栄光なき凱旋〈下〉 (文春文庫)真保 裕一文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
いよいよ3ヶ月連続発売、最後の巻となりました。
なんだかこの物語は上・中・下と進むにつれ、
加速度的に中身が濃く激烈になり、
そして主人公たちに愛着を感じていきます。
3冊を通すとかなりのボリューム。
ですが、この3冊分割発売が功を奏して、
続きがとても待ち遠しく感じられ、
2冊目を読むときには前の話を忘れていた、
などということも全くありませんでした。
さて、この巻では始め、前巻ジローとマットの極秘任務の続きです。
二人は大変な窮地に陥るのですが、負傷で動けないマットをジローが助け、
辛くも生還を遂げます。
ジローにある疑惑を抱いていたマットですが、
真相はわからないまでも、彼の中ではある種の解答がでる。
ここのシーンは最後の方で大きな意味が出てきます。
そして、最も戦闘とは縁がなさそうなヘンリーが、
皮肉にも、激戦地のイタリアで生死の境を体験することになる。
442連隊。
日系人のみで構成される連隊です。
まるで捨て駒のように、彼らは常に戦闘の最先端に立たされる。
けれども、彼らは自らがアメリカ人であることを証明するかのように、
また、本国に残された家族たちの地位を守るために、
死を覚悟で立ち向かってゆきます。
実際、この部隊は犠牲者も相当でしたが、
それ以上に功績も大きかったようです。
このあたりの戦闘の描写がすごいんですよ。
上巻の解説者野村進氏は
「著者はおそらく『プライベート・ライアン』を
活字の力で乗り越えようとしたのではないか」
といっています。
決してかっこいいのではありません。
目を背けたくなるような悲惨な描写が続きます。
ヘンリーも全く勇敢な戦士ではありません。
恐怖で身がすくみ動けないことも。
しかし、ほんのわずかな運命の差で、
つぎつぎと命を失っていく戦友たちを見るにつけ、
次第に恐怖よりも憎しみが勝ってくるのです。
そこにはもう、祖国の為・・・などというおためごかしは存在せず、
ただひたすら自分が生き延びるため、敵を殺すしかない、
そういう憎しみのみに突き動かされている。
こういう描写がすごくリアルで説得力があります。
そして怖いです。
こんな体験は、誰であれするべきではありません。
ジロー、マット、ヘンリー。
彼らは生き延びて終戦を迎えました。
けれども、その後また、ラストでは皮肉な運命が語られていきます。
最後には、感動で文字が霞みました・・・。
なんてすごい物語なんでしょう。
アマルフィなどではなく、これこそ映画化すべきだと思います。
でも、そのためには、ハリウッドの協力が不可欠でしょうし・・・
難しいでしょうね。
ちゃちなものなら作らない方がマシ。
久し振りに大作を読んだ充実感を感じております。
満足度★★★★★