映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

羊の木

2018年02月23日 | 映画(は行)

深いところに刺さりこんでくる

 

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寂れた港町・魚深に6人の男女が移住してきます。
市役所職員の月末(つきすえ)(錦戸亮)は、彼らの受け入れを担当することになりました。
実はこれは、過疎問題を解決するため、町が身元引受人となって元受刑者を受け入れるという
政府の極秘プロジェクトによるものなのでした。

6人はみな殺人犯ですが、それぞれにそれぞれの事情があり、
その心境を一様に語ることはできません。
挙動不審なもの、暗く落ち込むもの、ふてぶてしい態度のもの・・・。
けれども皆どこか欠落したものを抱えているようではあります。
そんな中でも特に月末と関わりを持ち友人関係になっていくのが宮腰(松田龍平)です。
宅配配送の職を得た宮腰は、真面目に仕事をし、
ギターに興味があると言って月末のロックバンドの練習に顔を出すようにもなっていく。

彼は普通に見れば特に害もなさそうなのだけれど、
殺人を犯したと知っている月末にはどこか得体の知れない感じも拭い去れない。
この何を考えているのかよくわからない感じ、
松田龍平さんのキャラと相まって、凄みが出ます。
刑期を終えたとはいえ、元犯罪者、ましてや殺人犯という存在を、
私たちは隣人として受け入れることができるのか? 
この問いを私たちは突きつけられるわけです。
もちろん、受け入れるべきだとは思っている。
だけれども、実際問題として本当にその人を信じることができるのかどうか・・・。



さて、そこで問題となるのはこの町で昔から行われている「のろろ様」のお祭りです。
のろろ様とは、海から来た邪悪な存在で、
この地で打ち負かされてからは守り神のようなものになっている、と言います。
その姿を模した大きな像が立っているのですが、
それを見つめてはいけないと言われています。
そして、お祭りの夜にはのろろ様(を扮した人物)が街を練り歩くのですが、
それを決して見てはいけないのです。
障子の影から覗き見ることもないようにと、
わざわざ町内のアナウンスがあったりもする。
誰も見ないのに練り歩く必要があるのかと思ってしまうわけですが、
お付の白装束の人々を従えて、無人の町を歩くさまは
なんともおどろおどろしく、禍々しい雰囲気。
この祭りは一体何なのか、ということです。



のろろ様とは人の心の奥底に潜む邪悪な何かのことかと思ったりもする。
それを見つめすぎると正気ではいられなくなって、取り込まれてしまうよ、と。
けれどもまたこれは、罪を犯した人、そのもののようでもあります。
私たちはそうしたものにフタをして、なるべく見ないように、触れないようにしてしまう。
その様相を単になぞっているようでもある。
しかしそれが逆に和を保つことでもあるのかもしれない。
いろいろな解釈を呼び起こす、謎ののろろ様が、この町を見下ろしています。


作中のバンド演奏のシーンが迫力があって、好きでした。
どこか神経を逆なでするような音ではありますが、
この作品の謎めいた雰囲気を掻き立てています。


本作の原作は、山上たつひこ・いがらしみきおさんによるコミックなんですね。
にわかに興味が出て読みたくなってしまいました。
深いところに刺さりこんでくる物語です。


<ディノスシネマズにて>
「羊の木」
監督:吉田大八
原作:山上たつひこ・いがらしみきお
出演:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、松田龍平、松尾諭

寓話度★★★★☆
満足度★★★★☆