとそれは……。それにしても、軍隊や学校を近代国家の成立要件としての暴力的な装置だと思っていない政治家がいるとは、さすが日本の政治家は平和憲法を守り抜く覚悟があるようである。暴力装置という言葉が本当はどこから来たのか知らないが、人間ともマシーンともからくりともつかぬその語感が素晴らしくよくできている、と私は思う。すくなくとも近代国家の本質を制度や機構などという言葉で語るよりよほどなんだか本質を突いているようではないか。

案外、自民党などは、長年の経験から、実際の自衛隊がいわば「やわらか戦車」みたいな感じのキャラクターになってしまっていて、実態と乖離していることをよく知っているから、「暴力装置」などという理想を言いたくなくなっているのかもしれない。暴力装置といってもいろいろな状態があるからなあ。国家の要件が暴力装置にあったとしてもそれはいつも実態としては安定していない。だから戦争にボロ負けしたりするわけだ。以前、ちょっと軍事オタクっぽい大臣が暴力装置だとちゃんと言っていたわけであるが、彼としては――きちんとした暴力装置であってほしいのだ。そういえばこの大臣の名前って日本共産党前中央委員会議長のペンネームの名字に似ている。

「暴力装置」と聞いてあなたは何を思い浮かべますか?これであなたの運命が決まります。

1、「暴力装置」なんてことをいう奴はマルクス主義者だ→すごいですね、よく知ってましたね。私ゃ知りませんでした。レーニンを読んだんですか。あ、スターリンですか?それともトロツキーですか?たぶん、あなたがマルクス主義者でしょうな。がんばって革命してください。

2、「暴力装置」はマックス・ウェーバーが使ってるお→そうですか、ウィキペディアに書いてありましたか。いますぐ日本の議員さんに教えてやりましょう。

3、「暴力脱獄」は名画だ!→まったく戦後世代は刑務所の怖さを知らんな……俺も知らんけど。

4、「暴力温泉芸者」を聞いてない奴はもぐりだ!→はいはい、そうですか。

マリアが私を捨ててほかの星にいってしまってから、それはオリオンかアルタイルかはたまた金星だったか?

2010-11-23 11:33:08 | 文学
昨日のいつかは知らないけど、トータル閲覧数6万回目に当たった方、おめでとうございます。いつも、あるいは、たまたまご覧下さりありがとうございます。御礼に、マラルメの詩の一節を送ります。これであなたの一日も私の呪いで台無しに。



  Depuis que Maria m'a quitté pour aller dans une autre étoile –
  laquelle, Orion, Altaïr, et toi, verte Vénus ? –
  j'ai toujours chéri la solitude.
(PLAINTE D'AUTOMNE - Stéphane Mallarmé)