2月21日、俳優の大杉漣さんが急性心不全で死去という報道が流れました。あまりにも突然すぎる訃報に動揺と悲しみが広がっていますが、大杉さんが亡くなった急性心不全というものについて解説します。

 ドラマにも元気に出演し、亡くなる3日前にはブログに愛猫の様子も投稿されていた大杉さん。亡くなるような要因はどこにも見られず、また持病や健 康に問題がありそうな事柄もこれといって特になさそうな様子であったのに一体どうして??という思いばかりが一ファンでもある筆者も抑えきれずにいます。

■急性心不全(虚血性心疾患)は病名ではない?

 急性心不全とは「心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し,心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への灌 流不全を来たし,それに基づく症状や徴候が急性に出現,あるいは悪化した病態」(急性心不全治療ガイドラインより引用)と定義されています。

 これは平たく言えば、「心臓が何らかの理由で急激に動かなくなり、循環状態に病的な影響を及ぼす」という状態。心臓は全身に血液を送るポンプの役 割を果たしておりますが、そのポンプが故障したために全身に血液を循環させる事ができなくなる訳です。血液には体の機能を維持するための酸素や栄養素が含 まれていますが、その血液が全身を循環できないという事は死に直結するのです。

 急性心不全治療ガイドラインによると、急性心不全は6つの病態に分けられます。原因がはっきりしない以上、大杉さんがどの病態に当てはまるのかは断定できませんが、何らかの原因により心ポンプ機能の急激な失調を示す「心源性ショック」の可能性があるように思います。

 実は厚生労働省報告には、急性心不全という疾患分類はなく、未だ明確な実態や動向は明らかにされていないのが現状。急性心不全を起こす原因は、心 疾患の三大危険因子と言われる「高血圧・糖尿病・高コレステロール血症や高脂血症などといった脂質代謝異常」から、「風邪などの感染症」、「アルコー ル」、「ストレス」など非常に多くのものが複合的に絡んでいます。

 元々不整脈が持病にある人が急性心不全を起こす事も多く、致死性不整脈が急性心不全の原因のひとつともなる事も多々あります。
この様に一つの疾患としての分類には急性心不全は位置づけられておらず、それ故か疫学的な調査も本格的にはあまり行われていない様です。

急性心不全の原因は非常に多い(画像は国立循環器病研究センター病院 循環器病あれこれ より)
急性心不全の原因は非常に多い(画像は国立循環器病研究センター病院 循環器病あれこれ より)

■急性心不全は突然死の中で最も多い

 東京都監察医務院のHPによると、急性心臓死あるいは心臓発作の大半が虚血性心疾患と報告しています。虚血性心疾患では安静時や労作時など時を問わず突然意識をなくし倒れ、症状出現後1分以内に命を落とす事も。

 この様に短時間で心肺停止に陥った場合、直ちに救急搬送しても蘇生することは極めて困難と言われております。
もし、目の前で意識不明の状態に陥った人がいた場合、その原因がもし致死性不整脈による急性心不全であれば、すぐさまAEDを使用する事で救命できるかもしれません。

 ちなみにAEDは動作が自動化されているので、つけることで機械が適切に判断し、必要な場合のみ電気ショックを流す仕組み。AEDを使用したから と言って必ず救命する事ができるとは限らないのですが、もし目の前で誰か倒れて「意識がなく」「呼吸がない」場合には、例え何が原因が分からなくても、と りあえずAEDを使用しましょう。AEDによって助かる命が増えることは確実です。日頃より自分の持ち場のどこにAEDがあるか把握しておくことは大事で あると言えます。AEDを持って来る人、救急車を呼ぶ人と分担して的確に救命処置が行える為にも自治体などが行っている救命講習を受けておきましょう。

■急性心不全は予防できうるか

 基礎疾患や原因が一つとは限らず完全に予防するのは難しい急性心不全ですが、その状態に陥るリスクを減らすことはできます。心疾患の三大危険因子 は先述の通り高血圧、糖尿病、脂質代謝異常の3つ。下水管に油やごみを流すと詰まりやすくなるのと同じで、コレステロールの塊が血管内に固まっていき心臓 を動かすための血管に詰まる事も原因のひとつ。

急性心不全のリスクを減らすためには

・会社などの定期健康診断は必ず受診すること。
・年に数回は血圧測定をすること(特に30歳以上の人)。
・塩分はできるだけ少なくする。肥満を防ぐ。
・何か症状が出たら医療機関に受診する。
・禁煙。
・ストレスをさける(特に競争心が強い努力家、性急、短気な人)。
・スポーツなどの趣味を適度に生活の中に取り入れ、睡眠を十分に取る。
(東京都監察医務院 突然死の中で最も多い急性心臓死 より引用)

健康的な生活を心がけて、少しでも突然死のリスクを減らすことが重要と言えるでしょう。

<引用・参考>
心不全 | 心臓 | 循環器病あれこれ | 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス
急性心不全治療ガイドライン – JCS – 日本循環器学会
東京都監察医務院 突然死の中で最も多い急性心臓死

(梓川みいな/正看護師)