映画と本の『たんぽぽ館』

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「壁抜け男の謎」有栖川有栖

2011年08月31日 | 本(ミステリ)
新たな魅力

壁抜け男の謎 (角川文庫)
有栖川 有栖
角川書店(角川グループパブリッシング)


           * * * * * * * *

有栖川有栖氏のノンシーズものの短編集です。
つまり、お馴染みの火村准教授や江神部長などは出て来ないのですが、
非常にバラエティに富んでいて、
また新たな有栖川有栖氏の魅力を発見できる本です。

中でも「キンダイチ先生の推理」と「ミタテサツジン」は、
横溝正史と金田一耕助シリーズにオマージュを捧げた作品。
楽しいです!

「ざっくらばん」
・・・うっかり見過ごしそうですが、もちろん「ざっくばらん」が正しい。
けれど、初めからこんなふうに間違えて覚えてしまっていることって、たまにありませんか。
私は、それこそ推理小説につきものの最後の「大団円」を
ずっと「大円団」と覚えてしまっていて、
未だにどっちが正解だったのか混乱します。
今もわざわざ辞書で調べ直しました・・・。
まあ、とにかくこの作品はそうした思い違いで、
ある人の正体がバレてしまうというお話。
・・・やはり言葉は正確に覚えなければ!!


「ジージーとの日々」は、ミステリというよりはSFなのですが、
どこか郷愁を誘う作品。
「別冊ダ・ヴィンチ」に「ロボットをテーマにしたものを」と頼まれて書いたものだそうです。


最後の「恋人」は、『エロティシズム12幻想』という
官能小説のオリジナル・アンソロジーのために書かれた作品で、
確かに有栖川作品としては異色です。
正に官能小説ではありながら、幻想的で美しく儚い・・・。
へえ、さすが作家は、こういうこともできるのか・・・とちょっぴり驚かされます。

いつもトリックばかりを考えていたら、
時にはこういうミステリを離れたものを書いてみたくなるのでしょうね。
また、ミステリを離れても、作品を依頼する編集者のセンスもうかがえます。


巻末の解説は倉知淳さん。
さすがにここも作家の文章で、非常に楽しく読めて納得ができるのです。
とてもお買い得の本!!

「壁抜け男の謎」有栖川有栖 角川文庫
満足度★★★★☆