本日ご紹介するのはデクスター・ゴードン(以下デックス)です。彼については過去ブログでも「デクスター・ブロウズ・ホット・アンド・クール」を取り上げました。そこでも述べているように40年代のビバップ期に活躍しながら、50年代の10年間をヘロイン中毒のためほぼ活動できず、引退同然の状態でした。ところが1960年代に入るとブルーノートを中心に次々と傑作を発表し、以後は1990年に亡くなるまでジャズ界の重鎮であり続けました。1984年には映画「ラウンド・ミッドナイト」にも出演し、アカデミー主演賞にもノミネートされたのでジャズファン以外にも比較的知られている存在かもしれません。もっとも「ラウンド・ミッドナイト」でのデックスは演技というより本人そのままという感じですが・・・本作「デクスター・コーリング」は1961年5月9日に録音されたブルーノート2作目で、デックスが復活の狼煙を上げた名盤「ドゥーイン・オールライト」の3日後の録音です。
メンバーはワンホーン・カルテットでリズムセクションがケニー・ドリュー(ピアノ)、ボール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)です。曲は全7曲。うちスタンダードが2曲で、後はメンバーのオリジナルです。デックスの演奏スタイルと言えば変にフレーズをこねくり回さないどっしりとした太いトーンが持ち味ですが、1曲目自作曲の”Soul Sister”がまさにその典型。ややとぼけた味わいのあるスローブルースをやや遅すぎるぐらいのペースで悠々と吹き切ります。当時流行していたコルトレーン風のモードジャズとは対極に位置するスタイルですが、これこそがデックス節。2曲目ドリュー作”Modal Mood”はタイトル通りモード風の曲で、ここではデックスもスピーディなソロを披露するのですが、どうも似合いませんね。自作曲のバラード”Ernie’s Tune"もドリューのロマンチックなピアノをバックにデックスが悠揚迫らざるテナーソロを聴かせてくれます。スタンダード2曲は「情事の終わり」の邦題で知られる"The End Of A Love Affair"とチャーリー・チャップリン作の名曲"Smile"ですが、通常バラードで演奏されるこれらの曲をアップテンポで料理しています。特に前者の出来が最高でデックスのメロディアスでありながら男性的で力強いテナーソロに魅了されます。ブルーノートのデックス作品は前述「ドィーイン・オールライト」に加え、本作に続く「ゴー」「ア・スウィンギン・アフェア」そして「ゲッティン・アラウンド」と大名盤揃いですので、その中だとやや地味な作品なのは否めませんが聴き逃がせない1枚であることに変わりはありません。