★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

その農園の扉を過ぎて 苺需めしをとめあり

2014-01-15 23:39:14 | 文学


十の蜂舎の成りしとき
よき園成さば必らずや
鬼ぞうかがふといましめし
かしらかむろのひとありき

山はかすみてめくるめき
桐むらさきに燃ゆるころ
その農園の扉を過ぎて
苺需めしをとめあり

そのひとひるはひねもすを
風にガラスの点を播き
夜はよもすがらなやましき
うらみの歌をうたひけり

若きあるじはひとひらの
白銅をもて帰れるに
をとめしづかにつぶやきて
この園われが園といふ

かくてくわりんの実は黄ばみ
池にぬなはの枯るゝころ
をみなとなりしそのをとめ
園をば町に売りてけり

――宮澤賢治「田園迷信」