ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

デクスター・ゴードン/デクスター・コーリング

2024-02-16 21:13:57 | ジャズ(ハードバップ)

本日ご紹介するのはデクスター・ゴードン(以下デックス)です。彼については過去ブログでも「デクスター・ブロウズ・ホット・アンド・クール」を取り上げました。そこでも述べているように40年代のビバップ期に活躍しながら、50年代の10年間をヘロイン中毒のためほぼ活動できず、引退同然の状態でした。ところが1960年代に入るとブルーノートを中心に次々と傑作を発表し、以後は1990年に亡くなるまでジャズ界の重鎮であり続けました。1984年には映画「ラウンド・ミッドナイト」にも出演し、アカデミー主演賞にもノミネートされたのでジャズファン以外にも比較的知られている存在かもしれません。もっとも「ラウンド・ミッドナイト」でのデックスは演技というより本人そのままという感じですが・・・本作「デクスター・コーリング」は1961年5月9日に録音されたブルーノート2作目で、デックスが復活の狼煙を上げた名盤「ドゥーイン・オールライト」の3日後の録音です。

メンバーはワンホーン・カルテットでリズムセクションがケニー・ドリュー(ピアノ)、ボール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)です。曲は全7曲。うちスタンダードが2曲で、後はメンバーのオリジナルです。デックスの演奏スタイルと言えば変にフレーズをこねくり回さないどっしりとした太いトーンが持ち味ですが、1曲目自作曲の”Soul Sister”がまさにその典型。ややとぼけた味わいのあるスローブルースをやや遅すぎるぐらいのペースで悠々と吹き切ります。当時流行していたコルトレーン風のモードジャズとは対極に位置するスタイルですが、これこそがデックス節。2曲目ドリュー作”Modal Mood”はタイトル通りモード風の曲で、ここではデックスもスピーディなソロを披露するのですが、どうも似合いませんね。自作曲のバラード”Ernie’s Tune"もドリューのロマンチックなピアノをバックにデックスが悠揚迫らざるテナーソロを聴かせてくれます。スタンダード2曲は「情事の終わり」の邦題で知られる"The End Of A Love Affair"とチャーリー・チャップリン作の名曲"Smile"ですが、通常バラードで演奏されるこれらの曲をアップテンポで料理しています。特に前者の出来が最高でデックスのメロディアスでありながら男性的で力強いテナーソロに魅了されます。ブルーノートのデックス作品は前述「ドィーイン・オールライト」に加え、本作に続く「ゴー」「ア・スウィンギン・アフェア」そして「ゲッティン・アラウンド」と大名盤揃いですので、その中だとやや地味な作品なのは否めませんが聴き逃がせない1枚であることに変わりはありません。

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ハンク・モブレー/ハンク

2024-02-15 21:01:47 | ジャズ(ハードバップ)

ブルーノートに合計20枚以上ものリーダーを吹き込み、同レーベルの顔と言っても良い存在のハンク・モブレーですが、初期の6つの作品は自分の名前を冠した同じようなタイトルばかりで紛らわしいことこの上ないです。まず、1955年のデビュー作が「ハンク・モブレー・カルテット」、翌年に「ハンク・モブレー・セクステット」、次いで1957年に「ハンク・モブレー&ヒズ・オール・スターズ」「ハンク・モブレー・クインテット」「ハンク」「ハンク・モブレー」と続きます。特に最後の2つなどもうちょっと何とかならんかったんかい!とツッコみたくなりますね。ジャズ愛好家はレコード番号を暗記したり(本作ならBN1560)しているようですが、個人的には共演メンバーで覚えるのが良いと思います。本作「ハンク」と続く「ハンク・モブレー」はどちらも3管編成のセクステットですが、前者がドナルド・バード(トランペット)とジョン・ジェンキンス(アルト)、後者の方がビル・ハードマン(トランペット)とカーティス・ポーター(アルト)です。メンバー的には本作の方がやや豪華ですかね。ちなみに本作のリズムセクションはボビー・ティモンズ(ピアノ)、ウィルバー・ウェア(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)です。

全5曲で前半2曲”Fit For A Hanker”"Hi Groove, Low Feedback"はモブレーのオリジナル。どちらもマイナーキーながらグルーヴ感を合わせ持つ典型的ハードバップです。ただ、両方ともどこかで聴いたような曲調でオリジナリティにはやや欠けるかも。個人的には後半3曲(レコードで言うとB面)の方が好きです。3曲目"Easy To Love"はコール・ポーター作の有名スタンダードですが、通常はバラードまたはミディアムテンポで演奏される曲を思い切ってアップテンポで演奏しています。これが素晴らしい出来で、メンバー全員の疾走感溢れるソロが最高です。4曲目”Time After Time”も有名スタンダードですが、こちらは原曲通りの美しいバラード演奏。5曲目は、「異教徒たちの踊り」の邦題で知られるバド・パウエルの”Dance Of The Infidels”で華やかに締めくくります。

演奏ですが、リーダーであるモブレーの歌心溢れるテナーはもちろんのこと、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったドナルド・バードのブリリアントなトランペット、そして幻のアルト奏者ジョン・ジェンキンス(以前本ブログでもご紹介しました)のプレイが聞けるのもハードバップ好きには嬉しい限りです。ピアノのボビー・ティモンズも後のソウルフルとした印象はなく、正統派のプレーを聞かせてくれます。

 

 

 

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デイヴ・ベイリー/バッシュ

2024-02-14 21:06:55 | ジャズ(ハードバップ)

本日は通好みのドラマー、デイヴ・ベイリーによる隠れ名盤を取り上げます。ベイリーについては以前エピック盤「ワン・フット・イン・ザ・ガター」を取り上げましたが、本盤はその翌年の1961年7月にジャズラインというマイナーレーベルに吹き込まれた作品です。この作品、とにかくメンバーが凄いです。三管編成のセクステットでケニー・ドーハム(トランペット)、フランク・ヘインズ(テナー)、カーティス・フラー(トロンボーン)、トミー・フラナガン(ピアノ)、ベン・タッカー(ベース)、そしてベイリーというオールスターメンバーです。唯一フランク・ヘインズだけあまり知られていない存在ですね。私のライブラリーではレス・マッキャンの「イン・ニューヨーク」でサイドメンに名を連らねていますが、他にもベイリーとは何枚か共演しているようです。1965年に37歳で肺ガンで亡くなった薄幸のテナーマンですが、ここではクセのない正統派のテナーを聞かせてくれます。肝心のリーダーのベイリーですが、特に目立ったソロを取ることもなく、あくまで裏方に徹しています。ドラマーのリーダー作といえば、アート・ブレイキーやマックス・ローチのように、随所に俺がリーダーだとばかりに長尺のドラムソロを取る人もいますが、ベイリーはそういうタイプではないようです。

曲は全6曲。うち2曲目"Like Someone In love"と5曲目"Just Friends"はお馴染みのスタンダードで、ここでは管楽器を抜いたピアノトリオで名手フラナガンの素晴らしいピアノが堪能できます。これはこれで良いのですが、やはり聞きどころは3管入りの方でしょう。1曲目"Grand Street"はソニーロリンズの作品。あまりメジャーではないですか、1958年のメトロジャズ盤「ソニー・ロリンズ・アンド・ザ・ビッグ・ブラス」で演奏されていた曲です。やや歌謡曲風のマイナー調のメロディーが印象的で、ヘインズの朗々と歌い上げるテナーソロに続き、フラー、フラナガン、ドーハムが哀愁に溢れるソロを聞かせます。3曲目"An Oscar For Oscar”はドーハムのオリジナル。こちらは痛快なハードパップで、作曲者ドーハムがソロを取った後、ヘインズ、フラー、フラナガンが快調にソロを受け渡していきます。4曲目"Osmosis はドラマーのオシー・ジョンソンの曲で、以前オリジナルを本ブログでも取り上げました。ズート・シムズのリヴァーサイド盤「ズート!」での演奏も有名ですね。こちらもマイナー調でありながら疾走感も併せ持つ名曲です。こちらは10分を超す熱演で珍しく最後にベイリーがドラムソロを披露しています。ラストの”Soul Support”はノリス・ターニーというあまりよく知らないジャズマンの曲でファンキーなミディアムチューン。これはまあまあと言ったところです。ジャズラインは数枚のレコードを残してわずか1年で消滅した泡沫レコード会社ですが、そんなマイナーレーベルにもこのような名盤が隠れているところが、ジャズの奥深いところですね。

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イントロデューシング・リー・モーガン

2024-02-13 21:15:08 | ジャズ(ハードバップ)

本日は天才トランペッター、リー・モーガンのサヴォイ盤をご紹介します。録音年月日は1956年11月5日。タイトルが示すように、まだ18歳だった若きリー・モーガンを世に売り出すための作品ですが、実は前日の11月4日にブルーノートに「リー・モーガン・インディード!」を吹き込んでいるため、厳密にはデビュー作ではありません。おそらくですがセッション自体は共演のハンク・モブレーのために用意されたもの(モブレーは同年に名盤「ジャズ・メッセージ・オヴ・ハンク・モブレー」をサヴォイに吹き込んでいます)でしょうが、共演のモーガンのトランペットがあまりにも鮮烈だったためにリーダーを入れ替えて発売したのではないかと推察します。モーガン、モブレー以外のメンバーはサヴォイの顔とも言えるハンク・ジョーンズ(ピアノ)にダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)と言った面子です。

アルバムはモブレーの自作曲"Hank's Shout"で幕を開けます。モブレーのドライブ感満点のソロの後、モーガンがまさに火の出るようなトランペットソロを2分間近くに渡って繰り広げます。18歳とは思えない驚異的なテクニックと情熱的なアドリブに、居合わせた面々が「何だこいつは!」と度肝を抜かれる様が目に浮かぶようです。続く”Nostalgia”は先輩トランペッターであるファッツ・ナヴァロ作の名曲で、ここではモーガンがミュート奏法でミディアムテンポのナンバーを軽やかに吹き切ります。モブレー、ジョーンズの歌心あふれるソロも見事。続くダグ・ワトキンス作の典型的バップ”Bet”を挟んで、後半4曲はスタンダードのメドレー。"Softly As In A Morning Sunrise"はワトキンスのベースソロ、”P.S. I Love You”はモーガン、"Easy Living"はジョーンズ、”That’sAll”はモブレーがそれぞれソロを取るリレー方式です。個人的にはこの手の趣向はあまり好きではありませんが、モーガンの情感たっぷりのソロはさすがで、バラードでの表現力もデビュー時点で身につけているのがよく分かります。この後10年以上にわたってシーンを引っ張り続けるモーガンのデビュー当時の姿を捉えた貴重な1枚です。

 

 

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ケニー・ドーハム/ショウボート

2024-02-12 15:47:31 | ジャズ(ハードバップ)

約3年ぶりのブログ更新です。公私ともに忙しかったのもありますが、ここしばらくずっと昔の洋楽ばかり聴いてたのが大きいです。このジャンル(特に70年代~80年代R&B)への熱い想いも語り始めると止まらないものがありますが、ブログの趣旨から外れるためあえてアップはしていませんでした。今日からは昔買ったジャズCDを中心にぼちぼち再開していきます。

ブログ再開第1弾は名トランペッター、ケニー・ドーハムの1960年の作品「ショウボート」です。ドーハムと言えばプレスティッジ盤「静かなるケニー」やブルーノートの諸作品が有名ですが、これはタイム・レコードというマイナーレーベルに残された作品です。タイム・レコードについては以前にピート・ルゴロの頁でも紹介しましたが、マイナーながら他にソニー・クラークやスタンリー・タレンタインのリーダー作もあります。ドーハムはもう1枚「ジャズ・コンテンポラリー」という作品を同レーベルに吹き込んでいますがこれは後日紹介します。




メンバーはドーハムの他に、テナーにヒース3兄弟の次男坊ジミー・ヒース(お兄さんがパーシー、弟がアルバート)、リズムセクションがケニー・ドリュー(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)、アート・テイラー(ドラム)です。アルバムはタイトル通り有名ミュージカル「ショウボート」の楽曲ばかりを集めたもので、ジェローム・カーン&オスカー・ハマースタインの名曲の数々をドーハムがいつものように淡々と演奏します。“Nobody Else But Me""Can't Help Lovin' Dat Man""Ol' Man River"等聞いたことあるスタンダードをオーソドックスに演奏するだけなので新鮮味はありませんが、メンバーが名手揃いなのでさすがの安定の出来です。個人的ベストは1曲目“Why Do I Love You?”。ケニー・ドリューの軽やかなイントロに導かれ、ドーハム、ヒース、そして再びドリューと全員が歌心たっぷりのソロを聞かせる名演です。

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