映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「グイン・サーガ 130/見知らぬ明日」 栗本薫

2009年12月13日 | グイン・サーガ
見知らぬ明日―グイン・サーガ〈130〉 (ハヤカワ文庫JA)
栗本 薫
早川書房

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とうとう最終巻になってしまいました。
いつもなら300ページほどの分量があるのですが、この本はおよそ半分。
いかにも、未完ですね。
最後の最後まで執筆をしていらしたんだなあ・・・、というのがわかります。

栗本さんの気持ちをちょっぴり反映してか、この本は少しトーンが沈みがちですね。
そう、なぜか宰相などになってしまったけれど、本当は、こんなことがしたいわけじゃなかった。・・・と、物思うヴァレリウス。
いつか、ここを出て行ける日が来るのだろうか・・・。と。
リンダはリンダで、私はこのまま女としての幸せも知らずに、パロに一生をささげるのだろうか・・・と、
まだこない明日に暗澹とした思いを抱いている。
どちらも「明日」を見据えながら、ちっとも明るい希望が見えない。不確定・不安に満ちた「見知らぬ明日」なんです。
でも、やはりそれでも、栗本さんはそれだけでは終わらせない。
イシュトのとった意外な行動。
とっとと、ヤガへ向かったはずなんですけどね。
なぜか秘密の精鋭部隊が、クリスタル方面へ逆戻りしている。
・・・・・・うわ~。
イシュトがこの先どうしようとしているのかは、永遠にわからない、ということですか。
ストレスですよね~。
いや、ストレスの素は数え始めたら、キリがナイのですけれど・・・。

ほんと、イシュトヴァーンの考えていることは、常識じゃ計り知れませんから。
この先のストーリーは、公募してコンテストで決めてはどうでしょう・・・。
これまでのストーリーをよ~くわかっていないとダメですよね。
矛盾が生じてはいけないし・・・。
ああ、栗本さんは、汲んでも汲んでも尽きない、ストーリーの泉を持っていたんでしょうね。
・・・当たり前のように思ってしまっていました。
誰にもまねできそうにない。

勝手な想像をするとすれば、イシュトはリンダをかっさらにいくのではないでしょうか。
・・・いいね、それ。
そうして、リンダともどもヤガへ向かう。
ヤガのごたごたというか、異変は、リンダがそこへいくことでしか解決しない。
イシュト+リンダって、何かをやり遂げそうな感じがするでしょ。
パワフルだ。
ふむふむ・・・。でも、そこにフロリーもいるんだよ。
気まずくない?
う~ん、悪いけど、フロリーはここで命を亡くすのだな。
スーティを守って。
そんな、勝手な・・・。
やっぱり、だんだん怪しくなってきたね。あんたじゃムリ。


私にとって、まさに生涯を通じた愛読書だったのですが。
こういう形で最終巻を迎えるとは思いませんでした。

栗本先生、長い間たくさんの冒険とロマンをどうもありがとうございました。

満足度★
・・・満足なんてできるわけありません!


「思い出を切りぬくとき」 萩尾望都

2009年12月11日 | 本(エッセイ)
思い出を切りぬくとき (河出文庫)
萩尾 望都
河出書房新社

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萩尾望都のエッセイ!と思って、飛びついて購入したのですが、
これが結構年代モノ。
1970年代後半、著者が20代後半の頃に書かれたもの。

現在の彼女自身が
「若いというか者知らずというか幼いというか
ピリピリイライラしてるというか、困ったものです。」
と評しています。
そんなことない・・・といいたいところですが、
確かにそう思えてしまいました。
スミマセン・・・・・・・。
でも、これがちょうど『ポーの一族』で、一躍人気を博した頃のこと。
やはり、興味はありますね。
この文庫の発刊が、萩尾望都漫画家生活40周年記念と歌われていますので、
まあ、著者の歴史を感じることができれば、
それでよし、ということにしましょう。


ちょっと興味を引いた部分・・・

"ストーリー作りのポイントとは---"
私、文章を書くのは好きで、だから実際小説家にあこがれたこともありますが、
やはり無理と思ったのは、とにかくストーリーを作ることができない。
そういうイマジネーションがちっとも湧き出さない、ということからでした。
で、この本の中で、ちょっぴりストーリー作りのポイントにふれたところがあるんです。
それは、『対立するものをとらえる』ということ。
例えば、
☆ある女の子が男の人に恋をしている。
この事項と対立するものは・・・?
★男の人には好きな女の人がいる。
★相手が年下でまだ子供。
★相手がすごい年上、妻子がいる。
★結婚のお金がない。・・・・・等等。

では次に、これらの対立する事項は、どうやって消去、開放されるのか。
◆男の人が女の子を好きになる。
◆相手が成長するまで待つ。
◆相手が離婚する。
◆大金が手に入る・・・・・・・
このような大筋を膨らませていけばいい。
なるほど、ストーリーとはこうやってつくるものだったのか。
それをもっと早く知っていれば・・・!

それから、こんな話もあります。

"私をびっくりさせた映画『第三の男』"
著者は、映画「第三の男」のかの有名な観覧車のシーンをみたときに、
ただ、ビックリ仰天したというのです。
それが、一体何にそんなに驚いたのか自分でも良く若からなかったけれど、
後に考えるには、
その「画面構図の美しさ」に感動したようだ・・・というのですね。
この作品、私も見たことはあり、古い作品ではありますが、
素晴らしい作品でした。
・・・といいつつ、例によってかなり昔のことなので、
ストーリーをあまり良く覚えていない。

今度、きっと観ます!

満足度★★★☆☆


「ゼロの焦点」 松本清張

2009年12月10日 | 本(ミステリ)
ゼロの焦点 カッパ・ノベルス創刊50周年特別版
松本 清張
光文社

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今年は松本清張生誕100年にして、このカッパ・ノベルス創刊50周年だそうです。
1959年12月、カッパ・ノベルス創刊時に刊行されたものこそ、
この「ゼロの焦点」。
う~ん、それは知らなかったですね。
ミステリファンとしては、このカッパ・ノベルスにはずいぶんお世話になっていますけれど。
そしてこの作品、言うまでもなく現在映画で公開中。
私自身、遠い昔に読んだような気もするのですが、
全然覚えていないので、この機会に読んでみました。
新書で特別定価500円! お得です。


禎子26歳。
36歳鵜原憲一と、縁談により何度か顔を合わせただけで、交際期間もなく結婚。
夫は金沢で仕事をしていたが、この機会に東京に戻ることになった。
新婚一週間。
残った仕事を片付けるために、夫は金沢へ向かう。
これが最後の金沢行きのはずであった。
ところが、予定の日になっても夫は戻らない。
失踪した夫の行方を探るため、禎子は金沢へ向かう。
憲一の兄、宗太郎も弟の身を案じ、金沢に来ていたが、
何と彼は何者かに殺害されてしまう。
禎子はわずかな手がかりを探るうちに、
憲一や義兄になにやら女の影が付きまとっていることを見出す。


北陸の冷たい風景を背景として語られる情感漂う一作ですね。
昭和30年代。
今ではとても考えられない結婚の形ですが、逆に新鮮な感じもします。
こういう夫婦の営みって、なんだかちょっと刺激的だったりして・・・(^^;
結婚一週間では、夫のことは何もわかっていないのも同じです。
禎子は、失踪した夫を探すうちに、ようやく夫のことがわかってくるのですね。
結婚生活さえおぼつかない、頼りなげな禎子が、
次第に女の底力を見せて成長していく姿が見られます。
暗く寒々とした北陸の光景にひとりたたずむ、若き人妻。
ムードありますねえ。
そして、この物語で語られる事件の背景はやはり、この当時ならではのものです。
社会派、松本清張の代表作ですね、やはり。
今なら東京~金沢といっても、そう遠い感じはしませんが、この当時は、遠いですよ。
文中、夜行で金沢を発って、翌朝東京に着く、というような記述がある。
SLですよね、多分。
汽車。
うーん、この懐かしい響き。
今でもご年配の方は、JR利用はつい「汽車で」といってしまいますもんね・・・。
それはともかく、この当時のこの作品は、
今考えるよりももっと旅情に満ちた作品だったのだろうなあ・・・と、思います。

この雰囲気を踏まえつつ、映画がどのように仕上がっているのか、やはり見てみたくなりました。
これって、多分過去にも映画化されているのでしょうね。
モノクロのその当時の作品があったら、それも見たい気がします。

満足度★★★☆☆

ブロンコ・ビリー

2009年12月09日 | クリント・イーストウッド
ブロンコ・ビリー [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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男ブロンコ・ビリーの心意気

            * * * * * * * *

DVDのパッケージで、これは西部劇かと思ったのですが・・・。
舞台は現代ですね。
ブロンコ・ビリー(クリント・イーストウッド)は、
“ワイルド・ウエスト・ショー”という
カウボーイ仕立てのサーカスみたいな地方巡業をしている。
投げ縄があったり、馬の曲乗り、拳銃の曲撃ち、インディアンの踊りなんかがあったりするんですね。
子供達が目を輝かせてみてる。
しかしいくらなんでも、目隠しで、回転盤の風船撃ちは無理でしょう・・・。
あれは絶対インチキだと思うぞ・・・。


まあ、それはともかく、その一座に転がり込んできたのが、
リリー(ソンドラ・ロック)なんですね。
彼女は裕福な娘なのだけれど、遺産目当ての継母の言い付けで、
好きでもない男と結婚させられ、ハネムーンの最中。
しかし、夜も彼を拒んだので、
男は腹いせに、彼女の財産全て持って夜逃げしてしまった。
電話をかけるお金もないリリーは、
やむなく通りがかりのビリーの一座に拾われる・・・と。

またまた、ソンドラ・ロック。
この時期、イーストウッドの相手といえば必ず、ソンドラ・ロックなんですね。
しかしこれだけ見ると、どうもワンパターンが目に付いてくる。
つまり、気が強くて、いつもイーストウッドとは対立関係。
しかし、次第にお互いを深く知るようになって、恋に落ちて、ハッピーエンド・・・という・・・。
うん。まあ、確かに面白いのだけれど、いつもこうではね・・・。
ソンドラ・ロックにとって、イーストウッドとの出会いは幸運なんだけれど、
それが返って、彼女の女優としての道を狭めてしまったような感じだなあ・・・。
今、こうして、過去をふりかえるからこそ、いえることなんだけどね。

ここの一座のメンバーは、バラエティに富んでいて、楽しいよね。
インディアンや、ニセ医者やら、すねにキズをもつようなはみ出しものの集まり。
ビリーは彼らを拾い上げて、ショーを始めた。
またビリーは、ショーの合間に、無料で孤児院などの子供達にも曲芸を見せるんだね。
ちょっと泣かせます。
一座の皆を引き連れて、いつか牧場を持ちたいという夢を持ち・・・
でも、ちびちびとためてあったそのお金を、一座の1人のために、全て使わなければなくなったりするわけ。
これぞ、男ブロンコ・ビリーの心意気だいっ!!


1980年/アメリカ/116分
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ソンドラ・ロック、ジェフリー・ルイス


イングロリアス・バスターズ

2009年12月08日 | 映画(あ行)
グロテスクの中できらめく人物たち

* * * * * * * *

ナチス占領下パリ。
レイン中尉(ブッラッド・ピット)率いる連合軍の極秘部隊
“イングロリアス・バスターズ”は、ナチス軍人を血祭りに上げることが使命。
・・・といえば、反ナチスの戦争モノ・・・と思えますが、
この作品においては、そういう倫理的な思索は無意味と思ったほうがいいでしょう。
なにしろ、これはナチス狩り。
死んだドイツ兵の頭の皮をはいでコレクションするなど、
情け無用の残虐さは、ナチスのユダヤ人狩りと、その狂的さにおいては同等。
しかし、思わず目を背けたくなる映像もありながら、
嫌悪感だけではない、なぜか引き込まれてしまう不可思議な魅力がこの作品にはあるのです。
キル・ビルが好きな方なら、この世界もOKだと思います。


そもそも、“戦争”などというものが、もう狂った世界なのでしょうね。
その中で、いかに正義がどうのこうのといっても、
それは一方的なことだし、無意味。
それならいっそ、一般的な良識など振り捨てて、
徹底的にそれぞれの思いに突き進む人々の様を描き出してしまえ
・・・というようなことなのかなあ、と思いました。

それで、結構それぞれの人物が魅力的なんですよ。
悪役においてもね。


一番魅力的だったのは、ユダヤ人美女ショシャナ(メラニー・ロラン)。
家族をナチスに殺され、自らも危機一髪のところを辛くも逃れ、復讐を誓う。
彼女の大事な映画館や多くのフィルムを犠牲にしても、目的を果たそうとする。
あのラスト、密室となった劇場の一幕は圧巻ですね。
あまりにもかっこよく、壮絶なので、ひたすら口があんぐり。
いやあ、もうここはタランティーノ監督に脱帽です。
その決意を秘めたショシャナのこの写真、いいですねえ・・・。


ブラピのレイン中尉。
これもね、はまり役というか、こういうのブラピはいかにも好きそうですよね。
任務に忠実で熱心なんだけれど、どこかさめた部分もある。
ばかばかしさをわかっているけれども、仕事と割り切っている。
そんな感じ。


それから、この作品は実はこの人が主人公だったのでは?
とも思えてしまう、ランダ大尉。
なにしろ、冒頭シーンから出てきますもんね。
彼こそは、ユダヤハンターとも言われるユダヤ人最大の敵。
冷徹で、なかなかキレる。
しかし、なんとこの人が最後にはわが身かわいさにとんでもない行動に出ます。
いやあ、これくらいあからさまだと、かえって気持ちいいくらいです。
おぬしも悪よのう・・・。


この作品、2時間半と結構長いのですが、
結果としては面白くてさほど長く感じない。
だれも観たことのない、そして誰にも真似できない、戦争映画ですね。


2009年/アメリカ/152分
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ブラッド・ピット、メラニー・ロラン、クリフトフ・ワルツ、イーライ・ロス、マイケル・ファスベンダー


『イングロリアス・バスターズ 』予告編 11/20(金)、全国ロードショー



薔薇の名前

2009年12月06日 | 映画(は行)
薔薇の名前 特別版 [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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無知と迷信の中で・・・

           * * * * * * * *

時は中世、1300年代北イタリア。
人里はなれたある修道院に
修道士ウィリアム(ショーン・コネリー)と、
見習修道士のアドソ(クリスチャン・スレーター)がやってくる。
なにやらおどろおどろしい雰囲気。
きっと良くないことが起こる・・・。
そう、それから起こる連続殺人事件。

挿絵師の若い修道士。
ギリシャ語翻訳にあたる、修道士ヴェナンツィオ。
そもそも、この神に近いはずの場所で、なぜ人が殺されなくてはならないのか。
悪魔の仕業と恐れる人々・・・。


この、時代背景がもたらすムードが大きいのです。
この時代は、暗黒時代とも呼ばれ、キリスト教が人々を支配していた。
遠い昔に栄えた科学は数少ない書物の中に封印され、
宗教・・・というよりは
キリストの名の下に絶大な権力を得た宗教者たちの理論が全て。
それに反するものは、「異端」として排除される。
あの悪名高い「異端審問」の君臨した世界。

また、ここには付近に住む農民も登場しますが、
これがもう情けないくらいに貧しい。
ボロをまとい、教会の出す残飯に群がる。
ほとんど、原始時代のようだ・・・。
いや、これってすごくリアルなのだろうなあと思います。
文字や学問。
そういうものはごく限られた人々のものだったのでしょうね・・・。

無知と迷信と、そういうものに満ちた世界の中にあって、
この修道士ウィリアムは唯一近代的精神の持ち主なのです。
科学にしたがってこの事件を捜査しようとする。
とてもお得な役どころですが、ショーン・コネリーが実にぴったり。
この老境の師と、若き見習いアドソのコンビが物語りに活気を呼びます。


塔の中の迷路に隠された、古代の貴重な知識の詰まった書物の山。
ほの暗い時代背景の中に、理知という一条の光が差し込むのです。
そもそも、建物の中が暗いですよね。
電気がないので当たり前ですが。
ほのかにともる炎の明かりに照らし出される人物の顔。
なんだか普通でも怖いのです。
こういう舞台装置だけでも、雰囲気たっぷりなのですね。
また、貧農の娘とアドソのラブシーンや修道院の中にはびこる同性愛・・・
なんて隠微なんでしょう。
そして、ごく当たり前のように異端審問が行われ、
あれよあれよというまに火あぶりが決定され実行されてしまう。
生と死の境がなんて近いのでしょう、この世界は。
なんにしても、いろいろと想像が広がってしまうこの物語世界には、
すっかり魅了されてしまいました。

1986年/フランス・イタリア・西ドイツ/132分
監督:ジャン・ジャック・アノー
出演:ショーン・コネリー、クリスチャン・スレーター、F・マーリー・エイバラハム、イリア・バスキン

「夢見る黄金地球儀」 海堂尊

2009年12月05日 | 本(ミステリ)
夢見る黄金地球儀 (創元推理文庫)
海堂 尊
東京創元社

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「チーム・バチスタの栄光」から始まる、
やはり桜宮市が舞台のストーリーです。
でも、これは少し未来の話だったりする。
医療現場は出てきません。


桜宮市の水族館に鎮座している「黄金地球儀」。
物理学者の夢をあきらめ、家業の町工場を手伝う平介。
そして、8年ぶりに現れた悪友のガラスのジョー。
彼らが、この黄金地球儀の強奪を計画します。

しかし、なんともとんでもない話。
なぜかこの地球儀のセキュリティーを、平介の工場が請け負うことになってしまった。
しかも、これには保険がかけてあって、
もし盗難にあった場合には、平介の工場が倍賞責任を持つ。
つまり、せっかく盗み出したとしても、
その分の補償費を自分で払わなければならない。
・・・そんな馬鹿な! 
それでは盗むだけムダ・・・。
しかし、そこからが面白いところなのですねえ。
どうやってこの四面楚歌の状況から脱出するのか。
ぜひとも、読んで確かめてください。


この状況打破には、実はここの鉄工所で開発された様々なアイテムが役に立ちます。
この工場主にして平介の父親、豪介は、まさしく天才。
平介はこんな父親を尊敬していて、
彼を手伝いために物理学者を目指したのですが、道半ばで断念。
ちょっぴり、ホロリとくる、そんな逸話も混じっているところがミソ。

球体の内空を削り取る『ケズリン』
ジェット水流切断機『ストレートフラッシュ』
ゴキブリを叩き潰す『ゴキブリボコボコ』
その姉妹品『ハエパシパシ』に『シラミプチンプチン』・・・
実際に役に立つかどうかはともかくとして、
これは確かな技術に支えられたものでありまして、
実際にこういう技術があれば日本の未来も明るいのでしょうけどねえ・・・、
などと思ってしまう。
また、この水族館の特筆すべき展示品は深海生物「ボンクラボヤ」に、「
ウスボンヤリボヤ」。
これらのネーミングだけでも、楽しいですよね。

だからといって、下らぬドタバタコン・ゲームかと思えば、
しっかりと押さえるところは押さえ、二転三転して、オドロキの結末。
まさに、文句のつけようのないエンタテイメントです。
また、この海堂作品を読み続けている人には、
なんとも懐かしい出会いがあります!
すっかり転身を図ったある男女。
・・・これだから、目が離せません。

でも、この作品で初めて海堂作品を読むという方でも、全然問題なく楽しめます。
ご心配なく、ご覧ください。

合言葉は"ジハード、ダイハード!"

満足度★★★★★

モンテーニュ通りのカフェ

2009年12月04日 | 映画(ま行)
ジェシカが立ち会うそれぞれの人生の再生

          * * * * * * * *

パリのモンテーニュ通りに実在するカフェが舞台です。
付近にコンサートのホール、演劇の舞台、美術品のギャラリー、
高級ホテル、有名メゾンに四つ星レストラン・・・。
まさにパリを象徴するような芸術と文化とセレブの香りが漂う、この近辺。
それらに関わる様々な人たちが、このカフェにやってきます。

ジェシカはふらりとこの街にやってきて、人手不足のこのカフェに職を得ます。
TVの人気女優、有名ピアニスト、美術収集家。
ジェシカが見かけたお客のこの人たちは、一見誰もが羨む位置にいます。
それぞれの第一線で成功を収め、光り輝いているように見える。
けれども実際は、それぞれが行き詰まりを感じ、悶々とした思いでいるのですね。

まもなく、盛り上がりの夜が訪れます。
女優の舞台初日。
ピアノのコンサート。
美術収集家のコレクションを全て売り払うオークション。
そしてそれはまた、劇場の管理人の退職の日でもある。
それぞれのここ数日の鬱屈した思いに、答えが出ます。
特にジェシカが大きな役割をするというわけではありません。
いうなれば、ジェシカはそれぞれの立会人。
彼らが出す結論は、それも人生大逆転などという派手なものではないのです。
彼らの静かな再生を温かなまなざしで見つめる、そういう作品です。


この、ジェシカ(セシル・ドゥ・フランス)がいいですね。
男の子並みのショートヘアに好奇心たっぷりのまなざし。
思い切りがよくてかわいらしい。
全体に静かでシックなトーンの中に、活気があってきらりと光る。
まさにパリの雰囲気に満ちていまして、魅せられます。


ピアニストが好きでしたね。
コンサートはベートーヴェン、ピアノ協奏曲5番「皇帝」。
この曲、大好きなんです。
得した気分。
ピアニストは、曲の途中で演奏を中断し、言うのです。
「皆さん、暑くありませんか。私は暑くてたまらない。ちょっと失礼。・・・」
そして、タキシードを脱ぎ、蝶ネクタイをはずし、
ワイシャツまで脱ぎ捨てて、
下着のシャツ一枚になって演奏再会。
戸惑い、あきれていた観衆も、最後にはスタンディング・オベーション。
クラシックコンサートなんて、気取ったお金持ちのアクセサリにしか過ぎない。
彼はもっと生活に根ざした、
ごく普通の人たちに楽しんでもらう音楽をやりたい・・・。
そういう思いの結果だったのでしょう。

ふっと吹っ切れる瞬間。
私たちは、この作品でこういうところをいくつか目撃するのです。
まるで、ジェシカの魔法のようです。


このジェシカのおばあさん役、シュザンヌ・フロンという方は、
この作品の撮影直後に逝去されたそうです。
でも、こんなステキな作品が最後というのはちょっぴり幸せですね。

2006年/フランス/106分
監督:ダニエル・トンプソン
脚本:ダニエル・トンプソン、クリストファー・トンプソン
出演:セシル・ドゥ・フランス、バレリー・ルメルシエ、アルベール・デュポンテル、クロード・グラッスール



モンテーニュ通りのカフェ [DVD]

アミューズソフトエンタテインメント

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「高橋留美子劇場 3」 高橋留美子

2009年12月03日 | コミックス
高橋留美子劇場 3 (ビッグコミックス)
高橋 留美子
小学館

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高橋留美子さんの短編集です。
1・2も、読んでいるのですが、記事にはしていなかったみたい・・・、
スミマセン。
ここに載せられている短篇は、どれもごく普通の人々の日常なのですが、
ふっと物悲しく、そしてユーモアも漂う秀作ばかりです。


冒頭、「日帰りの夢」
さえない中年男、東雲のところに舞い込んだ中学の同窓会の連絡。
彼は転校を繰り返していたので、特に親しい友人もなく、
これまでそんなものに出たこともない。
しかし、発起人の「志摩聖子」の名前を見て、心が動く。
清楚でかわいくて、ちょっぴりあこがれていた・・・。
家では妻にも息子にもほとんど相手にされない反動もあって、
思い切って地方のその同窓会に出席することに。
何十年ぶりかの再会を前に、あらぬ妄想が広がる東雲・・・。
しかし、彼女に実際に会ってみれば・・・!!
いや、笑えないですよお。
自分の中でも、こんなあらぬ勝手な妄想を抱くことくらい、
誰にでもありますよね・・・。
でも、しかし、やっぱり家族は家族。
おとーさんを心配して待っていた家族がちゃんといて、よかったですね。


「赤い花束」
これはちょっと異色。
主人公の吉本は、いきなり死んで登場します。
まさにそのお葬式。
宴会で余興をしているところでポックリ。
なので、彼の霊魂は情けなくも、上半身裸のお腹には顔が落書きしてあるし、
頭にはネクタイのハチマキ。
そんな姿で登場します。
気になるのは、残された妻と息子なのですが。
なぜかちっとも悲しそうではない。
妻などはむしろサバサバとした様子。
さすがにこれには胸が痛んでしまう霊魂の吉本。
いつも仕事仕事と忙しく、
息子が万引きで捕まったときも、
母親1人でナントカしなければならなかった・・・、
そんなころから、妻の心は離れていたらしいのですが・・・。
そんな時、葬儀というのに大きな赤い花束が届くのです。
そこでとうとう泣き崩れる妻。
さて、この花束の意味は?


もっぱらまじめな仕事人間。
しかし、家では妻と子供に疎まれて居場所がない。
そんなさえないお父さんの話が多いですね。
だから、ついよその女の人に心引かれたりしちゃうのだけれど、
結局踏み切れず、
または、勝手な自分の思い込みだけでぽしゃってしまう。
それで結局は家に戻るしかないのですが、
気がついてみるとやっぱりそこが自分の居場所だったりする。

いいんじゃないですか。
こんな平凡な人生でも。


満足度★★★★☆

2012

2009年12月01日 | 映画(な行)
地球破滅の映像におののく

* * * * * * * *

数ある「地球最後の日」のうち、相当リアルなもののうちの一つといえると思います。

太陽のニュートリノが変異し、地球のコアを過熱。
その熱で緩んだ地殻が崩壊。
大地震、噴火、大津波。
なるほどこれでは、人類のほとんどが滅亡するはず・・・。
2012年、という微妙に近いところがミソですね。
これが2009や2010なら「ウソツキ」といいたくなるけれど、
遠すぎない未来、ちょっとドキドキさせられます。

数年前に危機を察知して極秘にサバイバルの計画を立てていた米大統領とその側近、科学者。
その一方、何も知らされない一般人の代表として、
売れない作家のジャクソンとその家族を描くあたりで、親近感を持たせます。

それにしても、この家族設定が・・・、どうしていつもこうなのでしょう。
別れた妻が子供達と共に暮らしていて、夫は寂しく1人暮らし。
定期的に会う子供達にはあまり尊敬されていない・・・。
しかし、この地球最後の日の土壇場に来て、見せる父親の底力。
それでようやく、家族の絆を取り戻す・・・。
このパターン、何回も見ているような気がするのですが・・・。

そしてまた、あまりにも映画的といえば映画的、数ある危機一髪シーン。
あまりにも、ご都合主義。
ちょっとやりすぎ・・・。

おっと、けなしたいわけではないのですが、
まあ、予告編を見たときから、
ストーリー的にはこんなものだろうと予想はついていたので、
さほど失望はしませんでした。
エンタテイメントと割り切ることです。


さて、そのストーリーの難を隠して余りあるのは、やはり、この映像なんですね。
大迫力。
大地が裂け、ビルが崩れ落ちる。
大都市が丸ごと割れて海に滑り込んでゆくシーンは、
あまりのすごさに、恐れおののいてしまいました。
高台に避難したくらいではどうにもならない、信じられない大津波。
この作品はこの映像こそが命。
ここにこの迫力がなければ、全くお笑い種のものになってしまうでしょう。


さて、実はだからこの作品、
見たいとは思っていたのですが、別に急ぐこともない・・・と思っていたのですね。
ところが先日、たまたまテレビでNHKを見ていたら、
なぜかこの「2012」のCGシーンが映し出されて、
何かと思えば、「クローズアップ現代」という番組でした。
この作品のVFX制作会社でメインスタッフの1人として活躍している日本人、
坂口亮さんの特集。
思わず、しっかり座り込んでみてしまいました。
まあ、それでにわかに興味がわいたのです。

ちょっとご紹介しますね。
坂口亮。1978年生まれのこの方。
現在ロサンジェルスの視覚効果映像作成会社デジタルドメイン社に勤務。
日本の大学在学中に、CGの勉強をするため渡米。
特に、CGで水を表現したい、という思いがあって、
そのためには流体力学の勉強が必要だった。
その数式を理解するために、彼はもともと文系だったのに、
数学の一からやり直し、オフタイムを全て費やして独学で学んだという・・・。
アメリカ社会の中で頭角を現すというのは、並大抵ではないと思うのです。
頑張っている人を見るのは、気持ちのいいものですね。
ちなみに、彼が関わった作品は、
ロード・オブ・ザ・リング、
デイ・アフター・トゥモロー、
パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンドなど。
特にこのパイレーツ・・・ではアカデミー科学技術賞を受賞しています。
あの、地の果て、海の果てるところで、
海水が滝になって流れ落ちているシーンですね。
(そういえば私はあのシーンで、
これではまもなく海が干上がってしまう・・・などと思ったのでした。)

彼のブログを覗いてみたら、CGの話ではなくて、
アメリカの中で日本人がしっかり自己主張していくための
ノウハウが書かれていましたよ。
・・・やはりそういうところで、苦労があるのだなあ・・・と、感じた次第。

この作品では、地割れのシーンで椰子の木が揺れて倒れていく様子とか、
ビルの崩壊の仕方とか、
街のゴミが舞いあがっているところとか・・・・、
実に細かいところまでこだわって表現しているといいます。
そんな話を聞けたのも、お得でした。
「リアルであればあるほど、CGと気づかれない、あたりまえの映像に見える。」とも言っていました。

ともかく、このようなことを先に知っていたので、
特にCGシーンは身を乗り出してみてしまいまして、たっぷり楽しみました。
だからまあ、今回は私にとってストーリーはおまけみたいなものだったので、
満足満足。
エリザベス女王も船に乗っていましたねえ。コーギー連れて。

2009年/アメリカ/158分
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:ジョン・キューザック、キウェテル・イジョフォー、アマンダ・ピート、オリバー・プラット


映画 「2012」 予告編 (Japanese Trailer)