ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ケニー・クラーク&フランシー・ボラン/ザ・ゴールデン・エイト

2024-10-15 19:10:37 | ジャズ(ヨーロッパ)

1960年代以降、デクスター・ゴードン、ジョニー・グリフィン、ケニー・ドリューら多くのジャズマンがヨーロッパに移住したことについては当ブログでもたびたび取り上げてきましたが、その先駆者的存在が今日取り上げるケニー・クラークです。1930年代からプロのドラマーとして活躍していたクラークは40年代前半にディジー・ガレスピーらとビバップの誕生にも貢献したモダンジャズの生き字引的存在。その後もミルト・ジャクソン、ジョン・ルイスらとモダン・ジャズ・カルテット(MJQ)を結成する一方、マイルス・デイヴィス、J・J・ジョンソン、アート・ファーマーらの数々の名盤に参加。また、サヴォイ・レコードのハウス・ドラマーとして、ピアノのハンク・ジョーンズと並んで同レーベルの顔的存在でした。

そんなクラークですがキャリアの絶頂期にあった1956年にあっさりパリに移住します。成功を収めつつあったMJQのドラマーの座もコニー・ケイに譲り、多忙を極めていたサヴォイ・レコードの仕事もスパッと辞めてなので、相当思い切った決断と言えるでしょう。理由はアメリカの根強い黒人差別に嫌気がさしたのも一因と言われていますが、実はクラークは歌手のカーメン・マクレエと結婚していてこの年に離婚したそうです。私もこの記事を書くにあたってWikipediaで調べて初めて知りましたが意外な関係です。しかもクラークは白人歌手のアニー・ロスと浮気して、子供まで設けていた、等々いろいろ知らない情報が出てきてビックリですが、まあおそらく人間関係でもゴタゴタがあって色々リセットしたかったのでしょうね。

そんなクラークですが、ヨーロッパのジャズシーンでは「本場アメリカから大物が来た!」と歓迎を受け、パリを拠点に活発に演奏活動を続けるのですが、その中で最も気が合ったのがベルギー人ピアニストのフランシー・ボランです。この人についてもWikiで調べたのですが、50年代半ばに渡米してチェット・ベイカー・クインテットに加入したと書いてありますが、録音は残っていないので詳しいことはわかりません。とにかく2人は1960年頃にパリでバンドを結成し、演奏活動を行っていたようです。

本作「ザ・ゴールデン・エイト」はそんな彼らのことを聞きつけたブルーノートが1961年5月にドイツのケルンで録音したものです。プロデューサーはジジ・カンピと言う人物で、ケルンでカフェオーナーをする傍らジャズセッションを取り仕切っていたようです。メンバーはリーダーのクラークとボランに加え、タイトル通り総勢8人が集結しています。注目はユーゴスラヴィア出身のトランぺッター、ダスコ(正しい発音はドゥシュコ)・ゴイコヴィッチでしょう。70年代以降世界的に有名になる彼の若き日の演奏が収められています。他はオーストリア出身のカール・ドレヴォ(テナー)、イギリス出身のデレク・ハンブル(アルト)、ベルギー出身のクリス・ケレンス(バリトンホルン)、スイス出身のレイモン・ドロズ(アルトホルン)、そしてベースにエリントン楽団出身のアメリカ人ジミー・ウッドが名を連ねています。以上、国際色豊かで楽器のバラエティにも富んだ小型ビッグバンドです。

全10曲。うち6曲がボランのオリジナルで、残りは歌モノです。アルバムはジジ・カンピの名を冠した”La Campimania”で幕を開けます。力強いブラスセクションのアンサンブルで始まる急速調のナンバーで、カール・ドレヴォとフランシー・ボランがソロを取ります。ドレヴォは続くバラード”Gloria"でもダンディズム溢れるテナーソロを全編にわたって披露します。彼とデレク・ハンブル、そしてウッドの3人はこの後結成されたクラーク=ボラン・ビッグ・バンドでも不動のメンバーとして活躍します。

3曲目”High Notes"はダスコ・ゴイコヴィッチの独壇場で、タイトル通り高らかにハイノートをヒットさせます。私は例によって70年代以降のジャズはあまり聴かないので、彼のことはよく知らなかったのですが、並々ならぬ実力の持ち主だったことが演奏を聴けばわかりますね。6曲目”Strange Meeting"もボランがダスコのために書き下ろした曲と言うことで、彼のブリリアントなトランペットが全面的にフィーチャーされます。4曲目”Softly As In A Morning Sunrise(朝日のようにさわやかに)”はクリス・ケレンスのバリトンホルンと、レイモン・ドロズのアルトホルンをフィーチャーしたナンバー。どちらもあまりジャズでは馴染みのない楽器ですが、音的にはトロンボーンとフレンチホルンの間のような音かな?5曲目はタイトルトラックの”The Golden Eight"でデレク・ハンブルのアルトが初めてソロを取り、次いでダスコ→ドレヴォとパワフルなソロを展開します。

7曲目”You'de Be So Nice To Come Home To"は珍しくボランのピアノが大きくフィーチャーされ、その後ドレヴォのソロへと繋ぎます。8曲目”Dorian 0437"は変なタイトルですが、ケニー・クラークの電話番号だそうです。ソロはドロズ→ダスコ→ドレヴォです。9曲目”Poor Buttefly"はスタンダードのバラードですが、これはボランのアレンジが秀逸ですね。たゆたうようなケレンスのバリトンホルンに続くデレク・ハンブルの美しいアルト・ソロが絶品です。ラストの”Bass Cuite"はダスコ→ハンブルが熱いソロをリレーして締めくくります。この後まもなく、クラークとボランは正式にクラーク=ボラン・ビッグ・バンドを結成。アトランティック盤「ジャズ・イズ・ユニヴァーサル」でデビューを飾ります。そちらはさらに編成が拡大し、合計13人のオールスターメンバーですが、基本的な形は本作で出来上がっていると言って良いでしょう。

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ミルト・ジャクソン/ステイトメンツ

2024-10-13 09:23:53 | ジャズ(ハードバップ)

ミルト・ジャクソンについては、本ブログでもたびたび取り上げてきました。モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)のヴァイブ奏者として長年活動するとともに、ソロでも多くのリーダー作を発表しています。MJQとソロでは音楽性がかなり違い、ジョン・ルイスの影響が濃い室内楽的サウンドのMJQに対し、自身名義の作品ではファンキー&ブルージーな要素を前面に出しており、編成もホーン入りが多いです。

ただ、例外的にMJQと同じカルテット編成の作品もいくつかあり、有名なのはジョン・ルイスの代わりにホレス・シルヴァーがピアノを務めた1955年のプレスティッジ盤「ミルト・ジャクソン・カルテット」ですが、今日ご紹介する1961年のインパルス盤「ステイトメンツ」も忘れてはいけません。メンバーはハンク・ジョーンズ(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、コニー・ケイ(ドラム)と言った面々。いずれも名手揃いですが、ハンク・ジョーンズは良くも悪くも個性を前面に出さない職人肌タイプですし、全編においてMJQとは異なるミルトならではのソウルフルなサウンドが繰り広げられています。

全8曲。注目すべきはやはり4曲のミルトのオリジナルでしょう。オープニングトラックの”Statement”、3曲目の”A Thrill From The Blues”、5曲目”Put Off”とどの曲もミルトが縦横無尽のマレット捌きを見せつけるファンキーチューンです。ミルトのヴァイブは技術的に卓越しているのはもちろんですが、音の選び方が独特なんですよね。黒人特有のソウルフィーリングが体中から溢れ出てくるような感じと言いますか。ちょっと他のヴァイブ奏者では真似のできない領域です。

一方でミルトはバラードも得意中の得意で、スタンダード曲の”Slowly””The Bad And The Beautiful”、そして自作の”A Beautiful Romance”とうっとりするようなロマンチックな演奏を聴かせてくれます。ソニー・ロリンズの”Sonnymoon For Two”やデューク・エリントン”Paris Blues”と他のジャズマンのカバーも悪くないです。リズムセクションは決して目立つわけではありませんが、いつもながら良い仕事をするベテランのハンク・ジョーンズに、安定のポール・チェンバース、そしてMJQの時と変わらず息の合ったプレイを聴かせるコニー・ケイがミルトをがっちりサポートしています。

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ソニー・ロリンズ/ザ・サウンド・オヴ・ソニー

2024-10-11 19:30:47 | ジャズ(ハードバップ)

1950年代後半に全盛期を迎えたソニー・ロリンズはさまざまなレーベルに怒涛の勢いでリーダー作を発表しますが、1957年頃から演奏にも実験的な要素が加わり始めます。当時は異例だったピアノ抜きのトリオ演奏がまさにそれで、「ウェイ・アウト・ウェスト」「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」「フリーダム・スイート」と次々とピアノレス作品を発表します。当時のロリンズはテナーの第一人者としての評価を確立していましたが、現状維持を潔しとしない求道者的な性格が、新たなスタイルの開拓に駆り立てたのでしょう。この後、1959年からロリンズは3年間の充電期間に入りますが、ニューヨークの橋の下でひたすら練習を繰り返したのは有名なエピソードです。

一方で、この頃のロリンズは上記のピアノレス作品群とほぼ並行してオーソドックスなスタイルの作品も次々と発表しています。ブルーノート盤「ニュークス・タイム」や西海岸のオールスターを集めた「コンテンポラリー・リーダーズ」に加え、今日ご紹介するリヴァーサイド盤「ザ・サウンド・オヴ・ソニー」もそうですね。それらの作品は総じてスタンダード曲多めで、ロリンズも朗々とテナーを吹いており、ジャズ初心者でも十分に楽しめる内容です。

本作「ザ・サウンド・オヴ・ソニー」の録音年月日は1957年6月。タイトルにあるように、もう1人のソニーことソニー・クラーク(ピアノ)が加わっているのが最大の売りですね。2人の共演はこれが最初で最後ではないかと思います。ベースは曲によってパーシー・ヒースとポール・チェンバースが交代で務めており、ドラムはロイ・ヘインズです。

全10曲。2曲を除いて後は全てスタンダードです。基本的にはオーソドックスなピアノ入りのカルテット演奏ですが、1曲目の”The Last Time I Saw Paris"はピアノレストリオ、8曲目の”It Could Happen To You"はドラムもベースも抜きの無伴奏テナーソロでこの頃のロリンズのチャレンジングな姿勢が垣間見えます。”Just In Time"”What Is There To Say"”Dearly Beloved"”Ev'ry Time We Say Goodbye”あたりは有名スタンダードをシンプルに演奏しており、中でもバラードの”What Is There To Say"が秀逸ですね。

ただ、個人的イチ押しは3曲目の"Toot, Toot, Tootsie, Goodbye"。1920年代にアル・ジョルソンが歌った曲のようですが、インストゥルメンタルで演奏されることはほぼありません。youtubeで聴いたジョルソンの歌も他愛のないポップソングとしか思えませんが、これが見事なジャズになっています。ソニー・クラーク率いるリズム・セクションをバックに力強いテナーソロを繰り広げるロリンズが最高ですね。9曲目”Mangoes"も前年にローズマリー・クルーニーがヒットさせたラテンソングですが、こちらも出色の出来です。自作曲では7曲目”Cutie”がおススメ。可愛らしいタイトルどおり歌詞を付けたくなるような親しみやすいメロディを持った曲です。ラストの”Funky Hotel Blues"はCD用のボーナストラックだけあってまずまずの出来です。

 

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ルー・ドナルドソン/スイング・アンド・ソウル

2024-10-10 19:51:09 | ジャズ(ハードバップ)

ルー・トナルドソンのブルーノート作品と言えば名盤特集にはなぜか昔から1958年発表の「ブルース・ウォーク」が挙げられることが多いですね。そのこと自体に異論はありませんが、他の作品ももっと取り上げられるべきと思います。以前に紹介した「ウェイリング・ウィズ・ルー」等は個人的には大名盤と思いますし、スリー・サウンズと組んだ「LD+3」、そして今日ご紹介する「スイング・アンド・ソウル」あたりも名盤と呼ばれるにふさわしいと思います。

録音年月日は1957年6月9日。順番的には同年1月録音の「ウェイリング・ウィズ・ルー」と12月録音の「ルー・テイクス・オフ」の間に位置します。メンバーは盲目のピアニストとして有名なハーマン・フォスターに、ペック・モリソン(ベース)、デイヴ・ベイリー(ドラム)、レイ・バレト(コンガ)。翌年の「ブルース・ウォーク」と全く同じメンバーです。

アルバムはバラードの"Dorothy"で幕を開けます。スタンダード曲のような美しい曲ですが、ルディ・ニコルズと言うドラマーが書いたオリジナル曲とのこと。このニコルズと言う人について調べてみましたが、チャールズ・ミンガスや歌手のジミー・スコットの作品に参加しているそうですが、あまり詳しいことはわかりません。この”Dorothy"と言う曲自体もあまり他のジャズメンに取り上げられている形跡はありませんが、胸を焦がすような切ないメロディの名曲と思います。ルーの官能的とでも言うべきアルトの音色が絶品ですね。2曲目”I Won't Cry Anymore"はトニー・ベネット等が歌ったスタンダード曲ですが、インストゥルメンタルでは珍しいですね。ミディアムテンポの軽快なナンバーで、ドナルドソンの歌心溢れるアルト、独特のブロックコードを弾くハーマン・フォスターのソロ、とこれまた素晴らしい演奏です。

以上、最初の2曲だけで名盤認定しても良いぐらいの満足度ですが、他の曲も水準以上です。"Herman's Mambo"はタイトルから想像がつくようにハーマン・フォスター作のラテン・ナンバー。”There Will Never Be Another You"は通常ミディアムテンポ以上で演奏されることが多いスタンダードですが、ここではスローバラードでじっくり演奏されています。ドナルドソンの自作曲も3曲あり、”Peck Time"は典型的ビバップ、”Groove Junction"はミディアムテンポの快適なハードバップ、”Grits And Gravy"はこってりしたスローブルースです。以上、最初から最後まで中だるみすることなく楽しめる充実の名盤です。

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カーティス・カウンス/ユー・ゲット・モア・バウンス

2024-10-08 21:09:14 | ジャズ(ハードバップ)

ジャズのジャケットには色々ヘンテコなものがありますが、その中でもお色気系の代表格が今日ご紹介する1枚です。白衣を着た女医らしき金髪美女が胸に聴診器を当ててアッハ〜ンと声を出しているのでしょうか?まるで成人向け漫画のカバーみたいで、ハレンチ極まりないですね。

ただ、内容はいたって正統派のジャズです。リーダーはカーティス・カウンス。西海岸で活躍した黒人ベーシストでチェット・ベイカー「ピクチャー・オヴ・ヒース」、ショーティ・ロジャース「スウィンギング・ミスター・ロジャース」はじめ数々のウェストコースト・ジャズの名盤に参加しています。リーダー作も何作かあり、本作は1956年から1957年にかけて名門コンテンポラリー・レコードに吹き込まれた作品。メンバーはジャック・シェルドン(トランペット)、ハロルド・ランド(テナー)、カール・パーキンス(ピアノ)、フランク・バトラー(ドラム)。シェルドンだけが白人で、それ以外は西海岸で活躍する黒人ジャズマン達です。従ってウェストコースト・ジャズとは少し違う西海岸ハードバップとでも言うべきジャズが繰り広げられています。

全8曲。オリジナル2曲、歌モノスタンダード4曲、バップスタンダード2曲と言う構成です。オープニングはカウンス作のレイジーな雰囲気のブルース"Complete"で、カウンスのウォーキングベースをバックに、まずシェルドンのミュートトランペットが絡み、ランド、パーキンスがソロを取って行きます。2曲目以降は歌モノで、ランドのワンホーンによるバラード"How Deep Is The Ocean?"、メル・トーメやアート・ペッパーで有名な"Too Close For Comfort"、ドライブ感満点のハードバピッシュな"Mean To Me"と続きますが、イチ押しは5曲目の"Stranger In Paradise"。原曲はボロディンの「だったん人の踊り」で、それを「キスメット」というミュージカルのために編曲したものです。元々のクラシック曲が名曲ですが、本作での演奏も素晴らしく、ランドの歌心溢れるテナー、ややくすんだ音色のシェルドンのトランペット、パーキンスのエレガントなピアノソロがさらに曲の魅力を引き立てています。

6曲目"Counceltation"はモードジャズを先取りしたかのようなやや不思議な旋律のバラード。ラストの2曲はチャーリー・パーカーの"Big Foot"とディジー・ガレスピーの"Woody'n You"とビバップの2大巨人の名曲を軽快に演奏して終わります。前者ではカウンスの長めのベースソロもフィーチャーされています。結局、カウンスはコンテンポラリーに4枚、ドゥートーンに1枚「エクスプローリング・ザ・フューチャー」を残しますが、1963年に37歳の若さで心臓発作で亡くなります。本作の翌年に事故死するカール・パーキンスと言い、この頃のジャズマンは本当に早死にが多いですね。

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