(産経新聞)
書籍を音声化した“耳で読む本”の「オーディオブック」が注目されている。スマートフォン(スマホ)の普及とともに近年、利用者が急速に拡大。老 眼になると文字を読むのが面倒になり、読書から遠ざかって、新しいことを学ぶきっかけを失ってしまう…。そんな高齢者の強い味方になりそうだ。(加納裕 子)
100作がスマホ1台に
三重県松阪市の主婦、南田恵さん(61)=仮名=は平成26年2月から、オーディオブック配 信サービス「FeBe(フィービー)」を利用し始めた。昔から本が好きでよく読んでいたが、老眼が進むなどして、目の疲れが気になるように。オーディオ ブックを知り、「また本が読める」とうれしかったという。
使い方は、会員登録をして好きな本を購入し、ダウンロード。スマホに専用アプリを入れておけば、イヤホンを使ってどこでも“読書”ができる。
南田さんは家事や車の移動中、入浴中などに、100作以上を読破。「本棚に並んでいれば相当場所を取りそうですが、スマホ1台に収まっています。(データ なので)いらない本を古本屋に売ることはできませんが、もともと、本は手元に置いて気が向いたら読み返したい方なので不便は感じません」
朗読速度が調節できるため、南田さんは1・5〜2倍速に。時間短縮になる上、速聴による脳の活性化も期待している。「新しいことを学ぶのは素晴らしい。視力に自信のなくなる年代の私にとっては、手放せない」とほほえんだ。
アメリカでは70年代から
南田さんが利用しているフィービーは、運営するオトバンク(東京都文京区)が19年1月に開設。登録会員数は増え続け、今年1月に30万人を突破した。出 版社約500社の作品2万3千タイトル以上、ビジネス書から文芸書まで幅広いジャンルを網羅している国内最大のサービスだ。
同社による と、米国では車での通勤が主流のため、1970年代からカセットテープを使ったオーディオブックが普及。しかし、電車通勤が多い日本では、大量のカセット テープを持ち運ぶのが困難で、広まらなかった。ここ数年、スマホが浸透したことで、普及が進んできたという。
単にナレーターが本を読むだ けでなく、朗読者を本の世界観に合わせて選定しているのが特徴だ。例えば「モモ」「星の王子さま」などの児童書は、女性声優の佐久間レイさんが「お母さん に読み聞かせしてもらうイメージ」で朗読。浅田次郎さんの時代小説「一路」は、落語家の林家たけ平さんが江戸弁を表現した。住野よるさんの人気小説「君の 膵臓(すいぞう)をたべたい」や、啓発書「嫌われる勇気」は複数の声優が対話するように読み上げている。
提供会社も増加
近年では、オーディオブックを提供する会社も増えてきた。
27年には、米アマゾンの関連会社が展開する世界最大手のオーディオブック制作・配信サービス「オーディブル」が国内でのサービスを開始。約1万タイトル を月額1500円で聴き放題という定額制が特徴だ。米国やヨーロッパ、オーストラリアなど8カ国で展開し、世界中で数百万人規模の会員がいるが、日本向け には漫才や落語、時代小説などのコンテンツも充実させている。
日本オーディオブック協議会によると、日本の推定市場規模は50億円だが、世界的には書籍市場全体の5〜10%とされ、潜在的な市場規模は1千億円程度と推定。同協議会は「通勤などの移動時間に加えて、自宅での利用が増えている。シニア層や主婦層など、利用者層も広がっています」としている。』
高齢者だけではなく、活字離れした若い人たちにも利用されるのではありませんか。