★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

阿霞

2013-08-01 19:59:47 | 文学


「それは、私の金ですから、昔お世話になったお礼にさしあげます。お帰りになったら、良い匹をお求めになるがよいでしょう。幸にあなたには先祖の徳が厚いのですから、まだ子孫に及ぼすことができます。どうかこれから、二度と節制を失わないようにして、晩年を送ってください。」
 景は感謝して帰り、その金のうちから十余金さいて、ある縉紳の家にいる婢を買って細君にしたが、その女はひどく醜くて、それで気が強かった。景とその女との間に一人の子供が生れたが、後に郷試と礼部の試に及第した。
 鄭は官が吏部郎までいったが、間もなく没くなった。阿霞はその葬式を送って帰って来たが、その輿を啓けてみると中は空になって人はいなかった。そこで始めて阿霞が人でないということを知った。

――「阿霞」田中貢太郎訳