善とか悪とかでは計り知れないもの
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米ミズーリ州の片田舎の町。
娘を何者かにレイプされ殺害された主婦ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、
いつまでたっても犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、
抗議のため、巨大な3枚の広告看板を出します。
それを快く思わない警察や住民たちと、ミルドレッドの間には溝が深まっていきます。
そして事態は思わぬ方向へ転がっていく・・・。
これは、人と人の心のドラマなのでしょう。
通常こうした物語なら、警察は気を悪くしながらも捜査に必死になってなんとか犯人を上げる、
しかも真犯人は思いがけない人物(家族とか警官とか・・・?)
・・・なんて、そうした展開を見せるのではないでしょうか。
少なくとも私はそんな風に想像していました。
しかし本作はそうした常套のミステリではなかったのですね。
とにかく、予想もつかない方へと話が進んでいきます。
名指しで非難された警察署長(ウッディ・ハレルソン)は、
署内でも町でも信頼のおける人物として慕われている。
しかも実際、裏がない好人物。
そのためミルドレッドの行為は多くの人から反感を買ってしまいます。
そして、署長の気持ちとは裏腹に、捜査担当のディクソン(サム・ロックウェル)は
マザコンでクレイジーなクズ警官。
捜査のやり直しなど考えてもいないよう・・・。
しかし、こりゃダメだ・・・と思う矢先、
ある出来事からディクソンは変わるのです。
こんなことってあるだろうか・・・、
しかし、人の心のことだから、ありえないとも思えない。
そこがキモですね。
ミルドレッドは、反抗期の娘を扱いかね、かなり手を焼いていました。
そのため、娘の死の原因の一端には自分にもあると思っていたのでしょう。
だから早く犯人を捕まえ、実際の責任はその者にあることを確認したかったのだと思うわけです。
その過激な方法は、いっそ心地よいくらいですけれど・・・。
それにしても、その後の暴走ぶりは、さすがにやりすぎだとも思う。
これもまたヒロインの常識を超えている・・・。
しかし、「怒りは怒りを呼ぶ」というある人の言葉で、
すーっと気持ちが落ち着いていくところがよかった。
そんなこんなで紆余曲折の後、ついに犯人を特定できたか・・・?!
と思いきや・・・。
これまた、見るものを裏切る展開。
そして、ラストでまた私たちは置き去りにされてしまいます。
え、え~っ!!
ここで終わり???
でも考えてみれば、ここでおかしな決着をつけてしまったら、
ここまで振り回されたストーリーが結局茶番のようになってしまう気がします。
このラストが正解。
正も悪もない。
私たちは自分たちの心の動きに勝手に生だの悪だのという定義付けをしているだけなのかもしれません。
力があって、油断のならない作品です。
フランシス・マクドーマン、女性版クリント・イーストウッドみたいな風格ですよね。
カッコイイわあ・・・。
「スリー・ビルボード」
2017年/イギリス/116分
監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ルーカス・ヘッジス
<シネマフロンティアにて>
予測不能度★★★★★
満足度★★★★★