映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

容疑者Xの献身

2008年12月14日 | 映画(や行)

ショボクレ男の内に秘めた純愛

                * * * * * * * *

う~ん、実に面白い!
いきなりきめゼリフですね。
意外ですが、この作品、まだ見てなかったんですね。
はい、これは東野圭吾氏原作の本を直木賞を受賞した時に読んでますから。
特に見なくてもいいかなあと思っていたんです。
でも、今日、時間的に都合が良いのがこれしかなかったもんで・・・。
とはまた、ずいぶん消極的な・・・。
近頃あんまり前評判の高いものって、敬遠してしまうという、天邪鬼な私の性格な んで・・・。
でも、TVの探偵ガリレオシリーズでなじんでるので、なんだかすんなり入っていけそうですよね。
そうですね。だから失敗はないだろうと思ってみたわけですが、
・・・いやはや、ほんとに手放しに面白いです。
もともと、原作がいいんですよね。
うん。
テレビのガリレオより、もっとずっと前ですけど、
普段あんまり本を読まないような人が、「すごく面白かった」といってましたから。
そこへ来て、福山雅治だし。
今回は堤真一に松雪泰子だもんねえ・・・。
これで面白くなかったら、怒っちゃう。
さっきから面白い面白いって言ってますが、これはコミカルに面白いのではなくて、
見ごたえがある、という意味ですね。
はい。
人生に絶望した天才数学者、石神(堤真一)は、隣人の花岡靖子(松雪泰子)に淡い思いを抱いているのです。
母と娘の二人暮らし。
そこへゴロツキの別れた亭主がやってくる。
言い争ううちにその元亭主を殺してしまった。
安普請で物音が筒抜けのため、石神は気配で出来事を察し、
母娘に手助けを申し出る。
この天才的頭脳で作り上げたアリバイを、警察はどうしても崩せない。
そこへ乗り出すのが、こちらは天才物理学者の湯川、というわけですね。
ここがミソなんですが、この湯川と石神は大学時代の一目おく友人同士。
この二人の静かなる対決・・・となるんですね。
初めから犯人はわかっているので、本で読んでいても、さほどさしつかえないということなんですね。
そうなのです。
しかも、おあつらえ向けに、肝心のトリックを良く覚えていなかったもんで、
本気で興味深くみましたね。
終始、背中を丸めてしょぼくれた石神。
その石神が用いたトリックというのがすごいです。
そこまでするか・・・というこの手段は、彼の内に秘めた愛・情熱を雄弁に物語っているわけなのです。
単なるミステリを超えた感動作となっているんですよねえ・・・。
ただし、被害者にとってはとんでもない災難なんですけど・・・。
ここはやはり、きちんと罪を償いましょう・・・。
TVシリーズの映画化というのは、初めからある程度の人物設定がわかっているので、見やすいというところはありますね。
そこへもって、この折り紙つきの原作だったので、やはりこの作品はかなりのお勧め作といえます。
意地はって、見ないでいるほどでもなかったね。
う~ん、でも映像的にはDVDでも十分かも・・・。

2008年/日本/128分
監督:西谷弘
出演:福山雅治、堤真一、松雪泰子、柴咲コウ

 


「ニューヨークの魔法は続く」 岡田光世

2008年12月13日 | 本(エッセイ)
ニューヨークの魔法は続く (文春文庫)
岡田 光世
文藝春秋

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「ニューヨークのとけない魔法」の続編として出された文庫です。
でも、良く見ると、
こちらが1996年に刊行された「ニューヨークがやさしい」を改題したもの。
で、「ニューヨークのとけない魔法」は、2000年に出されたものなので、
実は順が逆ということです。
まあ、だからといって何も支障はありません!

ただ、この本は元の題が「ニューヨークがやさしい」というだけあって、
大都会の片隅で生活する人々のほんのりした優しさが漂っていて、
なんだか自分自身も人に優しくしたくなる、そんな本です。


「ブルックリンの罪ほろぼし」という章では、こんな話がありました。
落書きだらけの荒れ果てた地下鉄の駅。
そこで無賃乗車や公共物破損など”非暴力犯罪”を犯した人たちが
賠償金の代替罰として、社会奉仕のため、清掃作業をする。
ほとんどは青少年で、ぶつぶつ文句を言いながらの作業だけれど、
なんだか楽しんでいるようにも見える。
面白いシステムだなあと思いました。
そして、こういう青年たちにも臆せず話しかけてしまう著者のお人柄、
これこそがこの本を引き立たせているのです。
実際、彼女はホームレスに話しかけたりもします。
そんな彼女が、あるとき日本で道を聞くために、
通りがかりの人に話しかけようとすれば、みなそそくさと逃げ出してしまう・・・。
ちょっと寂しい話ではあります。

人とのほんのちょっとの会話が、自分の心をふっと浮き上がらせてくれることがありますね。
それが家族や親しい友人でなく、ほんの行きずりの人だったら、
それもまた新鮮で、そのめぐり合わせに感謝したくなります。
いかにも無機質に見えるニューヨークのビル街にも、
こうした人々の暮らしが息づいていると思うとなんだかほっとします。
私たちも少し見習いたいですね・・・。
そのためには話しかけられるのを待っているのではなくて、
自分から話しかけなければダメですね。

満足度★★★★☆

さすがに、師走ですね。
なにやら夜の会が多くて、今週は穴だらけでした・・・。


オフサイド・ガールズ

2008年12月11日 | 映画(あ行)
オフサイド・ガールズ [DVD]

ジェネオン エンタテインメント

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女性トイレのないスタジアムで

                 * * * * * * * *

この作品はイランが舞台でなければ成り立ちません。
2006年のドイツW杯出場をかけたイラン対バーレーンのサッカー戦。
テヘランのスタジアムに集まる人々。
その中に、男装をした1人の少女。
しかし、まもなくその少女は兵士に捕まってしまう。
なんと、イランでは女性はサッカー観戦は禁止されているのです。
スタジアム外に設けられた簡易留置所についてみると、
そこには同じく、捕まえられた少女たちが数人。

・・・なんだか、社会問題を描いた重い作品に思えるでしょう?
でも、これは存外にユーモアが漂う楽しい作品です。
女性がスタジアムに入れない。
私たちからすると、そんなバカなって思いますね。
そんな風に虐げられた女性の状況って、相当ヒサン
・・・のように、実は私は思っていました。
でも、イランだろうとどこだろうと、やっぱり女性は元気なんですよ。
サッカー大好き。
こんな風に、タブーと知っていても何とかもぐりこもうとする。
「そもそも、何で女はスタジアムに入れないのさ」、
と詰め寄る彼女たちに兵士はしどろもどろで、
「女性には聞かせられない汚い言葉が飛び交うから・・・。」
「日本人は女でも入っているじゃない!」といえば、
「日本人はイラン語がわからないからいいんだ・・・」
と、妙に理屈はあっているのがおかしい。
この男性側の反応も、ただ高圧的に女なんか問題外というのではなく、
どこか後ろめたい思いがあるんですよ。
女の子相手に乱暴はできないし、
やっぱり、女性だってサッカーくらい見てもいいだろ、と内心は思っている。
それで、つい少女たちに詰め寄られると弱腰になっちゃうんですね。
トイレに行きたいと言い張る少女を、女性トイレがないものだから
他の男性が近寄らないよう兵士が見張っていたりする。
しかし、彼らも任務であり、
そこでの失敗は本人のみならず家族などへも罰が及ぶ
・・・というのがまた、きびしい・・・。

そんなわけで、元気な少女たちに大の男の兵士たちがなにやら翻弄されてしまう
・・・そんな姿がユーモラスに描かれています。
中東は単に女性蔑視・・・というイメージがあったのですが、
それは意外にも女性を守る意味もあるのがわかりました。
世界的な情勢から言えば、納得できない風習ではあるのですが、
そんな中でも人々はいろいろ折り合いを付けて、生活しているんだなあ
・・・というのが見えた気がします。

2006年/イラン/92分
監督:ジャファル・パナヒ
出演:シマ・モバラク・シャヒ、サファル・サマンダール、シャイヤステ・イラニ


「麦酒(ビール)アンタッチャブル」 山之口 洋 

2008年12月08日 | 本(その他)
麦酒アンタッチャブル (ノン・ノベル 853) (ノン・ノベル)
山之口 洋
祥伝社

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変な本です。
しかし、ビール好きの方にはぜひお勧め・・・。
というか、私がこれを読んだ理由もそれしかありません。

えーと、私は失敗しましたが、この本を読む前に
ぜひあの名作映画「アンタッチャブル」を見ることをお勧めします。
この中の登場人物が特にこの映画にハマっていて、
いたるところにそのオマージュと思われる言動が現れるので、
この映画を知っていれば楽しみが倍増します。

「コップ5杯のビールなら、3杯は税金だ。」
こんな言葉が出てきます。
登場人物は財務省酒税課の変人官僚根津と、
本当はキャリア警察官なのだけれど、酒税課に出向中の魚崎。
ビールの自家製はご法度ですね。
しかし、大胆にも、闇で作った自家製ビールを大量に売りさばこうとする組織のウワサが・・・。
そこで、この二人が調査に乗り出すというわけ。
しかし、この二人は実はビールを愛していて、
脱税は問題にするけど、自家製ビール自体は否定しない
・・・そういうスタンスなのもいいですよ。
ほとんど禁酒法時代の物語のようなので、映画アンタッチャブルとかぶせてあるところが多いというわけなのです。
ユーモアを交えた傑作エンタテイメント。

しかし、ここに出てくるビールは実においしそうです。
以前、ベルギービールのお店に行ったことがあるのですが、
そこのビールが実に個性あふれたそれぞれの味、香り。
そして濃い!のですよ。
だから、多分ここに描かれたビールもこんな感じなのだろうと想像するわけです。
こんなビールが日本でも自由に作れて、売っていたらいいなあ・・・と思います。

でもそういえば、一時の地ビールブームはどこ行っちゃったんでしょう・・・。

満足度★★★☆☆


僕らのミライへ逆回転

2008年12月07日 | 映画(は行)

創意工夫とチームワークで・・・

              * * * * * * * *

始めの印象は、なにやらチープな作品に思えてしまったのですが、
チープなのは映画中のビデオ作品であって、
この映画自体は、楽しくて、そしてやがて心がしんみり・・・、なかなかの傑作です。

舞台は、さえない下町のレンタルビデオショップ。
なんと、未だにDVDではなくてビデオテープしか置いていない。
店の名前が”Be Kind Rewind”。
実はこれがこの映画の原題で、
昔ビデオショップで良く見かけたフレーズ、
「ビデオ返却の時には巻き戻して置いてください」ということですね。
そういえば、いつの間にか、私がよく行く店もすべてDVDになっていますし、
ビデオを巻き戻すなんて作業自体、しばらくしていないような気がします・・・。

レトロなのはそういうところだけではなくて、
この店の入っている建物自体も相当年季が入っている。
街の再開発のため、立ち退きを迫られているところなのです。

さて、ある日、店の常連ジェリー(ジャック・ブラック)が
強烈な磁気を帯びた体でやって来たために、
店のビデオの中身がすべて消去されてしまった!!
困った店員マイク(モス・デフ)とジェリーは
急ごしらえでゴースト・バスターズのリメイクビデオをつくる。

これがもう、とんでもないシロモノなのですが、
そのチープさが逆にうけまくって、大評判。
同様のリメイク版を作るうちに、店は行列ができるほどの大繁盛。
・・・しかし、いよいよ立ち退きを迫られた彼らは・・・。

そのリメイクビデオというのは、単にチープというよりは、
いろいろなアイデアで、それらしく見せようという工夫があるんですね。
今、CGに頼りっきりの映画界をちょっぴり刺激しているようにも思えます。
ちょっとTVの仮装大賞を思い出しました。
アイデアと創意工夫、そしてみんなのチームワークで感動を呼ぶわけです。
昼に夜の映像を撮りたいときは白黒反転させるとか。
キングコングの映像は女性を遠くに配置して小さく見せるとか。
ところどころに自分が映っているので、皆で見れば大受け。
何も、ものすごい大金を出せばいいというわけではなくて、
アイデアと工夫でいろいろなことができる。
それが大切ということを思い出させてくれます。

この映画のもう一つのテーマは地域のコミュニティです。
始めの方でジェリーはこんなことを言っている。
「誰もこんなところに住みたい奴なんていない。
他に行くところがないから住んでいるだけだ。」
しかし、彼らのビデオ店に人が集まりはじめ、
ビデオ作品に皆が参加しはじめていくうちに、
コミュニティーが出来上がっていくのです。
老若男女含めた、地域住民の輪。

そして、思いがけないラストシーンでは、不覚にも涙がこぼれてしまいました。
まさかこんな映画で、こうなるとは思わなかった・・・。
かなりのお勧め作。

2008年/アメリカ/101分
監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:ジャック・ブラック、モス・デフ、ダニー・グローヴァー、ミア・ファロー


「天使のナイフ」 薬丸岳 

2008年12月06日 | 本(ミステリ)
天使のナイフ (講談社文庫)
薬丸 岳
講談社

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講談社文庫

この本は少年犯罪がテーマのミステリです。
桧山貴志は、過去に妻を殺されているのですが、その犯人は13歳の3人の少年。
少年法に守られた彼らは、逮捕ではなく、補導されるが、
被害者の家族である桧山にすらも名前も顔も明かされない。

少年法の理念というのはつまり・・・
「子どもの犯罪は、未熟なゆえに環境に左右されて起るものだ。
だから犯罪を犯した子どもは、それを処罰されるのではなく、
立ち直りのために教育的な働きかけを行って指導する。」
ということなのです。
可塑性に富んだ子どもは、多くの手助けがあれば立ち直っていく、とする。
しかし、このことは、被害者の家族を置き去りにしているのです。
少年たちには手厚い保護の手が差し伸べられるのに、
被害者側は、少年審判を傍聴することもできない。
被害者の家族は怒りや悲しみのもって行き場もないし、
そうすると、結局少年たちは自分たちの犯した罪の重さを実感することもないまま、ということになりはしないでしょうか。

こういう納得できない理不尽な痛みを抱えたままの桧山ですが、
その事件から4年後、
社会復帰しているその犯人の少年の1人が殺されたことを知ります。
一体その少年たちは本当に更生していたのだろうか
・・・そんな疑問を晴らそうと、残った少年やその家族を訪ねて回るのですが・・・。
少しずつ現れてくる真実。
果ては、亡くなった妻の意外な過去までもが現れ・・・。

少年法という重く、また功罪合わせ持つ難しいテーマにも係らず、
するすると興味を持って読めてしまいます。
普段、寝る前の読書はほとんど入眠剤代わりだったりするのですが、
この本は読むほどに目が冴えて一気読み。
少年法にからめて、複雑で皮肉な連鎖が現れてきます。
結局予想のつきがたい犯人像は、やはりミステリならではですし、
私のようなミステリファンはもちろん、
そうでない方にも楽しんでいただけると思います。

ここで注目のアイテムは万華鏡。
亡き妻が残した、手作りらしい手の込んだ万華鏡。
これは大切な事実を証明するアイテムです。ぜひ注目。

主人公桧山はコーヒーショップの店長さん。
こんなところもなんだかステキなんですよ。
男手一つでまだ幼い女の子を育てているあたりも、なかなか・・・。

満足度★★★★★


イタリア的、恋愛マニュアル

2008年12月05日 | 映画(あ行)
イタリア的、恋愛マニュアル [DVD]

Happinet(SB)(D)

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恋愛とは・・・滑稽で、不可解で、危険なもの。

                 * * * * * * * *

恋愛に関する4つのショートストーリーがコミカルに描かれています。

めぐり逢って
ジュリアに一目ぼれしたトンマーゾ。
ちょっとくらいの「お断り」にめげず、アタックあるのみ!
ドジなトンマーゾ・・・って、日本人はこの名前で、くすっと笑っちゃいますね。

すれ違って
倦怠期の夫婦。
熱い思いで結ばれたはずなのに。
この亭主のだらしない食事の仕方はどうなのよ・・・。
いつからこんな風になっちゃったんでしょ・・・。

よそ見して
婦人警官オルネッラが夫の浮気を目撃。
反発して家出。
憧れのニュースキャスターと接近するけれど・・・。

棄てられて
妻に家出されたゴッフレード。
何で、出ていっちゃったんだ。
愛しているから戻ってきて・・・。
思いもむなしく・・・。
この妻に家出された男、最高です。
おかしくってせつなくって、やがて、ほんわか。
いい年して・・・だけど、こういうのもありでしょという感じ。

この4話が通常の恋愛と結婚のたどるパターンそのものなんですね。
また、これらは互いに無関係ではなくて、
リレー形式といいますか、
一つの話の終りに出てきた人物が、次の主人公というしゃれたつくりになっているのもいいですね。
第一話のトンマーゾ君が後のほうの話にちらりと顔を出します。
どこに出てくるか、お楽しみ。

夫婦喧嘩は犬も食わないとか、恋は盲目とか言いますね。
はたから見ると滑稽なんだけれども、本人たちには大問題。
そんな風に、ちょっとはたからの視点で、
恋愛模様をシニカルにみているんですね。
でも、どれも共感をもてて
なんだかハッピーな気持ちになっちゃいます。

2005年/イタリア/118分
監督:ジョヴァンニ・ヴェロネージ
出演:ジャスミン・トリンカ、シルヴィオ・ムッチーノ、マルゲリータ・ブイ、セルジョ・ルビーニ


かけひきは、恋のはじまり

2008年12月04日 | 映画(か行)

アメリカンフットボール、プロリーグ創成期

              * * * * * * * *

もう公開が終わる寸前なんですが、やっと見ることができました。
まあ、主役のお二人に引かれたわけですが。

これは、アメリカンフットボールのプロリーグ創成期のお話。
1920年代。
なんだか、この時代の人々のファッション、町を行くクラシックな車、蒸気機関車、懐かしい気がしますね。
…って、もちろん、そんな時代に生きたこともないのですが。
この時代の映画って結構多いですから、つい知ったような気になってしまう・・・。

ドッジ(ジョージ・クルーニー)は、ダルース・ブルドッグスの中年キャプテン。
しかし、プロリーグは人気もなく、
貧乏なこのチームはボールを買うのもやっとで、解散寸前。
しかし、カレッジリーグの方はすごい人気なんですね。
そこで超人気プレーヤーのカーターをスカウトして、
プロリーグの人気上昇を図ろうとする。
そこへ登場するのが敏腕女性記者レクシー(レニー・ゼルウィガー)。
彼女は、カーターの人気をさらに高めている彼の軍隊時代のエピソードが
インチキであること暴こうとしている。

そこで、このドッジとレクシーに様々なやり取りがあるのですが、
この会話がすこぶる楽しい。
テンポがよくてウィットに富んでいて、大人の余裕が感じられます。
このようなレトロな時代の雰囲気に、
ジョージ・クルーニーがまた、すっぽりはまるんですよ。
なんて、ダンディーな・・・

野蛮にも男性陣は、何かというとすぐ殴り合いを始めちゃうのです。
ありがちな、酒場での乱闘シーン。
騒ぎを尻目に、ピアノを平然と引き続けるピアニスト。
かと思えば、女性をめぐっての殴り合いの決闘。
泥んこ、ドロドロの試合シーンもあります。
ユニホームの色もわからなくなるくらい。
男たちに「力」があった時代なんですねえ・・・。
ナイフだのピストルを持ち出しもせず、ひたすら殴りあうというのも、
ある意味平和です。

こういうむちゃくちゃな男っぽさと、男と女のしゃれた会話。
古き良き時代の名画を思わせます。
ジョージ・クルーニーの映画への愛がこめられた、こだわりの映画なんですね。

原題は”Leatherheads”。
当時はまだヘルメットではなくて革のヘッドギアなんです。
プロテクターも今ほどごっつくない。
男と女のおしゃれなストーリーとともに、
アメリカンフットボールの歴史も楽しめます。

2008年/アメリカ/114分
監督:ジョージ・クルーニー
出演:ジョージ・クルーニー、レニー・ゼルウィガー、ジョン・クラシンスキー、ジョナサン・プライス


「アンボス・ムンドス」 桐野夏生

2008年12月02日 | 本(その他)
アンボス・ムンドス―ふたつの世界 (文春文庫)
桐野 夏生
文藝春秋

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この本の帯にあるのですが、
「女たちの心の奥底に潜む毒」・・・まさにこれはそういう短篇集となっています。
ねたみ、嫉妬、虚栄心、劣等感、憎悪
・・・こうした胸の奥底のどろどろした負の感情が、
つい、目をそらしたくなるくらいに生々しく描かれています。
これら、物語の主人公たちは、極端な負の思いに駆られている女ばかり・・・。
ただ、こんなにも物語に引き込まれてしまうのは、
多かれ少なかれ自分の中にもこういった感情がひそんでいて、
共鳴してしまう部分があるからなのかもしれません。


冒頭の「植林」
真希は、ドラッグストアのアルバイト店員。
顔もスタイルも並み以下。
他のバイト仲間にもバカにされており、
家では転がり込んできた兄一家にジャマにされて居場所がない。
彼女の胸底にはこれらの不満が渦巻いている。
ひょんなことから、幼いころ、自分が大きな事件に係っていたことを思い出し、
そのことが彼女に自信を取り戻させるのですが・・・。
まずは先制パンチという風で、
この、真希の毒気にあてられます。

引き続き次々と押し寄せる強烈な物語の数々、
嫌悪感を抱きつつ、やめられません。

最後が、表題の「アンボス・ムンドス」なのですが、
この意味は、キューバの言葉で二つの世界、という意味。
裏と表というような二面性をあらわしています。
小学校の女性教師浜崎が、同じ学校の教頭と不倫。
夏休みに、キューバへこっそり二人で旅行し、
帰ってくるなり、彼女の受け持ちの児童が事故で亡くなっていたことを知る。
学校関係者は担任と教頭に連絡を取ろうにもとれずにいた。
二人一緒に帰ってきたところをつかまり、不倫が全国に知れ渡ってしまった。
児童の事故死に、二人は責任はないはずなのですが、
世間からの非難を浴びせかけられる。
ついに教頭は自殺、彼女は職を退く。
ここまででも、かなりつらい状況の話ですが、
彼女は、児童の事故死に疑問を持ち、調べるうちに、少しずつ真相が見えてくる。
見えてくればやはり、これも、やはり「毒」なのです。
人の心に潜む悪意・・・。

くれぐれも中毒に、ご注意。

満足★★★★☆


「びっくり館の殺人」 綾辻行人 

2008年12月01日 | 本(ミステリ)
びっくり館の殺人 (講談社ノベルス)
綾辻 行人
講談社

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この本は、以前に同じ講談社「ミステリーランド」のシリーズで出されたものです。
それなので、ジュニア向け。
ただし、著者は、これは番外編という気持ちは全くなくて、
正統な『暗黒館の殺人』のあとを受ける「館」シリーズの最新作である、
といっています。

「ミステリーランド」は何しろ豪華執筆陣で当初期待していまして、
何冊か買ったのですが、高額をかけるほどでもない・・・と、
読むのはやめていました。
だからこの度ようやくこういう形で綾辻作品を読むことができて、うれしい限りです。
この作品はといえば、確かに、ジュニア向けに工夫されていますが、
この、何かしら不気味な雰囲気と、綾辻作品らしい読者への欺き。
確かに、立派な「館」シリーズだと思います。


三知也少年は、家の近所の「びっくり館」と呼ばれる屋敷の少年、トシヤと友達になります。
トシヤは体が弱くて、学校にも行っておらず、偏屈そうなおじいさんと二人暮らし。
おじいさんには不可思議な趣味があって、
それはすでになくなったトシヤの姉を模したリリカの人形で腹話術をすること。
ところがある日、その屋敷内の密室で、おじいさんは殺されていた。
それを見ていたのは、リリカの人形のみ・・・。

この館も、かの中村青司設計によるもの・・・。
不気味な腹話術の人形。
密室殺人事件。
過去にあったという、悲惨な殺人事件・・・。
ちりばめられた謎。
まさかの結末。

あまりボリュームがある本ではないので、すぐ読めちゃいますし、
その割りに、綾辻エッセンス満載というお得な本だと思います。
巻末に、袋とじで著者と通尾秀介の特別対談あり。
綾辻ファンにはボーナスみたいな本です!

満足度★★★★☆