映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「インドクリスタル」篠田節子

2018年02月25日 | 本(その他)

インド文化の中で悪戦苦闘する男

インドクリスタル 上 (角川文庫)
篠田 節子
KADOKAWA / 角川書店

 

インドクリスタル 下 (角川文庫)
篠田 節子
KADOKAWA / 角川書店

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人工水晶の製造開発会社の社長・藤岡は、
惑星探査機用の人工水晶の核となるマザークリスタルを求め、インドの寒村に赴く。
宿泊先で使用人兼売春婦として働いていた謎めいた少女ロサとの出会いを機に、
インドの闇の奥へと足を踏み入れてゆく。
商業倫理や契約概念のない部族相手のビジネスに悪戦苦闘しながら直面するのは、
貧富の格差、男尊女卑、中央と地方の隔たり、資本と搾取の構造
―まさに世界の縮図というべき過酷な現実だった。
そして採掘に関わる人々に次々と災いが起こり始める。
果たしてこれは現地民の言う通り、森の神の祟りなのか?
古き因習と最先端ビジネスの狭間でうごめく巨大国家を、
綿密な取材と圧倒的筆力で描きだした社会派エンタメ大作。
構想10年、怒涛の1250枚!

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篠田節子さん作品は、その圧倒的なエネルギーを秘めた文章で、
グイグイと読者の心を引き込みます。
本作もまさしくその一つ。


本作主人公、藤岡は水晶の原石を入手すべく、世界中を探し回っています。
水晶というのは装飾品としてはさほど価値は高くないのですが、
この場合は最新鋭の惑星探査機との通信などに用いる部品の製造に必要なもので、
極めて高い純度のものを必要とします。
単に装飾品という触れ込みならば安く手に入るけれども、
ひとたびそれが最先端技術に入用なものだと知られれば、
レアメタル並みに高騰する危険もある。
だからそこを伏せて、藤岡は純度の高い水晶を探します。
そしてついにそれを見つけたのはインドの奥地。
そこはカーストの最下層よりもまだ低いと言われる部族の住んでいる土地で、
そもそも商談だの契約だのの概念もない。
日本人の常識的倫理や道徳観の全く通用しない地で、
藤岡の悪戦苦闘が始まります。


そしてそんな中で光るのが、一人の女性ロサ。
彼女の特異な生い立ちや、人並み外れた知能・・・
まさに彼女こそが、インドの水晶の原石なのかもしれません。
大きな目と肉感敵なボディ。
カーストの底辺より外れた底で、
しかも女性ということで現地人の間では振り向かれもしない存在でありながら、
水晶の原石を見抜く力のある藤岡は、彼女の可能性を見たのかもしれません。
しかし彼女は藤岡が思っているよりも遥かにしたたかだったわけですが。
混沌として計り知れないインドと言う国の事情を交えながら、
目を離せない展開を繰り広げていくストーリー。
堪能しました!

図書館蔵書にて
「インドクリスタル」篠田節子 角川書店
満足度★★★★★