カレーなる日々 / शानदार दिन

インドの日常を中心に日々を綴っています。

「春に散る」沢木耕太郎

2025年02月06日 21時30分59秒 | 本 / BOOKS

2016年に刊行された沢木耕太郎のボクシング小説。

沢木耕太郎と言えば「深夜特急」である。
バックパッカーのバイブルと言われている。
旅行好きの人で読んだ人は多いだろう。

そして「一瞬の夏」である。
これもボクシング好きの人は読んでいるだろう。
元東洋チャンピオンであったカシアス内藤を描いた小説である。

そしで「春に散る」である。
冒頭の1節目から・・・沢木耕太郎であると思った。
読みやすい。ボクシング小説ではなく旅小説ではないか、
と思わせるような書き出しで私の心を揺さぶった。

主人公の広岡仁一がキーウエストへ向かう道をタクシーで走っている。
旅小説でしょ?

広岡が何者であるかは読み進んで行くにしたがって解ってくる。
彼は初老であり、持病を抱えており、
キューバを一目見るためにキーウエストに向かっている。

元ボクサーであった彼が世界チャンピオンになると言う夢を持ち、
アメリカに渡ってきたのは40年前だった。
チャンピオンになれぬまま日本にも帰れず、
アメリカで40年間暮らしている間に一度も日本に帰っていない。

インドで12年間暮らした私は、なんとなく共感を覚えた。

彼はアメリカで苦労した甲斐があって、
ホテルを所有し成功者になっていた。
キーウエストではキューバは見えなかったが、
ある日本人選手の試合を観た事がきっかけとなり、
彼は日本に帰る決心をする。

40年ぶりに帰国した彼は、
なんとなくボクシングの試合を観に後楽園ホールへ行き、
そこでかつて所属していたジムの娘・令子と再会する。

彼のジムには世界チャンピオンを目指す4人の有望選手がいた。
世界チャンピオンを育てるという目的を持った会長が、
計画的に4人の選手を育てていたのだった。
結局、4人とも世界チャンピオンにはなれなかった。

彼は他の3人の消息を訪ね、
みな幸せではない人生を送ってきた事を知る。
生活に困っている3人と昔のように一緒に暮す事にした彼は、
1軒の大きな家を借り思い出をなぞり始める。

ある日4人は、酔っ払いと喧嘩沙汰になり、
そこで彼がノックアウトした一人の若者の面倒を見る事になる。
若者は挫折した有望なボクシング選手だった。

4人に教えを請うた若者は4人のコーチが教える事を
素早く体得して行き世界チャンピオンへの道を駆け上がる。

70歳近い4人と20代の若者が、
共に夢を叶えるために努力していく様子、
ボクシング理論や技術的な事、生活面と精神面、
作者が詳しいので納得しながら読んで行く事が出来た。

最後がちょっと悲しいけど、
読んでいてすがすがしい気分になる一冊。

2023年に佐藤浩市主演で映画化されている。


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