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何をいまさら・・・、という方は多いでしょう。
恥ずかしながら、今回初めてこれを読みました。
そして、すっかりこの密やかな世界に引き込まれてしまいました。
語り手である僕、ワタナベは、まもなく二十歳の大学生。
始まりは彼の敬愛する友人、キズキの死。
自殺でした。
それも、彼と共にビリヤードを楽しんだその日のこと。
彼はこのように感じます。
「死は生の対極にあるのではなく、我々の生のうちに潜んでいるのだ」
キズキの死で同じく虚ろな心を抱えるようになったのは、キズキの恋人直子。
この二人は次第に心を寄せていくのですが・・・。
なんて密やかな物語なんでしょう。
この物語の背景は、まさに学生運動盛んな大学です。
そんな狂騒には関わらず、全く別個の密やかな世界が語られます。
心に残ったのは、直子がいた施設のこと。
世俗を離れた、一つの静謐なコロニーのようなもの・・・。
甘やかな哀しみが充満したその場所では、
ワタナベ自身も、ひどく自然体でいられる。
まるで、現実にはそこにない、夢の中の場所のようにかすんで見えます。
彼がそこから戻ったとき、普段の生活に馴染むのにしばらくかかってしまった、
そんな感じが良くわかります。
なぜかこの本を読んでいると自分自身もナーバスになった気がして、
そんな場所があったら行ってそのままそこで暮らしたい
・・・と思ってしまいました。
この本の中では、
私など、最も世俗にまみれたその他大勢であろうと思われるのですが・・・。
誰にでも、心の底にオリのようにたまった哀しみがあって、
癒しを求めているのかもしれません。
だからこそ、この本が愛されているのでしょうか。
心に弱さを抱え込んで、「普通」から道をはずしてしまった人の物語。
これって、結構特異な話かも知れないけれど、
実は多くの人の中にある普遍的な物語でもあるのでしょう。
読み終えて、思わず上巻の冒頭に戻ります。
そこには37歳になった「僕」が、
ハンブルクに向かう飛行機の中で聞いた「ノルウェイの森」の音楽に、
喪ったものの記憶がよみがえり、
哀しみの激情に襲われるシーンがあります。
それでも、ちゃんとここまで自分を保って生きてきた「僕」を
抱きしめたいと思いました。
37歳のオジサンですけれどね。
思い出すたびに切なさがこみ上げる。
そういう大切な本になると思います。
満足度★★★★★