映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ブラック・ペアン1988 上・下」海堂 尊

2009年12月28日 | 本(ミステリ)
ブラックペアン1988(上) (講談社文庫)
海堂 尊
講談社

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ブラックペアン1988(下) (講談社文庫)
海堂 尊
講談社

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「チーム・バチスタの栄光」へと続く原点、というこの作品。
舞台は、この表題の通り1988年。東城大学総合外科。
おなじみの、チーム・バチスタシリーズから時代はさかのぼりますが、
ここには後に登場する、数々のおなじみの人物が若い姿で登場。
思わずにんまりしてしまうのです。
例えば、すっかりおなじみグチ外来の田口医師や
「ジェネラルルージュ」こと速水医師が
まだ学生で、研修に来たりするんです。
田口は、手術室で血を見て卒倒したりする・・・。
ファンならもう、楽しくて仕方がないですね。
しかし、そういうことを知らずに、初めて海堂作品にふれるという方でも、
もちろんこの作品は面白く読めると思います。


佐伯教授が君臨する、この教室。
そこに他大学から高階講師が送り込まれてくる。
彼は「スナイプAZ1988」という、
食道癌手術を容易に行うことができるという新型機械を持ち込む。
いや、機械などに頼るべきではない、医師の技術がモノを言うのだ、
と反発する佐伯、そして、一流の腕を持つ、渡海。
ここは、どちらがよいかという結論は特には出ないのですね。
超ベテランというほどでない人でも、手術が容易に行えるのは結構なことだし、
しかし、もし万が一のことがあったときに頼れるのはやはり人の手。
機械があるとしても、手術の技術を衰えさせることはできない、と。
このような論議をするうちに、大切なものが見えてきます。
医師が大切にすべきもの、それが熱く語られているのも大きな魅力です。


しかし、この本の真のテーマはこれではなくて、
やはりこの表題、「ペアン」ということになります。
ペアンというのは、手術中、止血するために使う器具ですね。
ハサミに似たような形をしている。(らしい)
これが、ある患者の腹部のレントゲン写真に、くっきり映し出されていた。
これは以前、高階教授が手術した時に体内に置き忘れられたものらしい。
しかも、その後それに気づいた人がいて、
手術で取り出そうとしたら、高階教授に止められた、というのです。
医師として、名誉・地位よりも、
実医療を大事にするとして尊敬されているこの教授に、
こんなことが本当にあるのだろうか。
だとしたら一体その真意は・・・?

この真相には、感動を覚えます。
最後の真相解明により与えられる、どんでん返しの感動。
こういう点で、このストーリーは単に医学小説というのではなく、
医学ミステリと呼ぶべきものになっているわけなんですね。


ところでこの本は、上・下でもそうたいした分量ではないのですが、
なぜわざわざ上下分冊なのか。
そのほうがよほど謎なんですけどね。

そうそう、先日読んだばかりの、
桜宮市の水族館に設置された黄金地球儀の話まで話題に出ていまして、
いやあ全く侮れない、この海堂ワールド。
今後もまだまだ楽しみです。

満足度★★★★★