
微風が北方からやつて來る。南方の海上には、海からいきなり立上つて固まつた感じのする御藏島の青い姿が見える。その島と、僕のゐる三宅島との間の海面には、潮流が皺になつて、波立つて、大きく廣々と流れてゐる。やがて、僕は身體の向きを變へて北方を眺めた。青い。何もかも青い。神津島、式根島、新島が間を置いて列つてゐる。その彼方には伊豆半島あたりなんだらうが、紫紺色に煙つてゐて何も見えない。遠い遠い色だ。その奧から小さい雲がいくつもいくつも産れて來て、あるものはしだいに大きく頭上に近づきながら消え、あるものは北から西へかけての海上にゆるゆると並んで動いてゆく。なんといふ魂をひきこむ奴等だ、あの雲どもは。それを見てゐるうち、僕は突然思ひがけない悲しみの情に捕へられた。僕は思ひ出したのだ、東京に置き去りにして來た筈の僕の生活を、この二年間のさまざまな無意味な苦しみを。それは無意味といふより仕方のないものだ。そして、今だに僕を苦しめてゐる。僕はそれから逃げ出すことはできないやうな氣がする。
――田畑修一郎「南方」
サザンオールスターズが高松のなんとかアリーナにきたんだけど、抽選に漏れた人が洩れる音を聞きにほんとにたくさんのひとがいたので、CDを聴いた方が良いのではと言ったら細に怒られました。音漏れすらなかった模様。近所の人たちは一安心だ。