映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「コミュニティ」 篠田節子 

2009年08月24日 | 本(ホラー)
コミュニティ (集英社文庫)
篠田 節子
集英社

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篠田氏デビュー当時から約10年間に発表された秀作短編集。
ジャンルは一応ホラーというべきなのでしょうか。
ただ、ホラーの枠には収まりきれないものも。

表題作「コミュニティ」は、ある夫婦が、さびれた団地に越してきて、
その地域の信じがたいような濃密な人間関係に巻き込まれていく話です。
ほとんど一つの地域共同体。
これは新しい家族の枠か?
宗教か?
単なるおぞましい話なのか?
しかしまた逆にある意味これも悪くないかも・・・とも思えてしまう。
でも、気をつけなければならないのは、
こういう場所ではひとたびその枠を外れると
大変なことになってしまうということ。

ここまで極端ではないにしても、
ごく小さな、このようなコミュニティなら、
実は身の回りにもあるのかも、と思えてきました。
人間の築く社会は、実は何でもありなんでしょうね。


また、この本の解説、吉田伸子氏が絶賛していますが、
「夜のジンファンデル」は、私も気に入りました。
ジンファンデルというのは、ワインを造るのに適したブドウの品種名。
互いに結婚している男女の、大人の恋愛小説となっております。
互いの思いをわかっていながら、最後まで一線を越えないという、
甘く切ないこの物語には、ワインのブドウが良く似合います。

「大人の恋愛とは、耐える恋であり、叶わぬ恋なのだ。
決して実ることのない恋なのだ。」
と、彼女は言うのですが、実はそういうのは私も大好き。
このストーリーのラストには思わずうなってしまいます。
実らないままに終わる恋こそ、
一生密やかに、胸に抱いていけるような気がします。


一篇一篇が、思わぬ方向に進展してゆく、興味の尽きない作品集です。

満足度★★★★☆