人生の裏側

人生は思われた通りでは無い。
人生の裏側の扉が開かれた時、貴方の知らない自分、世界が見えてくる・・・

ヒタイまで数センチ…

2015-12-12 17:17:14 | 回想
プロレスは善と悪の図式をくっきりと映し出す、まるでこの世の相対的世界の縮図のようです。
リング上で行われているのは民族や人種間の疑似戦争みたいなものです。
戦争という戦争は全てこういう仮想現実でやって欲しいものですね。
人々の鬱積した憎悪感などはリングという雛形?に全てぶつけてしまって忘れちゃう…全盛期のプロレスは、あまりいい趣味ではないですが、案外こういうところに存在意義もあったんじゃないですかね。
この代理闘争?は日本(良い日本人対悪い外人)よりも本家アメリカで顕著に見られました。
例えばドイツ系のレスラーはナチス・ドイツの将校のコスチュームを纏って現れたり(まだ戦争感情が残っていたのです。ちなみに日系の悪役レスラーのいでたちは語るだに恥ずかしい田吾作スタイル…。ジャイアント馬場も新人時代やらされてました。トホホ…)…もっともほんとにドイツ系とは限らなかったらしいですが…
1950年代後期、米国五大湖周辺で、それまでパッとしなかったのですが、このナチ・ギミックであるレスラーがブレイクしました。
その名はフリッツ・フォン・エリック。如何にもって名前です!(ちょっと信じがたい話ですが、彼はホントはユダヤ人らしいです!でもユダヤ教徒でなく熱心なクリスチャンだったとか)
だが60年代になるとこのギミックを捨ててしまいます。それ以上の戦慄すべき武器を売り物にし始めたからです。
それがアイアン・クロー(鉄の爪)!です。これこそエリックの代名詞と言うべきで、彼のニックネームであると同時に必殺技の名でもあったのです。(こういう例は数少ない)
この伝説のレスラーが昭和41年11月から12月にかけてジャイアント馬場のインター王座に挑戦すべく来日したのです。
私はそれ以前に少年雑誌で、鉄人ルー・テーズとか魔王デストロイヤーなどをその鉄の爪でズタズタにした!という記事を見て、ものすごくその伝説性を掻き立てられたものでした。
ただこのアイアン・クローなる技が血を観ずにおかないという事は分かるが、どういうメカニズムでそうなるかが分からなかったのでした。
この二連戦の第二戦(日本武道館での初興業)は動画で観れますが、問題なのはテレビで一度しか観てない大阪での第一戦の方です。
確かゴングが鳴ったか鳴らないかの内に、馬場が挨拶代わりとばかりにチョップを見舞った…そこから先は私には第二戦と記憶がダブってしまっているのか、似たような展開だった気がしてしょうがないのです。
とにかくもう、エリックが前年のブルーザーに負けじと殴る、蹴る、コーナーポストへガツン!一方的な展開…だが馬場は一瞬のスキをついて先制のフォール…”ワン、チュー、スリー”とレフェリー、オキ・シキナのカウントが入るや…ニューッと下からエリックの魔の手が…”ああッ、と決まったあ、アイアン・クローだ!”し、しかし何がどうなってんのか判然としません。
実況の(古館アナなどと違って)格調高い清水アナが伝えるには…”食い込んでます!”…な、何が?”指です! ガッシリと!馬場のヒタイに!”
ウ、ウソだあ!…そして…”おびただしい血が!…”…これを聞いて、私はもう絶句するしかありません。鉄の爪とはリンゴを掴んでそのままジュースにしてしまうという、エリックの人間離れした握力にものを言わせた”顔面掴み”のことだったのです!
”そんなん、死んじまうだろ!”私は思わず、エンターテインメントであることを忘れて戦慄を覚えてしまいました。
しかしこういう試合の流れは、確かにそのまま第二戦と被ってるように思えてならないのですが…
こちらの試合でハッキリ印象付けられているのは、ある意味でのクライマックス…あわや番外戦という一幕でした。
リングサイドに陣取る大男…前シリーズで馬場に敗れ、友情が芽生えたのか、鉄の爪対策を買って出たゴリラ・モンスーンです。
アメリカ本国でエリックとモンスーンが宿敵同士だったって話は知らないですが、”ヘイ、カマーン”とリングの中と下でにらみ合う両者…結局試合は1体1のあと、エリックがこれに気を取られてリングアウト負けになってしまったのでした。外人頂上決戦も幻におわりました。
馬場とエリックはこれ以降、70年代にかけて何度も戦いますが、”ああッ、エリックの手が伸びてきた…危うし、馬場! ヒタイまで数センチ…”というのが、その実況放送の定番となりました。
それにしてもエリックは、ブルーザーと同じくこの初来日の時がもっともスゴ味があったのは言うまでもありません…。
(幻の第一戦が観てみたい!)

コメント
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