蠅の王 (集英社文庫)ウィリアム・ゴールディング集英社このアイテムの詳細を見る |
1954年に出版されたこの本。
著者W・ゴールディングは、ノーベル文学賞受賞の英国人作家。
この本は、戦後最も重要な長編小説としての評価を受けています。
様々なところで引用される本でもあるので、
私も、題名だけはずいぶん前から知っており、興味を持っていました。
集英社文庫の今年の「ナツイチ」の中の一冊として売っていたので、
この機会にと、読んでみました。
ストーリーは、一見冒険譚です。
第三次世界大戦勃発。
英国の少年たちが、疎開のため飛行機に乗ったが、
荒天のため無人島に不時着。
飛行士たちはみな死亡し、少年たちだけが生き残った。
何人かの比較的大きな少年たちと、
何人いるのかもわからない大勢のちびっこたち。
思い浮かべるのは十五少年漂流記のような、
サバイバルと友情の物語なのですが・・・。
しかし、このストーリーは次第に様相が異なってきます。
リーダーとなるのはラーフという少年。
金髪で明るく人好きのする、まあ、確かにリーダー性のある子なんですね。
このラーフのブレインとも言うべきピギーは、
聡明なんだけれど、太っちょで、動き回るのは苦手。
この二人と敵対する関係となるのが、合唱隊のグループで、
彼らを取り仕切っているのが黒髪のジャックという少年。
こちらはかなり粗野で強引。
はじめのうち、ほら貝を中心に規則を作って協力し合っていた少年たちですが
次第に獣性が目覚め、些細なことで対立。
主に、ラーフとジャックの二派の敵対関係となっていきます。
闇に潜む「獣」におびえ、狂気にとらわれた少年たちは、
ついに暴走を始め・・・。
「蠅の王」とは、悪魔ベルゼブブのことを指しているのですが、
この物語ではハエが群がる豚の生首を「蠅の王」と形容しています。
これは単なる少年の冒険物語ではなく、
一つの寓話と捉えた方がよさそうです。
解説によれば、これは『原罪』について語っていると。
神聖なもの、理想・・・。
そういうことの象徴として「烽火」があるんですね。
いつか沖を行く船が見つけてくれるかもしれない。
そういう希望の象徴。
ラーフはまず最初に、
自分たちは「烽火」を絶やさないようにしなければならない、と提唱します。
人間の善の部分を表していますね。
一方、ジャックはそんなことより、狩りを重要視します。
島には野豚がいて、
豚を狩ることで次第に自己の中に潜んでいた獣性が目覚めてくる。
少年たちは、徐々にこの血に飢えた残忍なジャックの方に引きずられてゆく。
その象徴が、ハエが群がる豚の生首ということで・・・。
でも、「原罪」というのはキリスト教的教義で、
私たち東洋人にはちょっとピンと来にくい。
草食系のDNAを未だに色濃く持っている私は、
狩りのシーンなどは眉をひそめたくなるばかりで、
その雰囲気に引かれるなんてことはこれっぽっちも感じないのですが、
皆さんはいかがでしょう。
あるいは、男女差はあるかもしれませんね。
そういえばこの物語に女は全く登場しません。
全員男子ですね。
男性の皆さん「狩り」で血が騒ぎますか???
・・・とはいえ、次第に少年たちが「蠅の王」の思うがまま操られるかのように
破滅に向かって突き進んでゆく、この迫力には圧倒されます。
悪夢のようなこの小説。
小説力あり、ですね。
で、「原罪」はともかくとして、
私はむしろ、民衆とかリーダーとか、
そういうもののあり方についていろいろ考えてしまいました。
自分で何も考えようとしないちびっ子たちは、つまり民衆なのではないかと。
それを先導するリーダーのあり方が問題なわけです。
ラーフは普通にリーダー性があって、良識の持ち主。
掲げる理想ももっている。
けれど、まだ言葉が足りない。
もっと皆をひきつける言葉、理論、そういうプラスアルファに欠けるわけです。
頭の良いピギーがもう少しましなルックスを持っていれば、
あるいは・・・、という気もします。
一方、ジャックは強烈な個性。
しかも「烽火」などという今すぐ役に立たないものでなく、
「食欲」という直接的なものに訴えてくる。
多少うさん臭かろうが何だろうが、無知な民衆はこれでコロリ。
ジャックだけが悪いのではない。
彼を祭り上げる全体がおかしな方向へ走り出す。
・・・私たちは心して理性的でなければなりませんね。
30日は選挙ですから。
目先にとらわれず、冷静に良く考えましょう・・・。
満足度★★★★★