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十の蜂舎の成りしとき
よき園成さば必らずや
鬼ぞうかがふといましめし
かしらかむろのひとありき
山はかすみてめくるめき
桐むらさきに燃ゆるころ
その農園の扉を過ぎて
苺需めしをとめあり
そのひとひるはひねもすを
風にガラスの点を播き
夜はよもすがらなやましき
うらみの歌をうたひけり
若きあるじはひとひらの
白銅をもて帰れるに
をとめしづかにつぶやきて
この園われが園といふ
かくてくわりんの実は黄ばみ
池にぬなはの枯るゝころ
をみなとなりしそのをとめ
園をば町に売りてけり
――宮澤賢治「田園迷信」