
「……ね……そうして不良少年らしい顔立ちのいい少年を往来で見付けると、お湯に入れて、頭を苅らして、着物を着せて、ここへ連れて来るのが楽しみで楽しみで仕様がなくなったの……もっとも最初のうちは爪だけ貰うつもりで連れて来たんですけどね。そのうちに少年の方から附き纏って離れなくなってしまうもんですから困ってしまってカルモチンを服ましてやったのです……そうして地下室の古井戸の中から、いい処へ旅立たしてやったんです。ここの地下室の古井戸は随分深い上にピッチリと蓋が出来るようになっていて、息抜きがアノ高い煙突の中へ抜け通っているんです。妾が設計したんですからね。誰にもわからないんですの。……でも貴方にはトウトウわかったのね……ホホホ……モウ随分前からの事ですからかなりの人数になるでしょう……御存じの家政婦も入れてね……ホホホホホ……」
私は見る見る血の気を喪って行く自分自身を自覚した。タマラナイ興奮と、恐怖のために全身ビッショリと生汗を流しながら、身動き一つ出来ずにいた。
これに反して相手は一語一語毎に、その美くしさを倍加して行った。そうして話し終りながら如何にも誇らしげに立上ると、寝台のクションの間に白い両手を突込んで探りまわしていたが、そのうちに一冊の巨大な緞子張りの画帳をズルズルと引っぱり出した。重たそうに両手で引っ抱えて来て石のように固くなっている私の膝の上にソッと置いて、手ずから表紙を繰りひろげて見せた。
――夢野久作「けむりを吐かぬ煙突」