2016年に刊行された沢木耕太郎のボクシング小説。
沢木耕太郎と言えば「深夜特急」である。
バックパッカーのバイブルと言われている。
旅行好きの人で読んだ人は多いだろう。
そして「一瞬の夏」である。
これもボクシング好きの人は読んでいるだろう。
元東洋チャンピオンであったカシアス内藤を描いた小説である。
そしで「春に散る」である。
冒頭の1節目から・・・沢木耕太郎であると思った。
読みやすい。ボクシング小説ではなく旅小説ではないか、
と思わせるような書き出しで私の心を揺さぶった。
主人公の広岡仁一がキーウエストへ向かう道をタクシーで走っている。
旅小説でしょ?
広岡が何者であるかは読み進んで行くにしたがって解ってくる。
彼は初老であり、持病を抱えており、
キューバを一目見るためにキーウエストに向かっている。
元ボクサーであった彼が世界チャンピオンになると言う夢を持ち、
アメリカに渡ってきたのは40年前だった。
チャンピオンになれぬまま日本にも帰れず、
アメリカで40年間暮らしている間に一度も日本に帰っていない。
インドで12年間暮らした私は、なんとなく共感を覚えた。
彼はアメリカで苦労した甲斐があって、
ホテルを所有し成功者になっていた。
キーウエストではキューバは見えなかったが、
ある日本人選手の試合を観た事がきっかけとなり、
彼は日本に帰る決心をする。
40年ぶりに帰国した彼は、
なんとなくボクシングの試合を観に後楽園ホールへ行き、
そこでかつて所属していたジムの娘・令子と再会する。
彼のジムには世界チャンピオンを目指す4人の有望選手がいた。
世界チャンピオンを育てるという目的を持った会長が、
計画的に4人の選手を育てていたのだった。
結局、4人とも世界チャンピオンにはなれなかった。
彼は他の3人の消息を訪ね、
みな幸せではない人生を送ってきた事を知る。
生活に困っている3人と昔のように一緒に暮す事にした彼は、
1軒の大きな家を借り思い出をなぞり始める。
ある日4人は、酔っ払いと喧嘩沙汰になり、
そこで彼がノックアウトした一人の若者の面倒を見る事になる。
若者は挫折した有望なボクシング選手だった。
4人に教えを請うた若者は4人のコーチが教える事を
素早く体得して行き世界チャンピオンへの道を駆け上がる。
70歳近い4人と20代の若者が、
共に夢を叶えるために努力していく様子、
ボクシング理論や技術的な事、生活面と精神面、
作者が詳しいので納得しながら読んで行く事が出来た。
最後がちょっと悲しいけど、
読んでいてすがすがしい気分になる一冊。
2023年に佐藤浩市主演で映画化されている。
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