映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「栄光なき凱旋 下」 真保裕一 

2009年08月13日 | 本(その他)
栄光なき凱旋〈下〉 (文春文庫)
真保 裕一
文藝春秋

このアイテムの詳細を見る


 
いよいよ3ヶ月連続発売、最後の巻となりました。
なんだかこの物語は上・中・下と進むにつれ、
加速度的に中身が濃く激烈になり、
そして主人公たちに愛着を感じていきます。
3冊を通すとかなりのボリューム。
ですが、この3冊分割発売が功を奏して、
続きがとても待ち遠しく感じられ、
2冊目を読むときには前の話を忘れていた、
などということも全くありませんでした。


さて、この巻では始め、前巻ジローとマットの極秘任務の続きです。
二人は大変な窮地に陥るのですが、負傷で動けないマットをジローが助け、
辛くも生還を遂げます。
ジローにある疑惑を抱いていたマットですが、
真相はわからないまでも、彼の中ではある種の解答がでる。
ここのシーンは最後の方で大きな意味が出てきます。


そして、最も戦闘とは縁がなさそうなヘンリーが、
皮肉にも、激戦地のイタリアで生死の境を体験することになる。
442連隊。
日系人のみで構成される連隊です。
まるで捨て駒のように、彼らは常に戦闘の最先端に立たされる。
けれども、彼らは自らがアメリカ人であることを証明するかのように、
また、本国に残された家族たちの地位を守るために、
死を覚悟で立ち向かってゆきます。

実際、この部隊は犠牲者も相当でしたが、
それ以上に功績も大きかったようです。
このあたりの戦闘の描写がすごいんですよ。
上巻の解説者野村進氏は
「著者はおそらく『プライベート・ライアン』を
活字の力で乗り越えようとしたのではないか」
といっています。
決してかっこいいのではありません。
目を背けたくなるような悲惨な描写が続きます。
ヘンリーも全く勇敢な戦士ではありません。
恐怖で身がすくみ動けないことも。
しかし、ほんのわずかな運命の差で、
つぎつぎと命を失っていく戦友たちを見るにつけ、
次第に恐怖よりも憎しみが勝ってくるのです。
そこにはもう、祖国の為・・・などというおためごかしは存在せず、
ただひたすら自分が生き延びるため、敵を殺すしかない、
そういう憎しみのみに突き動かされている。
こういう描写がすごくリアルで説得力があります。
そして怖いです。
こんな体験は、誰であれするべきではありません。


ジロー、マット、ヘンリー。
彼らは生き延びて終戦を迎えました。
けれども、その後また、ラストでは皮肉な運命が語られていきます。

最後には、感動で文字が霞みました・・・。
なんてすごい物語なんでしょう。
アマルフィなどではなく、これこそ映画化すべきだと思います。
でも、そのためには、ハリウッドの協力が不可欠でしょうし・・・
難しいでしょうね。
ちゃちなものなら作らない方がマシ。

久し振りに大作を読んだ充実感を感じております。


満足度★★★★★