★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

文化の価値と世代の価値

2023-06-20 23:37:11 | 文学


文化の価値について云われるとき、外国人は元よりのこと、多く完成されている古典を対象とする習慣も、その理由はうなずけるが私たちには或る物足りなさを感じさせる。云ってみれば、一定の文化水準にある者には、外国人に日本画の美しさがわかるように、日本人にもフィジアスの彫刻の均斉の美はわかるのだと思う。文化の相互的な理解というものは、そのような古典鑑賞にとどまらず、古典に輝いた精神が、今日の文化面でどのように変化し再出現し、或は破壊を通してより新しいものとして創り出されようとしているか。そのために世代の営んでいる偽りない辛苦の混乱をも、やはり懇に評価され、ひろい歴史の前に観察されなければなるまい。我々の世代が、文化を十分に享受しようと欲している熱意と、明日の文化をより豊にしようと希ってつとめている努力とは周密に観察され支持されねばならぬと信じる。

…宮本百合子「世代の価値」

若い頃にものを考えた自負のある人は油断すると、自分の世代を案外輝かしいものとみるものだ。で、自分が孤立していたことすら忘れ、文学や思想が衰退したと歎くようになる。やはり古いところからの視点が重要で、戦中世代、団塊の世代、すべて明治のひとたちからみりゃ新人類のひよっこに過ぎない。そんな風に考えりゃ、明治のむかしから大して我々がかわっていないことは分かるし、現代にだってりっぱにものを考えている人たちがたくさんいるとわかる。


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