映画と本の『たんぽぽ館』

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シークレット・オブ・モンスター

2018年02月01日 | 映画(さ行)

少年の孤独と邪心

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哲学者ジャン・ポール・サルトルの短編小説「一指導者の幼年時代」をベースにした心理ミステリ。

1918年第一次世界大戦終結後、ベルサイユ条約締結直前のフランス。
アメリカから来た政府高官の幼い息子プレスコットが「独裁者」というモンスターに変貌する、
その原点を探るような内容になっています。
時代から見るとこの「独裁者」は、やはりヒトラーをイメージしているのでしょう。
けれど本作はアメリカ人政府高官の息子という設定なので、
かの人、本人の幼少期を描くわけではありません。



このプレスコット、女の子のように髪が長く、そして美少年。
10歳くらいでしょうか。

始めは少しナイーブで頑なな感じ?と思ってみていましたが、
それが簡単な憶測など跳ね飛ばしてしまいそうな歪んだ性格。
父親は仕事で忙しく不在がち。
美しい母は、どこか冷たい雰囲気がつきまとう。
しつけには気を使っているようだけれどふだんの世話は、メイドに任せっぱなし。
しかし、そんなだから孤独な少年はひねくれた・・・とだけでは説明しきれない、
異様な自意識の高さが伺えます。
何しろ冒頭では教会から出てきた人々に石を投げつけたりしている。
しかし彼はその理由を誰にも説明しないし謝ろうともしない。
まあ、このあたりまでは、誰からも愛されない孤独な心のなせるワザ・・・
という想像はつくのですが。



彼がフランス語の家庭教師にしたことは、かなりゾッとさせられます。
始めは美しく快活な家庭教師をプレスコットは気に入っていたのです。
けれどある日、プレスコットは彼女の胸を触ってしまいます。
そして彼女に咎められてしまう。
その後、3日ばかり部屋に引きこもったプレスコットは、
彼女と母親の前で、フランス語の本をスラスラと読んで見せる。
そして言うのです。
「一人で十分勉強できるから、家庭教師は要らない。」
つまりこのことは、彼の自意識をひどく貶めた家庭教師をクビにするためだったのです。
10歳の子どもが・・・。
頭がよく、そして残酷。
この息子に、父も母もすでに太刀打ちできなくなってしまっているのでした・・・。
ほの暗くも美しい色調の画面、不安を誘う音楽、
少年の孤独と邪心が心をざわつかせる作品。



最後にほんの少し、いよいよ「独裁者」となったプレスコットが映し出されるのですが、
これをロバート・パティンソンが演じています。
ところがロバート・パティンソンは前段で、プレスコットの父親の友人役でも登場していますね。
これってつまり、プレスコットの本当の父親は・・・?
という謎掛けのようでもあります。
興味が尽きません。

シークレット・オブ・モンスター [DVD]
ベレニス・ベジョ,リアム・カニンガム,ステイシー・マーティン,ロバート・パディンソン
ポニーキャニオン


<WOWOW視聴にて>
「シークレット・オブ・モンスター」
2015年/イギリス・ハンガリー・フランス/116分
監督:ブラディ・コーベット
出演:ベレニス・ベジョ、トム・スウィート、ステイシー・マーティン、リーアム・カニンガム、ロバート・パティンソン

闇の深さ★★★★☆
満足度★★★★☆