図書館から借りていた 藤沢周平著 「乳のごとき故郷」(文藝春秋)を 読み終えた。2010年(平成22年)に、著者の郷里、山形県鶴岡市に「藤沢周平記念館」がオープンした際、それを記念して発刊されたエッセイ集だった。著者が生前に発表していた、故郷(鶴岡、庄内)への想いを綴ったエッセイ、48篇が収録されている。表題の「乳のごとき故郷」は、母乳と同じように、自分を育んでくれた故郷の風土、風習を意味しているようだ。著者の少年の頃の記憶、故郷の山、川、忘れられない故郷の味、友人や恩師のこと、変貌しつつある故郷への想い、故郷への絶ち難い熱い想いが、伝わってくる。共感、同感する懐かしいエピソード等が満載、座右の書にしたい位にも思える書である。
(目次)
第1部 子供時代
「村の遊び」「アップアップ」「町角の本屋さん」「サチコ」
「U理髪店」「ある思い出」「村に来た人たち」
第2部 ふるさとの風景
「日本海の落日」「鈍行列車」「緑の大地」「ふるさと讃歌」
「二月の声」「羽黒山の呪術者たち」「出羽三山」「霧の羽黒山」
「金峯山は母なる山」「月山のこと」「初冬の鶴岡」「三つの城下町」
「ふるさとの民具」「善宝寺物語」「初夏の庭」「帰省」
第3部 忘れられない味
「雑煮のこと」「夜明けの餅焼き」「冬の鮫」「孟宗汁と鰊」
「日本海の魚」「荘内の酒と肴」「塩ジャケの話」
第4部 父の血、母の血
「横座のこと」「母の顔」「明治の母」「母系の血」
第5部 友と恩師
「ある講演」「宮崎先生」「聖なる部分」「村の学校」
「自己主張と寛容さと」「旧友再会」
第6部 変わりゆく故郷
「帰郷して」「乳のごとき故郷」「都市と農村」「郷里の昨今」
「変貌する村」「高速道路がくる」
詩 二篇 「忘れもの」「冬の窓から」
解説 「悲しみの色」 阿部達二
表題になっているエッセイ「乳のごとき故郷」の中では、著者が、インタビューを受け、「子供の頃のことで一番記憶に残っているのは何ですか」と質問され、「戸外で遊んだこと」と答えたエピソードが紹介されている。著者は、「根っ木打ち」「矢投げ」「雑魚(ざっこ)しめ」「鳥の巣さがし」「杉鉄砲つくり」「川泳ぎ」「栗拾い」等、次々遊びの名前を上げ、熱心に説明すればする程、不機嫌になってしまったと書かれている。それらは、ほとんど消滅した遊びばかりであり、若い人からは、老人の懐古趣味と受け取られているに違いないと、気づいたからだった。ただ、著者は 老人が昔を懐かしむのに誰に遠慮がいるものかとも思っている。著者が、子供の頃のことや故郷のことを良くエッセイにしているのは、「いったいお前は何者?」と自問し、それに対して自答しているようなものであるとも書かれている。