★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

月給日からの出発

2013-08-16 20:18:29 | 文学


習作だけれどもまあまあ面白い壺井栄の「月給日」である。この方向性だってありえたのだ。「二十四の瞳」のような方面に行ってしまったのは、彼女に童話を勧めた佐多稲子や原稿を突っ返したこともある宮本百合子などが、彼女の才能を恐れたからではなかろうか。彼女の文学出発を漱石のそれに比肩して褒めている批評家がいたが、それほどでもなくても中年において出発したことを軽視するわけにはいかない。しかし、そうだとしたら、プロレタリア文学は青臭い文学だったということになってしまうであろう。まあ、そうではないのである。