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いずれ日本から「職人」がいなくなってしまう日が来るのだろうか。
全国各地で職人不足が嘆かれている現在。少子高齢化の中で、とりわけ建設業界での人手不足・後継者不足は大きな課題として認識されている。
また、2024年4月からは、建設業の時間外労働に規制が入り、建設業界全体の生産力低下も懸念されているところだ。
住宅の新築だけでなく、各地で再開発や建物の建て替えが行われている中、建設業界の労働力はどのような状態なのだろうか。政府の統計データから、現状の課題と今後の見通しについて考えていこう。
24年間で最も業者数を減らしたのは秋田県
そもそも日本には、どれほどの建設業者がいるのだろうか。
今年5月に発表された、国土交通省の「建設業許可業者数調査」の結果によると、2023年度末の業者数は47万9383業者となっている。前年度比で4435業者(0.9%)の増加だ。
ここで言う「業者」に該当するのは、建設業法に規定された許可を受けて建設業を営む者。国土交通大臣または都道府県知事から建設業許可を取得した会社の数を統計している。
建設業許可業者数が最も多かった1999年度末時点(約60万1000業者)と比べると、20年強で12万業者・約20%の減少となっている。
ただ、業者数が最も少なかった2017年度(46万4889業者)以降は、微増傾向にある。直近10年間は大きく増減することはなく、47万業者前後を推移する状態が続いている。(グラフ1)
業者数を都道府県別に見てみると、上位には東京都、大阪府、神奈川県と人口規模が大きな都市部が並んだ。
一方、下位には高齢化や人口減少が進む地域が多く含まれ、経済圏の大きさと業者数はある程度連動すると見ても良いだろう。
そして、同調査の中では、建設業許可業者数のピーク時(1999年度末・約60万1000業者)との比較も行われている。
全ての都道府県で減少となっているが、その減少率が最も大きかったのは秋田県で35.7%だった。宮崎県、群馬県、和歌山県、山口県と続き、これらの地域は3割以上の減少となっている。
それに対し、宮城県は24年間で0.4%の減少と、当時とほぼ変わらない規模で推移している。沖縄県と愛知県は4%台、神奈川県と東京都が約11%の減少率を記録し、自治体によってかなり差が大きい結果となった。
建設業の就業者数は減少傾向
業者数の減少よりも深刻なのは、建設業に携わっている「建設業就業者数」の減少だ。
総務省の「労働力調査」によると、日本の労働力人口(15歳以上人口のうち就業者と完全失業者を合わせた人口)は2023年平均で6925万人だった。2004年平均(6642万人)と比較すると283万人(約4.3%)の増加だ。
これは、女性の労働市場への参入が進んだことに加え、定年延長などにより高齢者が労働市場にとどまっている点が大きい。
ただ、人口減少が進んでいることなどもあり、6900万人台に乗った直近5年間は増加ペースが落ち、頭打ちとなっている。
こうした状況の中で、建設業就業者数は減少傾向が続いている。2004年に584万人だった就業者数は、2023年には483万人となり、この20年間で101万人(17.2%)が減少した。
建設業への女性の参入は増加傾向にあるものの、男性の比率が高い傾向に変わりはない。2023年は、男性395万人に対し、女性88万人という結果だった。
また、建設現場などでは肉体的な負担も大きく、労働力人口が増加していても、高齢化社会の中では建設業に就く人が減少しているのが実態だ。
このため、労働力人口に占める建設業就業者数の割合も、2004年は9.2%だったのが、2013年には8%を割り込み、2023年には7.2%となっている。(グラフ2)
総務省「労働力調査」より著者作成
年々増加の工事出来高、担い手不足でも耐えられる?
20年ほど前との比較だと、業者数も就業者数も減少しており、建設業界の先行きに不安を覚えてしまう。
一方で、国交省の「建設総合統計」を見ると、建設工事出来高はここ10年増加傾向にある。
2004年の53.3兆円から、2011年に42.0兆円まで落ち込んだものの、その後、増加に転じて2023年には57.1兆円となっている。(グラフ3)
国交省「建設総合統計」より著者作成
ここで、建設業就業者数と建設工事出来高の推移を重ね合わせてみよう。
下記のグラフからわかるように、2011年までは就業者数と出来高ともに減少となっていた。しかし、2013年ごろからは就業者数減少が続いているにも関わらず出来高は年々増加しており、グラフの開きは大きくなっている。(グラフ4)
総務省「労働力調査」および国交省「建設総合統計」より著者作成
建設工事出来高は、建設資材価格の高騰などで膨らむため、ここから建設工事数が増えているとは一概には言えない。しかし、就業者数が減少している中で、仮に工事数が増加しているのだとしたら大きな問題となりうる。
政府は、2014年に建設業の担い手の中長期的な育成・確保を図ることを目的の1つとして、建設業関連の法律(建設業法・品格法・入契法)を改正した。いわゆる「担い手3法」と呼ばれるものだ。
この担い手3法は、その後も2019年と2024年に改正されている。
改正では、建設業の担い手の確保のため、処遇の改善や働き方改革・環境整備などと合わせて、建設業の生産性向上策なども盛り込まれている。しかし、その効果がすぐには現れていないことが、建設業就業者数の推移を見てわかるだろう。
建設業は住宅の新築のみならず、生活上の重要なインフラ整備を担っている。特に、近年では地震や豪雨といった災害が多発しており、その復旧・復興や老朽化したインフラ対策などにおいて、建設業が担う役割は大きい。
就業者数の減少や、「2024年問題」と言われた働き方改革などにより、建設業全体の生産能力の低下が指摘されている現在。今後、どのように建設業の担い手を増やしていくのか、あるいは、新たな技術開発などにより生産性の向上を目指すのか、喫緊の課題となっている。
(鷲尾香一)