映画と本の『たんぽぽ館』

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光のほうへ

2011年08月04日 | 映画(は行)
生の危うさ、不確かさを救う“光”



          * * * * * * * *

つらい現実に打ちひしがれながら、それでもなお光を求めてやまない・・・そういう物語です。
デンマーク作品。


母親がアルコール依存症のため、まだ赤ん坊の弟を見守っていた兄、弟。
無垢ではかなげな赤ん坊に二人が名前を付け、育てようとしていました。
ところがある日赤ん坊は突然死。
このことが二人にとっては大きな心の傷となって残ります。
そして一気に年月が過ぎ、
二人はそれぞれの人生を歩んでいますが、決して幸福ではない。

恋人と別れ、自暴自棄になって人を殴り、刑務所に入っていた兄。

妻を交通事故で亡くし、息子を一人で育てている弟。

母親の死により、疎遠だった二人が久々に再会。
そこからまた運命の歯車が動き出します。



二人の中では、「生」の危うさ、不確かさが根付いていたのではないでしょうか。
どこか幸福を得ようとすることについて後ろ向き。
二人の心の形は“善”なのですよね。
幼い弟を守り育てようとしていた時、そのままに。
けれど、いつもその善い形を維持する強さがない。
自暴自棄になったり、麻薬の誘惑から逃れられなかったり・・・。
そのことは自分で自覚していながらもどうにもならない。
そしてまた気がつけば抜き差しならないどん底に落ち込んでいる・・・。

このように、暗いストーリーなのです。
けれど、この作品の静謐な光の描写が、
暗闇に差し込む一筋の光にも似て、どこか未来に向けての希望が感じられる。
そういうところがいいですね。
またここに登場する、弟の息子である少年の存在もいい。
子供の存在というのは、それだけで未来を感じさせるのです。



ラストにどんでん返しでよいことがあるわけでもなく、
むしろ悲劇の極みで終わるのにもかかわらず、
どこか光のほうへ歩んでいると感じられる・・・。
これぞ監督の手腕なのでしょうね。
よいモノを見させていただきました・・・!

2010年/デンマーク/114分
監督・脚本:トマス・ヴィンターベア
原作:ヨナス・T・ベングトソン
出演:ヤコブ・セーダーグレン、ペーター・プラウボー、パトリシア・シューマン、モーテン・ローセ