古民家ギャラリーうした・ガレッジ古本カフェ便り

古民家ギャラリーうしたと隣のガレッジ古本カフェで催している作品展、日々の発見!、書評、詩などを紹介していきます。

江分利満氏の優雅な生活     山口瞳

2023-05-16 10:43:40 | 小説の紹介
新潮文庫    昭和43年

優雅な生活というから、金持ちのエリートの話かと

思っていたが、借金まみれの父親と自身がいるだけで、

ちっとも優雅じゃなかった。父親が事業で失敗して

大借金して、と苦労話がでたところで、いつものぼく

だったら、この本を放り出すが、今日のぼくは違う。

じっくりと読んだ。仕事小説というジャンルに属するか

とも思うが、それだけではない身辺の細々とした分析が

つづく。

昭和は恥ずかしい、と瞳氏はおっしゃるが、ぼくも、

バブルのころの日本が恥ずかしい。DJ COOとか

小室某とかが出てくる度に、ひとり恥ずかしく、冷や汗

など垂らしつつ、穴に入りたくなる。いや、あのころの

ぼくは、まだ少年だったのだが、そのころの苦い思い出

などと共に、死にたくなってくるのだ、と思う。

  (読了日 2023年4・27(木)12:30)
                 (鶴岡 卓哉)  
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ダライ・ラマに恋して      たかのてるこ

2023-05-12 12:08:18 | 本の紹介
幻冬舎文庫   2004年

前世を覚えている少女、デルダンに会う。不思議だ、

輪廻転生がほんとうにあるということだ。だとしたら、

前前世も前々前世もあるっていうことだろうか。連綿と

命は続いているっていうことか。ぼくが最近、想うのは

命というものは「存在」するだけで素晴らしいんじゃないか

ってことだ。ジャングルのなかで人知れず咲く花に、人は

なんの意味を見出せばいいんだろうか。ジャングルの一隅

で咲く花に「意味」などない。「存在」していることに

こそ意味があるのだ。そういうことをダライ・ラマ師匠も

言っている気がした。

「いい人」という言葉はなんとなくそわそわする。日本では

騙されやすい人とか、単細胞な人みたいな意味にとられかねない。

でも、「いい人」って大切だ。誰だって「いい人間」になり、

「よりよい人生」を生きたいと望んでいる。

とてもいい本だった。人におススメできる本だ。いろいろ

考えさせられるし、それはそれぞれの自分にとってとても

よい効果を生むだろう。

         
     (読了日 2023年4・25(火)22:25)
                    (鶴岡 卓哉)



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異端者の悲しみ    谷崎潤一郎

2023-05-10 07:07:03 | 小説の紹介
新潮文庫

なんともイヤな話だ、と思った。肺病やみの姉は最後に

死んでしまうのもそうだし、なんとも救われない話であ

るが、ラスト3行で、作家として成功したことがほのめ

かされているのが、明るい希望となっている。

ぼくも東京時代に、病気で働けもしなかったところを

チチに毎日、激しくいびられて、働けだの、将来はどう

すんだ、このバカヤロー、だの言われて、たいへん困った

日々を送っていたことも思い出し、この主人公の、友人

たちからおカネを無心したり、不義理したりするのを、

苦々しい気持ちで読んだ。

まったく若いときとは、なんともはや救いようのないこと

か、と思った。

  (読了日 2023年4・23(日)17:57)
                  (鶴岡 卓哉)



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怪しい交遊録     阿左田哲也

2023-05-09 06:28:43 | 本の紹介
集英社文庫    1988年

阿左田哲也とは色川武大のことであることは言わず

もがな、であり、生前、交際家でもあった色川氏の

交遊の広さを知ることができる。

35年前の本であり、今でも生きているのは、井上

陽水氏とか、佐藤愛子氏とか、美輪明宏氏くらいか、

大抵の人は鬼籍の人になってしまった。その人物の

見る目の鋭さは目を見張るものがある。

ナルコレプシーという奇病と、才能を併せ持った

人であった。

まあ、半分以上はぼくも知らない人だったし、若い人が

読んでもチンプンカンプンだろうね。

でも、読み物としてとてもおもしろかった。ヘンな小説

読むより断然良かったね、と思うね。

    (読了日 2023年4・21(金)2:06)
                   (鶴岡 卓哉)   
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秘密     谷崎潤一郎

2023-05-07 08:58:57 | 小説の紹介
新潮文庫

「刺青・秘密」という本の表題作。女装に目覚めた男。街に

繰り出しては楽しんでいた。そのときに、上海で知り合った

昔捨てた女と出会うが、すごい美人だ、と思い、拉致られて

俥で連れられて、遊んで帰っていく、ということをやっていた。

何度も何度も拉致られるので、目隠しするが、だいたいこの

辺だろうというところを突き止める。昼間に、その女を見ると

後家で魅力的でもなんでもない。そして、男はまた女を捨て

るのだった。

この漢字をたくさん使った文体だからこそ、この世界観は

形作られたのだろう、という気がする。

現代文でやってみても味気なくなるだろう。女と手(手紙)を

交わすのだが、そこのところがなんとも色気があって、よかった。

      (読了日 2023年4・19(水)9:00)
                    (鶴岡 卓哉)      
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幇間     谷崎潤一郎

2023-05-06 17:54:51 | 小説の紹介
この幇間(ほうかん)、とはいわゆる太鼓持ちの

プロというものだろう、と思う。

落語でもこの幇間のネタはあったと思う。ここで、

催眠術がでてくるのだが、おそらく、この頃、

催眠術というのは最先端の遊びだったんじゃあな

いか。

この前、TVで、催眠術をやっていて、外人で

通訳の言っていることに反応して、ヘビがキライだと

いうヘビを触ったり、犬になってワンワン吠えていたが

バカじゃなかろうか、通訳の言っていることに反応

してどうするのだ。なんの意味もない、だから、今の

時代タレント言われる人たちこそ幇間なんじゃない

かと思う。

 (読了日 2023年4・17(月)22:35)
                 (鶴岡 卓哉)
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少年     谷崎潤一郎

2023-05-05 10:23:16 | 小説の紹介
新潮文庫

お金持ちの女中についてきてもらって学校では大人しい

坊ちゃんに誘われて、祭りの日に家に遊びにいったぼく

栄ちゃんであり、そこで、危うい遊びを覚えていく。

光ちゃんという女子も交えて何やらエロティックに

さえ思える遊びに興じていく。そして、最後には、

光ちゃんの手下になり、恍惚を覚える仙吉と信一だ

った。と、ここで、谷崎独特のエロティシズムの冴え

をみることができよう。子供でも、その世界に耽溺

するエロティシズムを感じる。

小編だが、恐らく初期の瑞々しさを感じた。

       (2023年5・17(月)1:54)
                  (鶴岡 卓哉)
















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テレフォン・セラピー    野中柊

2023-05-03 15:04:36 | 本の紹介
新潮文庫   2002年

柊さんは電話で13H話した、という。すごいな女って、

女ってお喋りなんだよな。ぼくとは、話ししてくれない

けど。けど、柊さんなら30Mくらいなら話してくれる

かもしれない、と思った。だって、すごく、なんていう

か、話せるやつって感じするから。自分が落ち込んでい

たら、とことん甘やかせ、と彼女は語る。そうだな、

最近のぼくは落ち込んだりすること、あんまり、ないなあ

と思って、ずっと、まあ、怒ったりすることはちょっとは

あるけど、昔みたいに、内面でブちぎれることもなくなった

かな。もう50過ぎると、怒る体力もなくなっちゃってさ。

もう頭も剃っているし、坊さんだよ、悟りの境地に入って

るね。だから、上がりもしないけど、落ち込むようなことが

あっても、まあ、現実はこんなもんだよ、って、大して傷つきも

しないよね。ただ、気もちはフラットだよ。なんかこう、楽しく

てしょうがないみたいなのは、もう欲していないというかね。

生活に対して欲求することも変わってきたかなあ。


      (読了日 2023年4・16(日)18:14)

















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鶴岡 たか 風になった少女展

2023-05-02 07:51:19 | カフェ、ギャラリー
2023年4・29(金)~5・21(日)まで

古民家ギャラリーうしたと古本カフェにて鶴岡た

かのー40年の眠りからさめてー連作・風になった

少女展を開催いたします。


埼玉県春日部市で描かれた油絵で、1982年から83年に

鶴岡たかによって描かれたもので、倉庫にあったものを、

この度のコロナも落ち着いたので、たかが埼玉に帰った際に

倉庫に見つけたので、お披露目しようということに相なりました。

疾走感のある少女と地蔵という不動のものとの対比。地蔵と

いうもののフォルムの面白さ。草花との静物と少女との交流

を描いたもので、非常に日本的なものを描きつつ、それだけで

はない、普遍性さえ兼ね備えている、40年経っているのだけ

れど、決して、古くないそのアプローチには驚くべきものがある

かもしれない。 

この絵には、動きがあると同時に静かなる、悲しみや、モノの

憐れ、一瞬にして古びていく少女性、その輝き、がある。

同時に、童話の原画などもカラフルなので楽しめるかと

思う。

お近くにお越しの際はぜひ、お立ち寄りください。

おいしいコーヒー、ゆず茶、ワッフルなどをご用意して

お待ちしております。
















































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刺青     谷崎潤一郎

2023-05-01 07:38:37 | 小説の紹介
新潮文庫

この刺青は19歳の時に読んだ。そのときはどう思ったのか

は忘れてしまったが、もっと長いかと思っていたようだ。

籠から見えた足の形に惚れて、ずっと探し続けていたが、

ときに目の前にその娘が現れ、クスリを嗅がせて、彫り物

を入れてしまう。蜘蛛のもんもんだ。ぼくの心の目には、

その蜘蛛のもんもんが見えた、はっきりと、背中に、まるで、

その少女と言っていい16,7歳の女を食うように映えて

いる動きそうな蜘蛛が。ドキドキする掌編だ。こんな

スリリングな短編を書いてみたいもんだ、と思う。

尊敬できる作家に再び、30数年ぶりに出会えて、ぼくは

感激である。なにかの因果を感じる。

    (読了日 2023年4・15(土)1:35)
                 (鶴岡 卓哉)



















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