「都会のアリス」は好きな映画なのであるが、天使と一緒に旅しているうちに、自分も天使になりたくなって天高く舞い上がってしまったような男の話である。(←ほんとかいな……)
「ベルリン・天使の詩」も大学の時みて人並みに感激したつもりであったが、天使が地上に降りてくる理由が恋情なのはいまだに納得がゆかないのである。優等生の小学校六年生が思春期に転落して堕落してゆくのとおんなじではないか。相手がサーカスの女であることも、あるいは、「伊豆の踊子」みたいなものかもしれない。これに比べれば、例えば坂口安吾の「群衆の人」みたいなものの方が、天使たることの困難さと人間たることの困難さに直面していたのではないかと思うほどである。……ともかく、大学の時の私は、これは巧妙な政治からの逃避の映画だと思ったものだ。実際、「攻殻機動隊」やら「エヴァンゲリオン」やら、天使の問題と恋情の問題がいつも相関関係にあり、やれ天に昇ったやれ墜ちたと大騒ぎである。なぜ、その二つを切り離すことができないのであろうか。
現代の課題は、実際に人間として天使であることである。
……とはいえ、実際は我々は天使ではなく子供じみることで奴隷になろうとしている。
というのは、先日テレビで「ひみつのアッコちゃん」というのを観たからだ。私は、このアッコちゃんというのを手塚治虫原作だと思っていたくらいで、まんがもアニメも観たことがなかったのだが、細君はちゃんと変身の台詞まで諳んじていたから、わたくしの世代にとって何か思い入れがあるかもしれない。主演は綾瀬はるかさんで、大人の自分に変身してイケメン優男の働く化粧品会社の手伝いをしたりする話であった。どうみても主演女優の着せ替え映画だったので、中身はどうでもいいとはいえ、気になったのは次の点である。
・夏休みの宿題でコピペをやった綾瀬はるかに対して、担任の先生が「物事にはいい面と悪い面があって、コピペなんかすると頭に入らないんだよ」という誤った指導を行っていたこと。
・その結果、化粧品会社を乗っ取ろうとした、外国の軍事産業と繋がったヤクザもどきにたいして、株主総会で綾瀬はるかが「おじさんたちにもいいところがアルに違いない」と演説をぶち、物語のなかでそのヤクザもどきを殲滅し損なっていること。だいたい、そのあとそのヤクザもどきが工場爆破未遂までやらかしているのに、彼らがお縄になった形跡がない。
・魔法が解けて10歳に戻った綾瀬はるかである。が、惚れた17歳年上と一緒に働くために、がんばって勉強し嘗て詐称した早稲田大学にも入り就職活動でその化粧品会社を受け、なぜか全く老けていない思い人と再会したこと。たぶん二人は仲良く会社の奴隷に。
つまり、悪には目をつぶり、学校は就職のための手段、いや就職も恋愛のための手段といった企図すらはっきりしない、就職活動に際して自分が何を望んでいるのかさっぱり分からなくなるという仕組みを、今時の若人に対して楽しくすり込んでしまおうという悪質な映画なのであった。なぜ綾瀬はるかは、10歳から22?歳までの貴重な青春時代を、化粧品会社の優男のために費やしてしまったのであろうか。昔の少女まんがにとって、王子さまは架空の天使的なものであるが、それが大げさであればあるほど、読者は同時にしらけてもいたわけで、そのおかげで同級生のつまらん男子にも惚れるわけである。しかし、綾瀬はるかの場合は、自分が天使から大人の女に変化したことにあまり気付かずに、天使のまま、その優男を王子さまと勘違いした。しかも優男の方も、大人の女にしちゃ天使みたいなやつが現れたので、自分の仕事に役にも立つ理想の女そこにありと思ってしまった。要するに、二人とも、天使であることと大人であることをまぜこぜにしてしまったのである。もちろん、この勘違いは、職場が奉仕や目的実現の場というより「働かされる」の場であるということが分かっていない子どもに特有の現象である。ふつう、子どもは、思春期に絶対悪であるところの「働く汚い大人」を批判しているうちに、自分も同じように汚いことに気付いてゆくというプロセスをたどり、逆に天使たることのすばらしさを恋愛などで体験し、覚悟をもって社会に出て行こうとするのである。しかし、子どもが大人に交じって本当に楽しく労働してしまうとその過程を正しく踏むことができない。
何がいいたいかといえば、子どもに大人の労働を疑似体験させることが、如何に大人ではなく「就職」のことしか考えない「自分を天使と勘違いした奴隷」を生み出し、悪を放置させるかということである。大人にとっては、恋愛さえも労働の一部なのだ。そんなことをはやくから学ぶ必要があるであろうか。あっこちゃんは思春期の危機を奇跡によって救う話ではなかったのか?やはり商人たちは、学校と青春が邪魔でしょうがないのだ。
結論1:ベルリンの天使は恋愛して、そのあと如何に働いたのであろうか。
結論2:阪神が巨人に4連勝。日本シリーズ進出決定。阪神おめでとう、巨人はくたばれ。