
明るいというのではなく、ただ赤いという色感だけの、朝焼けだ。中天にはまだ星がまたたいているのに、東の空の雲表に、紅や朱や橙色が幾層にも流れている。光線ではなくて色彩で、反射がない。だからここ、ビルディングの屋上にも、大気中にまだ薄闇がたゆたっている。手を伸してみると、木のベンチには、しっとりと朝露がある。清浄な冷かさだ。
おれは今、この冷かさを感じ、この朝焼けを眺めている。いつ眼覚めたのか自分でも分らない。意識しないこの覚醒はふしぎだ。或はまだ酔ってるのかも知れない。夢の中にいるような気持ちである。――だが、この屋外に出て来る前、夜中には、たしかにはっきり眼が覚めた。
――豊島与志雄「朝やけ」