映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ツリー・オブ・ライフ

2011年08月13日 | 映画(た行)
命と思いを受け継ぎながら・・・



               * * * * * * * *

予想どおり、ちょっと難物の作品でした。
不覚にも、ちょっぴり居眠りもしてしまったのですが・・・
でも、今になって思い起こすといろいろと考えさせられる部分が・・・・。


ストーリーらしきものはあるにはあります。
1950年代半ば、テキサスの田舎町が舞台ですね。
オブライエン夫妻と、子供たち。
その長男ジャックが語り手となっています。
父親(ブラッド・ピット)は、男が成功するためには“力”が必要といい、
また、非常に厳格でもある。
「善人なんかにはなるな。人の食い物にされる」・・・と。
ジャックはそんな父が苦手なのです。
アメリカ作品らしく、父と息子の確執がここにもあります。
少年ジャックにとっては、
この家庭内で絶対的権力を持つ父がすべてで、従うほかはない。

さてそんなシーンの合間に、
大人になり成功した実業家となった“現在”のジャック(ショーン・ペン)の姿が挿入されます。

また、不意に天地創造と思われるシーン、
生命の誕生のシーンなども挿入されますが、
つまりはこれらすべて、壮年ジャックの心の中の風景をそのまま描き出したもの、
といえるのかもしれません。
結局実業家として成功した自分。
子供の頃、反発していた父が望んでいた未来。
なんだかんだと言っても、父の命と思いを引き継いで、ここに自分がいる。
こんなふうにして、繰り返し繰り返し、
私たちは命と思いを親から子へ引き継いで来たのだろう・・・。




さてこの作品、宗教つまりキリスト教が、バックボーンにありますね。
特に、ヨブ記が引用されていました。
実は私、つい先頃「ふしぎなキリスト教」という本を読んだばかり。
いろいろな映画の中で描写されるキリスト教を、
イマイチよくわかっていないと自分でも感じられるので、読んでみたのです。
とても解りやすく書いてあったのですが、
どうにも巧く消化できず、ブログ記事は断念した次第・・・(^^;)
そんな中で、旧約聖書のヨブ記についても触れられていました。

            * * * * * * * *

ヨブは神を信じ、人一倍正しく生きていました。
神、ヤハウェは、彼を試すために、財産を奪い、子供を全員死なせてしまった。
でも、ヨブはまだ神を信じていた。
「神は、与え、神は奪う。
神が与えるものを感謝して受け取るべきなら、苦難も同様に受け入れよう」と。
すると、ヤハウェは今度はヨブの健康を奪う。
ヨブはひどい皮膚病になりホームレスになってしまう。
ヨブの友人たちは、
「お前は何か罪を犯したからこんな目に遭うのだ。隠していないで罪を認めろ」と、
彼を責め、去って行ってしまいます。
ヨブはさすがにたまらなくなり、神に呼びかける。
「神様、あなたは私に試練を与える権利があるのかもしれないけれど、これはあんまりです。
私はこんな目にあうような罪を一つも犯していません」
するととうとう、ヤハウェがヨブに話しかけるのです。
「わたしはさんざん苦労して天地を作ったのに、何を言うか・・・」
みたいなことをくどくど・・・。
でも最後にはヨブを健康に戻し、
また息子や娘を授け、財産も前より増えて、長生きした・・・と。
何だか最後はとってつけたようなハッピーエンドなんですが、
何にしても過酷な話です。
本では、ヨブの踏んだり蹴ったりの運命は、
ユダヤ民族の受難そのものだ・・・という話しになるのですが、
まあ、ここではそれは別の話。

とにかく、私たちが生きていく上ではどんな苦難もアリ。
それは神の試練で、そのような場合にも私たちは神を信じていなくてはならない。
疑ってしまったらそれで終わり。
―――という話なのです。

             * * * * * * * *

さて、そこでジャックの弟の事故死を思い出します。
神の試練で子供を死なせてしまったヨブと、オブライエン氏が重なりますね。
ちょうどその葬儀の時にも、牧師さんがヨブ記の話をしていました。
ジャックが弟の死を思うとき、
ヨブ記を思い出さずにはいられないのだと思います。
あれは神が与えた試練だったのだろうか・・・。
とすれば、父が職を失ったこともまた・・・?
そして、天地を創造し私たち人間を作り出した、神と神の意志についても、
思いを巡らさずにいられません。
だからこそ、この作中に天地創造や生命の誕生のイメージが挿入されている。
決して脈絡がないわけではないのですね。

こんなふうに、何度問うても答えのない問いを、壮年のジャックは繰り返している。
ラストの海岸のシーンは、正しく生きた私たちがたどり着く“約束の地”でしょうか。


だから私たちも、この作品で答えを得られないのは当然だと思えてきました。
ジャックと共に、人生を考えるための作品なんですね。
世の中、何が役に立つか解らない。
このようなことが解るのに、この本が大いに助けになりました。




「不思議なキリスト教」橋爪大三郎×大澤真幸 講談社現代新書
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)
橋爪 大三郎,大澤 真幸
講談社


ツリー・オブ・ライフ
2011年/アメリカ/138分
監督・脚本:テレンス・マリック
出演:ブラッド・ピット、ショーン・ペン、ジェシカ・チャステイン、ハンター・マクラケン