映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ごんたくれ」西條奈加 

2018年02月06日 | 本(その他)

生きること、すなわち描くこと

ごんたくれ (光文社時代小説文庫)
西條 奈加
光文社

* * * * * * * * * *

当代一の誉れ高い絵師円山応挙の弟子・吉村胡雪こと彦太郎と、
その応挙の絵を絵図とこき下ろし、我こそ京随一の絵師と豪語する深山箏白こと豊蔵。
彦太郎が豊蔵を殴りつけるという最悪の出会いから、
会えば喧嘩の二人だが、絵師としては認め合い、
それぞれ名声を高めながら数奇な人生を歩んでいく―。
京画壇華やかなりし頃を舞台に、天才絵師の矜持と苦悩、数奇な生き様を描いた、
読みごたえたっぷりの傑作時代小説!

* * * * * * * * * *

吉村胡雪こと彦太郎と、深山箏白こと豊蔵、二人の絵師の物語です。
「ごんたくれ」とは、ごろつき、困り者、子どもならいたずらで手に負えない、
そんな意味ですが、この彦太郎と豊蔵も「ごんたくれ」。
はじめての出会いで殴り合いになるという有様です。
互いに忌々しく思っており、親しく顔を合わせるでもなく、
その後も数年に一度会うくらい。
けれども、双方絵を描くとこに人一倍情熱を感じ、人とは違う才を持っている。
そして、何やら互いの目指す方向が同じのように思われます。
表面上は反目し合いながらも、心の底では通じ合っている。
この距離感がなかなかいい。


豊蔵の方はほとんど一匹狼で、おのれの才覚で徐々に名を挙げていきます。
一方彦太郎の方はもう少し複雑。
円山応挙の一門に入りますが、実は自分の絵が応挙と似ていないことに悩んでいる。
他の弟子ともうまくいかない。
酒好き、女好き。
ある時ダンナ持ちの女と駆け落ちし、子どももできるのですが・・・。
生来の気楽さ・明るさを持っていた男なのですが、
次第に人生に陰りができて行くのが読んでいてもつらい。


それでも、彼らは互いに、生きていくことすなわち描くことと思い定めている。
彦太郎は死の寸前、星空を見て、描きたいと強く思う。
豊蔵は、これまでに得た名声を捨てても、人におもねらず描きたいものを描きたいと思う。
二人の生きざまが、強く胸に残ります。
西條奈加さんの、力作でした。

図書館蔵書にて
「ごんたくれ」西條奈加 光文社
満足度★★★★★