ここはある昭和40年代にタイムスリップしたようなうらぶれた街の公園。ベンチでヒマそうにしているいかにもクサイ怪人の前を一人の善良そうな少年が通りがかった。
「おい、そこの童、物欲し顔してどっかに饅頭でも落ちていたかな?」
「何だ!馴れ馴れしい…僕は今幸福の探求で忙しんンだ!」
「なにッ!…やはりそうであったか!…わしの目に狂いは無かった! お前の顔に幸福の相が出ておる!」
「ホ、ホントですか!あなた様は一体どなた様で?…」
「オホン…ま、幸福を売る男とでも言おうか…何を隠そう、究極の覚者である!…」
「ああ…こ、これが運命と言わずして何であろう…あなたこそ、わが待ちわびたお方に違いありません!どうか、私にその究極の幸福に至る方法をご伝授してください!…」
「これは門外不出の秘伝につき、少々高くつくぞよ!とりあえず、秘密のマントラをばン万円で伝授するとしよう…むろん前払いでな!…」
「じ、実は…小生、低所得者の身、ここは分割払いという訳にはゆきませんか…」
「たわけッ! ビビビンッ!」と、ビンタ三連発して、まくし立てる怪人…
「このあり難き縁に出会いながら、ン万円の金も都合出来ずに何とする! 腎臓の一つや二つでも売って用意するんだ!…」
数日後、少年は体中傷やコブだらけのなりをして、やって来た…
「先生! 命がけでドロボーして作って参りました…」
「ウン!…でかした!…」
「先生、では早速幸福のマントラを…」
「ではとっておきのマントラを授けて進ぜよう…”ピリリカララトロロスパゲティ”…」
「先生、スミマセン…覚えきれないのでモ一度ゆっくりお願いします」
「そ、そうか…モ一度しか言わないから耳穴カッポじって聞くように…”ピリカラマカロニウンポポベロンチョ”…」
「何だか、さっきと違う気がするなあ…それにしても、先生は口臭がクサイですね、僕の短い鼻が曲がりそうだ…」
「そりゃ、そうとも千年も仙人生活をしているのだからな…」
「千年!…仙人であられたのですか!」
「さよう…神仙境に比べれば、このシャバの時間なんぞ、まばたきするようなものである…。ところでさっきの残りの金は通信教育のDVD代にあてがうこととしよう…」
「ハハッ、永遠の幸福のためなら…なんなりと…」
「よしッ! ますます気に入った! もう、こうなれば千年に一度の大盤振る舞いだ! 秘伝中の秘伝”私はいない”を特別に伝授することにしよう!
数日後、また来るがよいぞ…」といって怪人は足早に去って行った…
「つ、ついに僕はこの世の勝者になるのか!」と少年は天にも昇る気持ちに浸りながらその日を待ちわび、はやる気持ちを抑えながら再びやって来たものの、怪人は現れなかったのである。公園のベンチには別の老人が座っていた…少年はすかさずたずねた。
「おい、ジイサン! この辺で汚い衣をきた仙人のような人を見かけなかったかい?」
「仙人じゃと! まさか、あの鼻が曲がるほどクサイただの妖怪モドキのことかいな?」
「よ、妖怪モドキ? あの覚者先生が…」
「聞いて呆れるワイ…あれはな…社会の弱者、しがない小市民の永遠の敵”ねずみ男”じゃ!」
「ね、ねずみ男だって!?…そ、そんな…有り金全部持ってかれた…」
「さては”いない、いない、バア”の術に引っかかったな…」
「たはッ!…現実は何てきびしいんだろ…」
と、その時、空に妙な物体が現れた…
「僕は今、夢でも見ているんだろうか?これが悪夢だといいな…UFOだか何だか知らないけど、一つ目のお化けに見える…さっきからアイツに何か見透かされている気がしてしょうがないや…」
「あ、あれは目玉のオヤジだ! あんなところに化けて出ておるの…これは何かの瑞祥じゃよ…」
「何でもお見通しなのかな…」
おしまい
(追悼水木しげる先生)
「おい、そこの童、物欲し顔してどっかに饅頭でも落ちていたかな?」
「何だ!馴れ馴れしい…僕は今幸福の探求で忙しんンだ!」
「なにッ!…やはりそうであったか!…わしの目に狂いは無かった! お前の顔に幸福の相が出ておる!」
「ホ、ホントですか!あなた様は一体どなた様で?…」
「オホン…ま、幸福を売る男とでも言おうか…何を隠そう、究極の覚者である!…」
「ああ…こ、これが運命と言わずして何であろう…あなたこそ、わが待ちわびたお方に違いありません!どうか、私にその究極の幸福に至る方法をご伝授してください!…」
「これは門外不出の秘伝につき、少々高くつくぞよ!とりあえず、秘密のマントラをばン万円で伝授するとしよう…むろん前払いでな!…」
「じ、実は…小生、低所得者の身、ここは分割払いという訳にはゆきませんか…」
「たわけッ! ビビビンッ!」と、ビンタ三連発して、まくし立てる怪人…
「このあり難き縁に出会いながら、ン万円の金も都合出来ずに何とする! 腎臓の一つや二つでも売って用意するんだ!…」
数日後、少年は体中傷やコブだらけのなりをして、やって来た…
「先生! 命がけでドロボーして作って参りました…」
「ウン!…でかした!…」
「先生、では早速幸福のマントラを…」
「ではとっておきのマントラを授けて進ぜよう…”ピリリカララトロロスパゲティ”…」
「先生、スミマセン…覚えきれないのでモ一度ゆっくりお願いします」
「そ、そうか…モ一度しか言わないから耳穴カッポじって聞くように…”ピリカラマカロニウンポポベロンチョ”…」
「何だか、さっきと違う気がするなあ…それにしても、先生は口臭がクサイですね、僕の短い鼻が曲がりそうだ…」
「そりゃ、そうとも千年も仙人生活をしているのだからな…」
「千年!…仙人であられたのですか!」
「さよう…神仙境に比べれば、このシャバの時間なんぞ、まばたきするようなものである…。ところでさっきの残りの金は通信教育のDVD代にあてがうこととしよう…」
「ハハッ、永遠の幸福のためなら…なんなりと…」
「よしッ! ますます気に入った! もう、こうなれば千年に一度の大盤振る舞いだ! 秘伝中の秘伝”私はいない”を特別に伝授することにしよう!
数日後、また来るがよいぞ…」といって怪人は足早に去って行った…
「つ、ついに僕はこの世の勝者になるのか!」と少年は天にも昇る気持ちに浸りながらその日を待ちわび、はやる気持ちを抑えながら再びやって来たものの、怪人は現れなかったのである。公園のベンチには別の老人が座っていた…少年はすかさずたずねた。
「おい、ジイサン! この辺で汚い衣をきた仙人のような人を見かけなかったかい?」
「仙人じゃと! まさか、あの鼻が曲がるほどクサイただの妖怪モドキのことかいな?」
「よ、妖怪モドキ? あの覚者先生が…」
「聞いて呆れるワイ…あれはな…社会の弱者、しがない小市民の永遠の敵”ねずみ男”じゃ!」
「ね、ねずみ男だって!?…そ、そんな…有り金全部持ってかれた…」
「さては”いない、いない、バア”の術に引っかかったな…」
「たはッ!…現実は何てきびしいんだろ…」
と、その時、空に妙な物体が現れた…
「僕は今、夢でも見ているんだろうか?これが悪夢だといいな…UFOだか何だか知らないけど、一つ目のお化けに見える…さっきからアイツに何か見透かされている気がしてしょうがないや…」
「あ、あれは目玉のオヤジだ! あんなところに化けて出ておるの…これは何かの瑞祥じゃよ…」
「何でもお見通しなのかな…」
おしまい
(追悼水木しげる先生)